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「それにしても、随分と年令の離れた相手と巡り会ったもんだ、とこないだ言ったけれど……」
コツコツと足音の響く廊下を歩きながら、友雅が口を開いた。
「他人の事は言えないね。私たちも似たようなものだ」
床に映る二つの身長は、お互いの年令差を現すかのように段差が出来ている。
生まれた時から一緒にいたけれど、タイムマシンでもなければ、あかねは友雅の幼い頃を知る事は出来ない。
どうやっても、差は狭める事は不可能だ。でも、お互いに歩み寄ることで、距離を近づける事が出来る事を知った。
「別に、気にするような年齢差じゃない、ということかな。あかねぐらいの年の娘にとっては」
ガーデンライトに薄く照らされた彼の横顔が、少し微笑んでいるように見える。
「最近、年の差カップルとかも増えてるし…だから、昔みたいにそれほどこだわる人もいないんじゃないかなぁ」
週刊誌やワイドショーでは、当たり前のように連なるスキャンダルの中で、一回り離れたカップルのことなど珍しくなくなった、
「それに、今ってみんな若くて綺麗な人が多いし。時々年令聞いて、びっくりするくらい綺麗な人とか、若く見える人だっているもん」
「表面はどうにでもなるけどねえ…。中身は結構、老け込んだ考えをしたりする人もまだいるよ」
相手が自分よりも年下だったとき、考え方の違いに触れて我にかえることがある。
そんなとき、やはり時代が流れているのだなと思う。そして、そこに取り残されている自分に気付く。
進んで行く時間に着いて行けずに、その場に立ち止まっている自分を見つける。
「ともちゃんは、そんなことないでしょ」
ほんの少しだけ先を歩いていたあかねが、振り向く事もなくさらっと答えた。
「みんな言ってたもの。ともちゃんはね、ともちゃんと同じくらいの人よりも、もしかしたらともちゃんより若い人よりも、ずっとセンス良いし素敵だって盛り上がってたよ?」
ベージュのローヒールが、床を叩く。あかねの肩先で、白いカサブランカが揺れる。
「ともちゃん、自分で思ってるほどオジサンじゃないからね?全ー然!まだまだ若いよ?」
くるっと振り返ったあかねの表情は、軽く舌を見せて悪戯っぽく笑っていた。
「……大人をからかう技を得たようだね」
苦笑しながら友雅は、声を上げて笑いながら逃げるあかねを追いかけた。
生意気な口をききながらも、はしゃぐ姿は全然大人びていない。
まだまだ子供だ、と言いたいのはこちらの方だけれど、あきらかに変化しているあかねを目の前で見ていると、子供扱いが出来なくなる。
いつのまにか対等にこちらを見るようになって。追いかけてきていたのが、いつのまにか隣にいて。
時々早足で先に進みながらも、様子を伺いながらその場を離れない。
お互いの距離は、これ以上狭まれないところまで来ている。
昇降口の突き当たりで、あかねをやっと追い詰めた。腕に抱えられた花束を、大切そうにかばうような仕草で手で支える。
「離して。バラがつぶれちゃうよ。」
笑いながらあかねは言ったが、友雅はその手を解きはしなかった。
「さっきの話。あかねは、どう思ってる?」
「…どうって?」
壁に両手を当てて、その腕の中にあかねを閉じこめたままで、友雅は顔を近づける。
「他の娘達が私を好意的に思っているのは、それなりに嬉しいのだけれど…それよりもあかねが、どう思っているかの方が気になるね」
唇を耳元に寄せる。吐息混じりの言葉がくすぐったい。
「あかねは、どう私を見てるんだい?」
耳から外れた唇は、なぞるようにしてあかねの頬に移動した。
「今更言わなくたって、ともちゃんなら分かってるでしょ……」
ずっとずっと、憧れていたのはたった一人だったのだから。
どんなに地位と名誉を持った御曹司より、どんなに華やかなルックスを持った男性よりも。
誰もかなわないくらいに………素敵な王子様。たった一人の、あかねの王子様。
花束を壊さないようにして、少し身体を前に倒して友雅に自分から近づこうとすると、向こうから徐々に吐息が唇へと近づいてきた。
ひっそりとした、暮れゆく校舎の片隅。ほんの少しだけの時間を二人で過ごした。
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