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毎日がValentine's Day
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| 006--------- |
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駐車場に着くと、あかねのPASSOの隣に停まっているBMWは、既にエンジンがかかっていた。
寒さのために、少し曇っている内窓。
それでもあかねが車に近付くと、すぐに運転席の窓が開いた。
「遅かったね。急変した患者がいたわけじゃないだろう?」
「そうじゃないですよ、ちょっと長話が終わらなくって」
助手席に乗る前に、後部座席にバッグを置こうとドアを開けると、中には山のような紙袋と箱が積まれていた。
「相変わらず…贈り物すごいですね」
「私だけにというわけじゃないよ。みんな"奥様とご一緒にどうぞ"って言いながら、置いて行ったよ」
クッキー、紅茶、もちろんチョコも。
ココアとかケーキとか、色々あるけれどすべて二人分だ。
今更彼に本命の贈り物をするような、無謀なことをする者はいない。
四丁目の洋菓子店に寄って、ガトーショコラを受け取った。
「レジが凄く混んでて、時間掛かっちゃいましたよ〜」
店の前で待っていた友雅のところへ、チョコブラウンの紙袋を持ってあかねが戻って来た。
それほど大きくはないけれど、味は格別に良いのだ。
あかねは自分の舌で確かめたので、それだけは間違いない。
「じゃ、ちょっと買い物して帰りましょ」
「食事の支度は、用意してくれてるんじゃなかったのかい?」
夕べ色々と下ごしらえをしていたようだし、今夜のディナーの仕込みは出来ているかと思ったのだが。
それでもまだ、買い残しがあるのだろうか。
すると、あかねがと友雅の腕に手を絡めて、引っ張るように前に歩き出した。
「食べ物とかじゃなくて、別の買い物をしたいところがあるんです。友雅さんも、付き合って下さいね」
彼の手を引いて、エスカレーターへ。
5階まで吹き抜けの天井からは、ハートのオブジェが星のように輝いていた。
当日とは言っても、まだまだチョコレート商戦はリアルタイム。
ブランドチョコのコーナーには女性客が並び、特設コーナーのスイーツも賑わっている。
そんな中を通り過ぎて、あかねはどんどん奥の方へと進んで行く。
やがて混雑は少しずつ過ぎて行き、視界が広がった先にあったのは手芸店のテナントだった。
「何だい、また買い物代行かい?」
「ううん、今日は自分が編むための買い物です」
そう言いながらも、あかねは可愛らしい色の毛糸コーナーに見向きもせず、落ち着いたモノトーンの毛糸が並ぶ棚の前で足を止めた。
「どの色が好きですか?今度は友雅さんが選んだ毛糸で、編み物作ります」
何げなしにひとつ、手に取る毛糸玉。
チャコールグレイの、少し太めのモヘア糸。
「これくらいなら仕事場でも…派手ではないかな」
「うん、良いと思いますよ。そんなに大作は出来ないですけど、マフラーで良いですか?」
「…あかねが編んでくれるなら、どんなものでも構わないよ」
じゃ、マフラーで決定!と毛糸を数個かごに入れて、アクセントに模様を入れようと、少し明るめの色の毛糸もいくつか。
模様編みは手間が掛かるけど、色を変えた模様なら簡単だ。
「どうしてまた急に?手伝っていて、自分でもやりたくなったのかい?」
「ん、そんな感じです」
レジで支払いを済ませて、二人は会話しながら店を出た。
人通りの多い中央広場から比べて、こちらのエリアは客も少なくて静かだ。
「友雅さんに手編みって、プレゼントしたことなかったから、してみたくなって」
きっかけは、さっきのイノリからの言葉だったけれど。
でも、いろいろ考えていたら、そんな風に思うようになってきた。
だって昔は、彼氏が出来たら手編みのセーターをプレゼントするんだ、とか本気で思っていたじゃないか。
あの子のように、好きな人に編んであげたいって、自分も思っていたことがあったのだ。
もう一度、やり直してみようと思った。
今、自分の隣には大切な人がいる。
その人のために、一目ずつ心を込めて編むことを。
……それに、相手が自分の手編みを欲しがってくれているなら、なおさらじっとしていられない。
「バレンタインには間に合わないですけど、出来たら受け取ってくれますか?」
「おや、私が断るとでも思ったのかい?」
あかねが作るものなら、どんなものでも。
「さっきも言ったばかりだろう。もう忘れてしまったのかな?」
暖かなスープも、冷たくしたワインも。
きちんとアイロンをかけたシャツも、そっと枕元に忍ばせてくれるアロマも。
彼女が自分のためにしてくれることならば、どんなことだろうと至福になる。
「出来る限り、早く仕上げられるようにしますね」
「ああ、楽しみにしてるよ。でも、私の------------------」
そこまで口にした時、あかねが立ち止まって振り返った。
人の気配のない、薄暗いガラガラの駐車場。
BMWの前で、少し彼の方に身を寄せて。
「"私の相手も忘れないように"ですよね?」
あなたのために編み物をするけれど、顔を上げてあなたを見つめることを忘れちゃいけない。
あなたがそこにいるから、この気持ちが存在しているのだと。
「寒いから、早く車に入ろうか」
完全に密閉されていない駐車場は、夜風が流れ込んで来る。
コートを着ていても、寒いという感覚は拭いきれない。
だけど、理由はそれだけじゃなくて。
「ん………」
どちらからともなく、近付いた唇は当然のように重なる。
まだ離れたくないけれど、このままだったらキスだけでは終わりそうにないから。
「さ、急いで帰ろう。やっぱり二人きりで過ごせる部屋の方が、何かと都合が良いしね」
羽目を外しても、二人だけなら平気。
時々天使様に怒られたりするけれど、それもまた愛の鞭…なんて言ったら変に取られるかもしれないけれど。
結局は、触れ合えば何より強く心を通わせられる。
そうして、互いが幸せであることを感じるのだ。
それから早、1週間過ぎた頃。
今夜の当直である友雅が、夕方出勤してきた。
「あ、橘先生お疲れさまです」
「今夜はまた冷えそうだね」
医局に入ってきた友雅は、まずコートを脱いでロッカーへ放り込んだ。
しかしその首に軽く巻かれた、チャコールグレイのマフラーは、まだそのままになっている。
「暖かそうなマフラーですねえ。もしかして奥さんの手編みですか?」
「これは天使様のご加護が詰まった、特製のマフラーだよ」
柔らかくて暖かくて、まるで彼女そのものみたいな。
「…先生、上機嫌だな…」
遠目で眺めていた森村たち研修医が、友雅の様子を見てぼそっとつぶやく。
室内なんだから外しても寒くないだろうに、あれじゃ当分手放しそうにない。
「そこまであかねの手編みが、嬉しいんスかねー…」
ああも反応が素直だと、見ているこちらも脱力してしまうけど。
まだまだ二人の間に飛び交うハートたちは、増殖していきそうな気配。
今日も、明日も、明後日も…毎日がバレンタイン気分。
朝目覚め、夜眠る。
そんな24時間の中で、何度も何度も恋を自覚する
-----THE END-----
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