Please! Jealousy

 第七話(5)---------
予定していた手術は、つつがなく順調に終わった。
普通なら4時間ほど掛かる工程だが、それを半分の2時間弱で済ませてしまう。
しかし処置は完璧だし、丁寧だと評価の高い縫合もしっかりしている。
「お見事だわ。まだまだ腕は健在ねえ。やっぱり、あなたに任せて良かったわ」
「鈍っていたら、とっくに首にされているよ」
手術の次の日、病室を訪れて患部のチェックを済ませた友雅に、彼女は笑いながらも礼を言った。

今日は、久しぶりの雨だ。
潤いが少しは涼しさを連れて来てくれるか、と思ったのだが、湿気があっていつもより空気が重い。
空調が利いていなかったら、今日も不快指数が高そうな。
「ねえ、治療のお礼に、今日か明日でもランチしない?」
彼女からの、突然のお誘い。
だが、隣にいるあかねにも顔を向けて、彼女は言った。
つまり、二人を誘っているということだ。
「患者からのお礼は厳禁なんだよ」
「ええそうね。だから、一緒に食べませんか?ってこと。良いレストランを知っているのよ」
彼女の夫の取引先で、日本料理店のオーナーがいるらしい。
本店はこちらにあるらしく、特別コースをリーズナブルな予算で用意してくれるから、どうだろうかと言う。
「あかねさんもね、本当にお世話になったから。たまには奥さんも、家事をお休みしたいでしょう?」
「あ…ええと、それはそのー」
はい、それはやまやまなのだけれど。
「美味しいのよ。オーガニック食品にこだわっていてね、とてもヘルシーなの。デザートもフルーツと野菜を中心に作っていてね、それを目当てに来るお客様もいるんですって」
魅惑的な言葉が、どんどん出て来る。
ヘルシーな料理、フレッシュフルーツのデザート…。あかねのツボを刺激する。

「でも、あかねの料理よりは落ちるんじゃないかな」
えっ!とびっくりしてこちらを見るあかねと、あら、と何かに気付いたような顔をする彼女。
「すごい。あかねさんてお料理得意なのね?」
「ち、違いますよ!作るのは好きですけど、特に上手ってわけじゃないですよ!」
「私はあかねの手料理より美味いものを、食べた記憶がないがねえ」
もう、すぐにそうやって持ち上げる。
お世辞だか本気だか分からないけれど…そう言われて、嬉しくないはずないけど。

そんな二人を眺めながら、彼女は笑って言う。
「あかねさんが作った、っていう極上のスパイスが利いているんですもんね。あなたにとっては最高のごちそうよね」
……あれ、そういえばこの間、安倍先生にも同じようなこと言われたっけ。
私が作らないと、友雅さんの栄養にならないんだって。
もしかしてこれもまた、私だけの特権?
一番だから効果があるってことにして、良いのかな?

「まあ、とにかく。実は今週検食当番でね。昼は外で食べられないんだ」
あかねが一人であれこれ考えている間に、友雅が彼女にそう答えた。
検食は、週一回でローテーションが回る。
今週は友雅の当番なのだが、今の病院食は随分進化して美味くなったと言われるが、それでも物足りなさは消えない。
「でも、毎日軽いものを用意してくれるからね。おかげで口直しが出来るよ」
「…あなた、検食が用意されてるのに、あかねさんにお弁当頼んでるの!?大変じゃないのよ」
呆れ気味に彼女が言う。
そんなに大食漢だという覚えはないが、結婚して変わったか?(それは十分あり得そうだが)。

「検食は食べた気がしないから、嫌だって言うんです。だから、サンドイッチ2切れだけでも良いからって」
しかも、クラブハウスサンドが良いという。
昔、よく当直の時に差し入れに作っていたものが良い、とリクエストまでする。
「何度食べても飽きないからね、あれは」
「まったくもう…あれが食べたいこれが食べたいって、子どもみたいですよっ」

-----------------ぷっ!
彼女の笑い声に、はっとして二人が顔を上げた。
「ご、ごめんなさい。あまりにおかしくって…。まさか、あなたを子どもみたいだって言う人がいるなんてね、ふふふっ」
本人よりずっと年下で、こんな可愛い子が彼を子どもみたいだ、と言い放つ。
おそらくそんな風に言えるのは、そう感じてしまうくらいに甘える相手は、友雅にとってあかねだけなんだろう。

「私、あなたが結婚するなんて信じられなくてね。興味もあってここに病院を選んだんだけど……」
ぎくっ、とあかねの肩が固まった。
それはつまり、妻の自分を品定めしていたということ…か?彼の元カノに?
ぎくっのあとに、背筋がぞくっとした。
だが、にっこりと彼女はあかねに微笑みかける。
「本当に素敵な奥様で、感心しちゃった。可愛くて明るくて優しくて…いい人見つけたわね、あなた」
「そりゃあね、彼女は天使様だから。私専属の」
何もかもを満たしてくれる、かけがえのない女性。
そう、彼女の希望の言葉で表すのなら、一番の女性だ。

「ま、時期を見てお食事は一緒にしましょうよ。ゆっくりなれそめも聞きたいわ」
「ああ、また日を改めてね」
レストランは気になるけれど、会話の内容も気になる。
恥ずかしいことまで暴露されそうで、のんびり食事なんてしていられるだろうか?
……とか、あかねは一抹の不安を抱きつつ、友雅と共に病室を出た。



朝早いからか、個室のフロアには人通りも少ない。
面会時間も始まっていないし、廊下で行き交うのは付き添い看護で泊まり込む人々くらいだ。

ふっ。
ん、今のは…笑い声?ちらっと後ろを見ると、確かに友雅が笑いを堪えている。
「何ですか?」
「いや、ね…さっきのこと。あかねに子どもみたいと言われるなんて、思っていなかったからね」
言葉のあやだとしても、まさかそんな形容詞が出るとは。
子どもみたいだなんて言われたのは、生まれて初めてじゃないか?
大人びているとは、よく言われたものだが。
「す、すいません…。でも、あれは嘘じゃないですよっ」
立ち止まったあかねは、くるっと向きを変えて友雅と見合った。
「お弁当作って、とかサンドイッチが良いとか、膝枕して欲しいとか、一緒に……寝、寝て欲しいとか」
「無性に甘えたくなるんだよ、あかねには」
「ほら!そういうところが、子どもみたいって言うんですっ」

だって、仕方がない。
君はそれを受け入れてくれると、分かっているから本能が止められない。
惜しみなく癒しを与えてくれるのを知っているから、触れたくなってしまうのだ。



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Megumi,Ka

suga