Please! Jealousy

 第五話(1)---------
大学に入り立ての頃、同い年の女性と数年付き合った。
知り合ったのは、まあサークル同士の合コンという、どこにでもあるきっかけだ。
話は合うし、それなりに外見も可愛いし…親しくなるにつれ、自然とそういう仲に発展した。
こっちは医大生だから、デートなんてものも自由が利き難かったが、それも理解してくれて嫌な顔はしなかったし、本当に良い子だったと今でも思う。
だから、こっちもかなり本気になって、将来も考えたりしたこともある。

が、問題は突然やってきた。
『泊まりがけで、高校の同窓会に行きたい』と、切り出された。
その時は別に何とも思わず、快く送り出したのだが、しばらくして今度は『高校の同級生が結婚するから手伝いに行きたい』、と言い出した。
そこでも特に違和感を覚えず、はいどうぞ、と了解した。
しかし、だんだんその頻度が多くなり、せっかく時間が出来ても向こうが予定を取れず…と、すれ違いが多くなってきた。
お互いにこれじゃまずいと、出来るだけ連絡を取るように心掛けてはいたので、不協和音があったわけじゃない。
だが、ある日彼女が入浴中に、携帯がけたたましく鳴り出した。
いくら恋人だからって、勝手に電話に出るのはまずいだろうな、と手を出さなかったが、彼女の携帯は閉じていても着信相手の名前が点滅する。
ちらっと、目をやったそこにあったのは、知らない男の名前。
「男からの電話って、相手はどーいう奴なんだよ」
「これ?ほら、高校の時の同級生!結婚するっていう…」
ああ、最近よく手伝いに行っている同級生のことか。
変なかんぐりをしたな、とバツの悪そうな顔をするこちらに対し、彼女は笑ってスルーしてくれた。

それで終わるかと思ったのに。
その男から、またも頻繁に電話がかかってくる。
二人で居る時に、親しげな呼び方で会話しているのを見ていると、何となく面白くない。
明らかに嫉妬だと自覚していたが、どうにも気になって仕方ないし。
かと言って、また彼女本人に問い詰めるのもなんだし。
出会いのきっかけになった合コンで、自分たちと同じようにカップルとなった者は他にもいて、ちょっと探ってみるかと話してみた。
その時、初めて知った。
彼女といつも電話している同級生の男。
………実は、高校時代の元カレだったという事実。

もう終わっている関係だし、相手は別の相手と結婚するという。
彼女には自分がいるんだから、わざわざ昔のことを気にしなくても良いのに…面倒くさいのが恋心、
相変わらず途絶えない彼との電話のあと、つい本心が言葉に出た。
「随分と熱心にそいつと打ち合わせしてんだな。元カレの結婚式だから、気合い入ってんの?」
やっちゃいけなかった、導火線への点火。
その後は、あっという間に広がる火の粉。
「私が浮気してると思ってんの!?」
「思ってねえよ!思ってねえけど、下心があんじゃねえかって思ってもしょうがねえだろ!」
「終わってるのに!?信じてないってこと!?」
一度火が着いたら、止められない。どんどん事態は悪化してゆくばかり。

口は災いのもと…という諺が、しみじみ分かったこの事件。
そしてあれから------------早数年。彼女いない歴と同じ年月。


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「僕、その話を聞いて、"天真先輩って結構やきもちやきなんだなー"って思っちゃいました」
けろっとそう言う詩紋の隣で、森村は頭を抱えうなだれている。
思い出したくもなかった、あんな恋愛失敗談。
どう考えたって、自分がみっともない嫉妬をしたものだから、ご破算になってしまったのだし。
もう少し冷静になっていれば良かったものの…。
「当時は俺も若かったの!マジだったから余計に気になったんだよっ」
これもまた、若気の至りというものだろうか。

「何となく私は、森村くんの気持ちが分かるよ」
意外なことに、目の前から助け舟が渡された。
「本当に彼女を好きだったんだろう?だから、彼女の過去のことまで気になったんだよね?」
アイスコーヒーのグラスを弄びながら、友雅は森村の顔を見て話す。
彼女が以前の恋を清算しているのは、十分に分かっていたんだろう。
長く付き合っていた相手なのだし、性格もある程度は把握していたはず。
だが、だからこそ今更、元カレと頻繁に交流しているのが面白くなかった…と。
「ただでさえ、君は研修とかで忙しかっただろうし。やっと二人で過ごせる時間に、元カレからの電話で邪魔されたら…そりゃあ、面白くないよね」
友雅が話すのを耳で聞きながら、ふと詩紋が隣を見てみると、森村の目が妙にきらきらと輝いていた。

「言っちゃいけない一言だった。けど、本当に彼女が好きだったから、つい言ってしまったんだよね」
「先生ーーーーーーっ!俺、今先生を師と仰ぎたいと思いましたああああ!!」
突然立ち上がった森村は、友雅の手を握りそうな勢いで、身を乗り出してきた。
ああ、やっと理解してくれる人がいた!
この話を散々あちこちでしたけれど、やれ"嫉妬深い"だとか、やれ"男のくせに根性が小さい"とか、ろくに同意してくれる者がいなかった。
自分も反省する必要があった。
でも、友雅の指摘はまさにピンポイントだった。

「まあ、私だってあかねがそういうことをしたら、イライラするかもしれないし」
自分に置き換えて、友雅は考えた。
今回は、自分の元カノについてだが、もしもあかねが元カレと会話しているのを見たら…どうだろう。
「幸いそれはないけどね。あんなに可愛いのに、今まで彼氏の1人もいなかったらしいから」
「はー、そーですかー」
それまでは大人しく話を聞いていたが、ちょっとだけ今の一言で気が抜けた二人。
たまに平気な顔で自分の妻を賛美するもんだから、リアクションに困る。
「でも、何人かは近付こうとした男は、いたんじゃないかな。あかねは天然だから、気付かなかっただけで」
「ああ…そうかもしれませんね。あかねちゃん割としっかり者なんですけど、肝心なところが鈍いんですよね」
「そうだよね。そこが可愛いんだけれど…ふふ」
…また背中がかゆくなった。
どうにか出来ないか、このナチュラルな惚気癖。

「まあ、一度もまともに男と付き合ったことがないのは、あかねには申し訳ないけど不幸中の幸いだ」
カランカラン、と彼の手の中で氷が音を立てる。
少し溶けて薄くなったコーヒーを、友雅は少し喉へと流し込んだ。
「他の男に手をつけられていないのは、私がちゃんと確かめたから間違いないし。そこはホッと一安心だけどね」
-----------!
さらっと言いやがった!
自分が最初の男だと!自分があかねを女にしたのだと!
「そんな相手がいたら…なんて、例え話であっても考えたくないよ」
「はあー、そーでしょうねー…」
確かに考えたくない。
きっとこの二人のことだから、また院内を巻き込んで凄まじいことに発展しそうな感じだし。

「でもね、少しはそういうやきもちも欲しい…というのは、贅沢かねえ」
ためいきのようにこぼれる、小さな本音。
嫉妬して欲しい、というわけではないのだ。
ちょっとだけで良いから、意識して欲しいというだけのこと。
すっきり割り切って、理解してくれる、信頼してくれるのは嬉しいけれど。
「元カノさんと、軽〜くいちゃついてみせるってのは、どーですかぁ」
半分呆れ気味に森村が提案すると、友雅は目を伏せて静かに笑った。

…そんなこと、する気になれないよ。
あきらかに、彼からそんな答えが聞こえたような…気がした。



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Megumi,Ka

suga