Surprise Rehearsal

 004---------
研究棟から本館への廊下を歩きながら、ああでもないこうでもないと会話が続く。
結婚式場ならプランナーがいるので、色々細かくピックアップしてくれるけれど、個人での披露宴となったらやっぱり自分たちのセンス次第。
小規模少人数のパーティーでも、センス良いと思わせたいし。女性だけじゃなく、男性にもウケそうなものが欲しいし。
「あ、どうせならクリスマスっぽい何かも入れたいな。ちっちゃいツリーとか。丁度時期だし」
みんなそれぞれに忙しいから、クリスマス以降の忘年会にはならないだろう。
となると、クリスマスパーティーも兼ねられる。ディスプレイの選択肢も、更に幅が広がる。
考え出したらきりがない。家に帰っても、二人の話題は当分これ一色になりそう。

「でも、ドレスを決めておいて良かったね」
ウェディングドレスがなかったら、思い切ったことも出来なかった。
彼女の衣装が決まっていたからこそ、とっさにこんなことが思い付いたのだ。
「随分と時間掛かりましたけどね」
「その分、とびきり素敵なドレスが見つかっただろう?」
彼があれこれ渋っていたおかげで、決着が着くまでかなりの時間を要したというのに、皮肉を言ったところで堪える様子は全くない。
一体何着のドレスに袖を通したことか。
試着したものを集めたら、カタログ一冊くらい作れそうなほど。
いや、冗談じゃなく本当に。
まるで、ウェディングドレス専門のモデルになったみたいだ。
「モデルより、あかねの方がずっと綺麗だし似合っているよ」
「……恥ずかしいこと言わないでくださいっ」
友雅の背中を、ぐいっと押す。
こそばゆいのと気恥ずかしいのと嬉しさで、顔がにやけそうだから覗き込まれないように。

「あっ!でも友雅さんの衣装、まだ決まってなかったじゃないですか!」
はっとして、思い出した。
ドレスは良いとして、彼の衣装が未だに決まっていなかった。
「適当で良いよ。男の衣装なんて、どうせどれも似たり寄ったりだ」
タキシードやスーツばかりで、ゲストと大して変わらない。
ホワイトやシルバーなど、カラーを選ぶくらいしか悩むところもないだろう。
「駄目です!友雅さんこそ、ちゃんとした衣装を選ばないとっ!」
気楽にやり過ごそうとする友雅を、あかねが強い口調で遮った。
確かに花嫁のウェディングドレスは、結婚式のメインだとは思うけれども。
確かに花嫁から比べたら、花婿の衣装はバリエーションが少ないと思うけれども。
それでも!身につけるのが彼だからこそ、気合いを入れないといけないと思う。
思うけれど…なかなか選べない。
どれもこれも、あまりに似合い過ぎてしまって。
何を着てもハマり過ぎて、悔しいけどいつも見惚れている自分…。

白のタキシードって、やっぱり素敵だ。
ウェディングドレスと合わせても、ぴったりだし。
でも、クラシックなロングタキシードや、フロックコートも良い。
背が高いからすごく似合うし、あれがなかなかハマる人っていないし。
白じゃなくて黒でも、シックでカッコいいし……自分が着るものじゃないのに本当に迷う。
「あかねに任せていると、私の衣装もなかなか決まらなそうだな」
「お、お互い様ですよ…」
まったく…本当にお互い様だ。
あれこれドレスに注文を着けた彼に、文句なんか言えない。
どんなスタイルが一番彼をカッコ良く素敵に見せるか…で、選ぶことが出来ない自分も。
「花嫁をエスコートする姿が、様になるものを選んでおくれ」
あかねの肩を抱き、耳元でくすぐったい言葉を口にする。

「大丈夫です。友雅さんだから」
彼の背中に手を回して、あかねは身体をそっと寄せた。
「友雅さんに似合うような、ドレスを選んだんだもの、私」
フリルいっぱいの夢みたいなデザインじゃなく、優雅で大人っぽいスタイルの花嫁衣装。
真っ白なドレープ、ふわりとしたレースは天使の羽か、天女の羽衣みたいな。
「友雅さんだけの天使に…なろうって決めたし」
自分で"天使"なんて言うのもアレだけど、彼がそう言ってくれるなら、そうありたい。彼だけのために。
足を止めて、誰も周りにいないことを確認して。
少し背伸びして、彼の肩に手を回して……唇を預けた。

「ひゃあっ!?」
かかとを地に着ける間際に、いきなり身体がふわりと宙に浮く。
「ちょ、ちょっと友雅さぁんっ!?」
誰も見ていないからって、これってお姫様抱っこ…。
ゆっくりと、あかねを抱えて彼は階段を上がる。
研究棟の上層階。屋上へと続く階段の先は、締め切っていて外に出られない。
その踊り場で、ようやく下ろしてもらった。
と思ったら、間髪入れずに抱きしめられて、唇で呼吸を塞がれて熱を注がれる。
「天使様なのに、キスには魔法の力がある。いただくと、ますます欲しくなる」
「は?あ…っ…」
君からの口づけは、心に炎を放つ。
どれだけ愛らしく口づけても、こちらが激しく求めたくなる力を持っている。

「職場ではこれが限界なのだから、好きにさせてもらいたいね?」
「……昼休み、もう残り少ないのに…」
「ちょっとくらい遅れたとしても、"あの二人だし"とか…みんな察してくれたりしないかね?」
「そういうことはダメです。お仕事は、ちゃんと時間きっかり、遅刻禁止」
口説き落としたくても、天使様は相変わらず頑固で真面目。
仕事とプライベートを完全に分けて、職場にいるときはたった一人の天使にはなってくれない。
でも、二人きりになれば、その優しさを向けてくれるから。
「じゃ、あと一度だけ。一回で満足出来るような、思い切り情熱的なキスを」

左手同士をしっかりと握り合って。
身体と身体を寄せ合って。
誓いのキスのリハーサル。
その日が来るのを、慌ただしく待ちこがれながら。




-----THE END-----




お気に召して頂けましたら、ポチッとしていただければ嬉しいです♪





2013.10.27

Megumi,Ka

suga