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Take it easy
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高速に入って5分ほど走っていると、徐々に反対車線の車が繋がり始めた。これくらいならまだ渋滞本番ではない。しかしあと30分もすれば交通情報でアナウンスされるだろう。
幸い友雅たちの帰路ルートは逆方向なのでここまでではないが、IC近くになると渋滞が始まるので出来るだけ早くそこを通過しなければならない。
そうは言いつつ、常に安全運転はキープ。助手席にいる相手の命も掛かっているのだ、気を引き締めるのが義務。
しかし車内の空気に緊張感を漂わせてはダメだ。
ほどほどのリラックスを保つのも安全運転の条件だ、と言っていたのは免許取りたての薬剤師だったか。
「で、今の子たちと私の頃とあまり変わってないなーって」
「あかねだって卒業してから10年も経っていないのだから、あまり変化は感じないだろう」
「そうですけど、やっぱり現役の学生とは違うかなって思ってたから」
話題はもちろん講演会の話一色。
どんな話が一番反応があったか、休むことなく話し続けるあかねに耳を傾ける。
「でも立派に話せていたじゃないか。堂々としていたよ」 「…もしかして講演見てたんですか!?」
「早めに着いたからちょっとだけ。舞台袖に案内してもらって」
友雅が見てたなんて、全然気付かなかった!
来ていることが想定外だったこともあるけれど、彼の気配さえ分からなかったのはその分緊張していたせいもあったか。いや、気付かなくて良かったのかも。講演中に姿を見つけたら動揺してた、間違いなく。
「心配していたんだよ、これでも」
ハンドルを握り、視線は前に。
でも、心はいつも隣の助手席に。
「夕べのメッセージ、すごく力になりました」
「Take it easy?」
「うん、Take it easy」
液晶画面に映る味気ない出来合のフォントが、彼からの言葉だと思うと特別なものに見えた。まるで声が聞こえてきそうな。そこにいないのに、耳元で囁いてくれる彼の声が聞こえる気がした。
気楽にね。肩の力を抜いて。
いつも通りで良いんだよ。頑張って--------って。
運転席の窓から見える反対車線の車のライトが、明るく見える時刻になってきた。
街の夜景はいつにも増して、カラフルなイルミネーションが色とりどり。
「もうすぐクリスマスだし年末なんですよねえ…」
期末試験も終わって冬休みが近い、という話も出た。今年も終わりが見えてきている。一年というのはあっという間だ。
「クリスマスだけじゃなくて、お正月の用意もしなきゃ。まだまだ忙しいなー」
25日まではもみの木やリースだったものが、たった一日でしめ飾りや門松へと交代する。12月が忙しさを強く感じるのは、こういった目に見える季節の早変わりのせいもある。
「それなら忙しくしない方法を探すのはどうだい?」
「忙しくしない方法…?」
手間の掛かる大きな掃除は、クリーニングサービスを頼むとか。
クリスマスは料理をしないで、外食で済ませるとか。方法はいくらでもある。
二人とも年末は忙しい身。時間をお金で買うのも選択肢の一つ。これで気分が楽になれば、高い買い物でも無駄遣いでもない。
「そうしちゃおうかな」
「今回の講演会の疲れもあるだろうし、そうした方が良いよ」
帰ったらさっそくマンションのサービスに申し込もう。
キッチンやバスルームなどの水回りは特に大変だから、正直プロにお任せしたい箇所だ。
「で、時間に余裕ができた分は、年末年始でどこか骨休めに行こうか」
「旅行!?それ、私もちょっと考えてたんです。でも今からじゃ色々遅いかなとも思ってて…」
年も押し迫ってきているし、宿泊施設やツアーも多分とっくに受付終了している時期。公共交通機関を使って行ける近場で、どこか空いているところがあればラッキーなのだが、逆にそういう場所はすぐに埋まるか…。
「いっそのこと海外を視野に入れてみるとか」
「ええっ、海外ですか!?」
1週間近くまとまった休みが揃って取れるなんて、年末年始くらいしかないのが現状だ。そういう時こそいつもとは違う、非日常を楽しめる海外に行ってみるのも良いのでは?と彼は言うけれど。
「でも海外は往復の時間で結構掛かるし、それで疲れちゃいませんか」
「グアムなら3〜4時間だよ」
唐突に彼から南国の地名が出た。
青い海、ヤシの木、マリンスポーツ、トロピカルアイランド…。
寒さが厳しくなってきている日本で聞くその地名は魅惑的。
だが、どこをとっても彼のイメージとは若干違うのに、何故そんな場所が思いついたのか。
当然それにはちゃんと理由がある。
「教授の親戚が向こうに住んでいるらしいから、融通が利きそうだよ」
しかも旅行代理店を営んでいるようで、パイロットの知人も多いとか。
教授自身も家族旅行でよく世話になっているようで、繁忙期も都合を付けてもらえた話を何度も聞いた。
「だけど、他人がそこまで頼むのは図々しくありません?」
「平気だよ。世話になっているドクターも結構いるから」
それよりなにより、
「未来の優秀な看護師育成に一役買った天使様を労うため、といえば喜んで世話してくれるよ」
講演会などの予定は随時社内報で発表されているから、今回のことも知っている人は多い。彼女の実力と努力に異論を唱える人はいないし、これくらいのご褒美は安いものだ。
「友雅さんアウトドア派じゃないのに良いんですか?」
「あかねこそ、アクティブ志向でもないだろう」
お互いに、メンタルはアクティブでも身体的にはそうとも限らない。
身体を鍛えるためにマンション内のジム通いは続いているが、他のスポーツとは一切無縁。サーフィンやダイビングというアクティビティを真っ先に思いつかないところは似た者同士。
「まあ、色々楽しみ方はあるよ。そこはあかねに任せる」
「えーっ、せっかくなんだもの二人で決めましょうよ」
「私は、あかねに付き合うだけで十分楽しいから、それで良いんだよ」
ショッピングでも観光ツアーでも、どこへだって同行する。
それらを楽しむ彼女の姿を隣で見られるのが、何よりも自分にとっては楽しいのだからと彼は言う。
「いつも自分のことそっちのけで…友雅さんホントにそれで良いんですか?」
「今まで私が不機嫌にしたり、つまらなそうだったりしたことあるかい?」
自覚はないけれど、もしもそんな素振りをしていたら悪かった、と友雅。
そんなことない。全然ない、一度たりとも。
会話の返事も蔑ろにしたことないし、常にちゃんと聞いてくれて答えもくれる。
だから時々、考えてしまう。彼がしてくれる行いと対等なことを、自分は行えているのかどうか。
「気にする間柄でもないだろうに、真面目だねえ」
「そういう間柄だからこそ、ですよ」
彼女は"親しき仲にも礼儀有り"という想いが強いようだ。
「それなら、あかねが考えておくれ」
一番近くにいる君なら分かるはずだろう。
私が好きなもの、好きなこと、喜ぶこと-------君が思い浮かぶすべてのこと。
正直なところ、君の存在以外に喜びなんてないけれども。
「さて、どんなことしてくれるのかな。期待が膨らむね」
「ええ〜…」
難題を押し付けられて、あかねは頭を抱える。
ICを下りて一般道へ。最初の信号で久し振りに一時停止。
と、友雅があかねの手を取ると、指先にくちづけをした。
「はい、これでひとつ喜ばせてもらった」
「それ私がやったんじゃなくて友雅さんがやったんじゃないですかー!」
「この続きは任せるよ」
「は!?」
ふざけた行動のあとで、意味ありげに微笑む艶っぽさに少しドキっとさせられて。
きらきら、イルミネーションの中を車は進む。
もう少しで辿り着く、My Sweet Home。
-----THE END-----
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