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いつか王子様が
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| 006 |
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甘い口づけのひとときを遮ったのは、携帯電話の味気ない電子音だった。
「ちょっとあかね!まだ先生つかまらないの?みんな正門で待ってるんだけど」
調子に乗ってしまったらしい。すっかりルイたちを待たせていることを忘れていた。
慌てて二人は正門まで駆けつけ、既に車に乗り込もうとしていた彼女たちにやっと追いついた。
「煎堂さん、これ……先生からプレゼントだって」
あかねの手に抱えられた大きな花束が、彼女の前に差し出された。
「おそらく、この中で一番最初の花嫁になるだろうからね。月並みな贈り物だけれど、受け取ってもらえるかな?」
鮮やかなグリーンの葉と、カサブランカの白が優しく映える。誰からでもなく拍手が始まり、花の香りとともに彼女を包み込んだ。
「…ありがとうございます。」
深々と頭を下げた彼女は、少し泣きそうな目をしていたけれど、決してそれは悲しい涙ではなくて、歓喜によって生み出される美しい表情だった。
「そうだ!先生!これプレゼント!」
ルイが車のトランクケースの中から、シックなシルバーのリボンを彩られた箱を取り出した。
そしてそれは、友雅へと手渡された。
「先生、お誕生日おめでとうございます!シャンパンが好きだって聞いたので、みんなで出し合って良い銘柄のボトル、選んできました。受け取ってください!」
いきなりのギフトケースに、しばらくぽかんとしていた友雅であったが、隣のあかねが笑ってこちらを見ていたので、純粋に胸の中が暖かくなってきた。
「卒業しても、誕生日を忘れないでいたとは、嬉しいものだね。有り難く頂かせてもらうよ。」
そう言えば彼女たちが高校生だった時は、もらったものは大概が手作りのお菓子やら、良くてネクタイピンなどが多かったけれど、二十歳くらいになるとこんなボトルを選ぶことが出来るようになるものらしい。
もう、子供ではないのだ。子供だと思っていた姿は、もうここにはないのだ。
友雅と同じように、大人として認められるだけの存在になりつつあるのだ。
「他の皆も、王子様に会うことが出来たら報告しなさい。花束くらいなら、いくらでも贈ってあげるよ」
それはきっと、あまり遠くない未来になるだろう。
+++++
殆どが相乗りでやってきたために、一台一台の車の中はぎっしりと満員状態だった。
これからまた、しばらくの間はそれぞれが顔を合わせることはないだろう。あるとしたら、煎堂の結婚式に呼ばれた時だろうか。
「みんな、招待状送るから来てね。それと、出来たら先生も……」
オープンにしたウィンドウを挟んで、煎堂が言うと友雅は微笑んでうなづいた。
ゆっくりと、それぞれの車が走り出した。一人ずつ、自分の生活に戻るための帰路につく。
ヘッドライトが眩しく感じられるほどに、夜は更けてきていた。
「終わったね。疲れちゃった……」
ためいきと同時に、肩をかくんと落として力を抜いたあかねを、友雅の片手が引き寄せた。
「お祝いの同窓会は終わったけれど、誕生日はまだ済んでいないけど?」
「…勿論。メインイベントは、これからだもんね」
肩を抱いたまま、再び校舎の中に戻っていった。
-------その頃、煎堂の乗った車の中では、一大騒動が起こっていたのをあかねは知らなかった。
「ねえ、ともちゃん…来年の私達の結婚式、やっぱりみんな呼びたいよね?」
大袈裟な式じゃなくていい。でも、仲の良い友達には祝福されて結ばれたい。
ただ、これまで隠してきた関係を、どうやって告げようか…そのタイミングが一番の問題。
まさか、あかねが友雅と婚約しているなんて、多分誰一人として考えたことなどないだろうから。
どんな反応が返ってくるだろう……。
「大丈夫だよ。もう連絡してある」
「えっ?」
あかねは友雅の言葉の意味が、飲み込めないまま顔を上げた。
「さっき渡した花束にあったメッセージカードに、そう書いておいたからいずれみんな分かるよ」
足が止まった。
というよりも、身体の動きがぴたっと止まった。
「と、ともちゃん…言っちゃったのっ!?」
あかねたちを知っている生徒がいなくなる、来年まで隠しておこうと約束していたはずなのに。まだ、半年以上も期間は残っているのに…。
どこかから、噂が広がったら…友雅の評判に関わるんじゃないだろうか。
いくら卒業したとは言え、教師と生徒という関係は存在していた事実なのだし。
「別に、もう気にしなくてもいいんじゃないかい?」
戸惑っているあかねとは正反対に、さらっと友雅は答えた。
「あかねが言っただろう。年齢差なんて、今は関係ないんだって。だったら、私たちの関係だって、咎められることなんてないと思うんだけれどね」
「でも、色々あちこちからうるさく言われたら……」
一般論では、どうしてもスキャンダラスなイメージのある肩書き。
これからの友雅に、傷がつくようなことがあったら、それこそ問題だと思っていたあかねだったが、どこか友雅の方は吹っ切れていたらしい。
「教師と生徒の関係に固執しなければいいんだ。私は、教師として生徒であるあかねを好きになったわけじゃない。個々の人間として、あかねを好きになったんだよ。あかねはどうだい?私を教師として、想いを寄せていたのかい?」
…教師である友雅を、何度か先生として見ようと努力してきた。
だけど、いくらやってもダメだった。生まれたときからの記憶が邪魔をして、あかねの目に映る友雅は、いつでも『初恋の相手』という肩書きを拭えずにいた。
好きだった人が、たまたま教師だっただけのこと。そう、それだけのことなのだ。
「いずれは打ち明けることになっていたし、私たちと同じように年の差があっても結ばれることに違和感を持たない、そんな人がいたと知ったからね。だからもう、隠さないでいようと思ったんだよ」
そっと伸びた手が、あかねの両手を引き寄せた。
「私はあかねと結ばれる約束が出来て、嬉しいと思っている。だからこそ、誰にでも祝福されたいと思うから、隠したくないんだ。あかねは、私の……自慢だからね」
「……自慢?」
「そう。私の……自慢の宝物だからね。」
もう、誰もいないから。隠れる必要がないから。
少し背伸びして、キスをした。
抱き留めてくれる腕が強くなって、重なる唇に熱を込めた。
「だったら、ともちゃんは…私の自慢の…王子様だね」
ずっと見守ってくれていた、王子様。いちど離れてしまっても、いつか再び出会えると信じていた、憧れの王子様。
王子様とお姫様は、いつか必ず結ばれる。
それは……来年の紫陽花の季節。王子様の誕生日。
”結婚おめでとう。その幸せを、来年結婚する私とあかねにも分けてもらえると嬉しいね。”
-------
THE END
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