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Private Angel
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「ちょっと、くすぐったいから止めて下さいってば〜!」
素足の膝に頬を寄せて、臑をそっと撫でてみる。
滑らかな細いふくらはぎをなぞりながら、恥ずかしそうに顔を赤くするあかねを見上げた。
「そういえば、ストッキング買えたのかい?」
「えっ?あ、買いましたよ…。まとめて3つ、予備の分も一緒に」
ストッキングを履くのは職場だけだから、ロッカーに置いてあれば良い。
普段はちゃんと予備を整えているのだけれど、今回はうっかりして買いそびれていたのだった。
「スラックスにすれば、ストッキングを履かなくても良いだろうに」
「そりゃ、まあそうですけどー…ねえ?」
彼には言ったことがあるはずだ。
どうして自分が、ワンピースを好んで着ているのか、その理由。
納得してくれていると思っていたけど、何で突然そんなことを言い出すんだろう。
「ハードな作業の時は、ちゃんと着替えてますよ」
「ああ、それは分かっているんだけれど……でもね」
友雅の手が、膝を包むように重なる。
「あかねの足が晒されるのは、あまり楽しくないねえ」
「……はぁ?」
ちゅ、とまた膝小僧にキス。
そして手を伸ばし、あかねの頬に指先が触れる。
「綺麗なものは、独り占めしたいものだしね」
しばらくあかねは、ぽかんとした表情で彼の顔を見下ろしていたが、すぐに吹き出すように笑い声を上げた。
「やだもー、何言ってるんですか?足って言ったって、膝より下じゃないですか」
ミニスカートならまだしも、膝より下なんて見られても何てことはない。
それに、そんな賛美を貰うほどの脚線美は、持ち合わせていないと思うけど。
「仕事の服なんだから、仕方ないでしょう?」
「まあ、そうなんだけれどねえ…」
そうなんだけれど、でもやっぱり何となく納得したくない気があって。
スラックスで全部足が隠れてしまえば、何の心配もいらないのにな、とか色々と考えてしまう自分を、滑稽に思えてしまうのだが。
「ねえ、それってもしかして…またやきもちですか〜?」
シャワーの水分を含んだ、しっとりとした彼の髪。
指先に毛先を軽く絡ませてみながら、あかねが顔を覗き込んで来た。
「ふふっ…あかねには、そう見えるかい?」
「うーん、何となく。だって友雅さんがそういうこと言い出す時って、大概理由が同じじゃないですか」
付き合った期間が長くなるほどに、表面では分からない彼の素顔が見えてくる。
出会った頃の第一印象のように、見た目は艶やかで趣味も身のこなしもスタイリッシュなのは変わりないけれど、二人の関係が深まってからは、新たな一面が分かって来た。
こう見えて、意外とやきもちやき。
外部からの目を払い除けたくなるほど、独占欲の強さ。
そういう人だったのか?と驚いたりもしたけど、どうやら誰でもというわけじゃないみたい。
だから、時々呆れたりするけれど、文句は言えない。
それに…何より彼は、プライベート以上に仕事でも最高の理解者だから。
「友雅さんには、私の考えていること全部話してるもの。その上で、ちゃんと分かってもらってるはずだし。なのにいきなり違うこと言い出すのって、何かしらあったんでしょう?」
「ん、まあ…別に言うほどのことでもないけどね」
「何ですかそれ、ごまかすなんてズルい〜!」
ふざけながら肩を叩くあかねの手を、友雅は笑いながら掴み取り引き寄せる。
じゃれ合うみたいに細い身体を抱きしめて、今度はその頬にキスを落とす。
「ああ、やっぱり…四六時中天使様を独り占めしたくなるねえ」
「ダメです。看護師さんは、患者さん全員のものですから」
一瞬の迷いもなく、きっぱりと友雅の言葉をはね除ける。
看護師になった時から、患者のために尽くそうと誓った決意は、彼が何を言ってもそう簡単に揺るがない。
だけど、あかねには看護師という資格の他に、もうひとつ大切な肩書きがある。
「……看護師を独占は出来ませんけど、奥さんだったら…良いですよ?」
抱きしめられた胸に顔を寄せ、笑いながらあかねが言う。
職場で公私混同は御法度だけれど、私生活なら…そんな制限はいらない。
むしろ、その反対。独占して欲しいくらい。
もっともっと、彼だけの自分にして欲しいと思ってしまう。
「ふう…そういう可愛いことばかり言うのだから…まったく」
口づけの繰り返し。唇を重ねて抱き合って。
白衣の天使も、腕利きのドクターも、ここではただの男女で、そして夫婦で。
------本音と真実以外、必要ない。
「つま先から髪の毛一本まで、全部私だけのものだね」
「ふふっ、もちろん」
持ち上げた足のつま先に、誓いのようなキスを。
「つま先にキスなんて、シンデレラみたいじゃないですか」
「解けてしまうような魔法の靴じゃなく、本物の靴とドレスをプレゼントするよ」
そう、真っ白なロングベールと、真っ白なドレス。
天使も顔負けの、パールホワイトのウェディングドレス。
「…ほんっと、そろそろいい加減に決めましょうよね!挙式!」
入籍して数年が過ぎて、ちゃんと書類上と世間的には夫婦と認められているのに、未だに実現していないのが結婚式。
試着なら散々何度もしているのに、まだ肝心のドレスは決まっていない。
その理由は…やっぱり彼の性格のせいだ。
「早くドレス着たいんですからっ、私もっ!」
「はいはい。やきもちも大概にしておくよ」
「そんなこと言って…絶対にその場になったら、あれダメこれダメって言うくせにー!」
不満げに唇を尖らすあかねを、笑いながら友雅は抱きしめる。
「もう、ちゃんと前向きに考えましょ?いろいろ準備だってあるんだし」
病院に関わる者たちの中で、二人の関係を知らない人は殆どいない。通院患者や入院患者だって、結構情報は漏れている。
結婚式したの?まだしてないの?いつするの?
…もう、何度そう聞かれたか。そして、何度急かされたか。
「ドレスの写真見せてねって、患者さんたちも言ってるんですよ」
「男性患者には、秘密にしたいな。天使様の、とっておきの正装姿だものね」
「まーた変な勘ぐりするんだから」
いつまで経っても、収拾がつかない。
言葉だけじゃなくて、仕草や行動でこちらを抑え込む彼には、勝てる術がない。
何より、心のどこかでそんな彼の態度を、嬉しく思ってしまう自分がいるからだ。「ちゃんと二人でドレスアップして、仲の良い人集めて結婚式をして…そこで、私を友雅さんの奥さんって、お披露目して下さいね」
彼のうなじに腕をからませ、頬を寄せて小さな声で言う。
いつもは彼が、こうやって囁いてくれるのを真似するみたいに、かすかな声で。
「隠したいけれど、そう言われたら見せびらかしたくなってしまうな」
「そうしてくださいよ。私もみんなに見せびらかしますから」
自分が選んだ、大切な人。
永遠に一緒に生きて行くことを、誓い合うことが出来た、ただ一人の人。
世界中探しても、絶対に見つかることはない、赤い糸で繋がりあっている二人。
------------------それが、この人です。
隣に立つ彼を、彼女を見て、みんなにそう告げるのだ。
「早く決めてくださいね、私のドレス」
あかねがそう言って、頬に軽くキスをした。
天使の正装は、選ばれた者が決めると約束している。
一番美しい彼女を知る者だけが。
「私に任せておきなさい。とびきり綺麗な花嫁にしてあげるよ」
他の男たちが、こぞって羨ましいと口を揃えて言うような花嫁に。
ま、何を言おうと、褒めちぎろうと…天使には指一本触れさせないけどね。
-----THE END-----
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