天使様の願いごと

 006---------
「い、言っておきますけど…嫌なわけじゃないですよっ?」
静かなエントランスの笹の下に、隠れるようにして、しばらく抱き合って。
ようやく互いの間に邪魔なものが取り払われると、もうぬくもりを重ねることに抵抗もなかった。
「ちゃんと休んで、疲労が全部回復したら…って思ってたのに…。なのに、帰ってきた足でそのまま、強引にあんなところ連れてくからっ!」
「ごめんごめん。それに関しては、何度でも謝るよ。」
ぽん!と軽くあかねが胸を叩く。
でも、その仕草は全然痛みのないもので、寧ろ愛しさを感じさせる。

「ちゃんと…これからは、疲れてる時には無茶なことはダメですよっ!」
「ん、分かったよ。」
とは口で約束をしても、果たしてどこまで守りきれるか…。
いや、守らなきゃいけないだろう。
こんなにも彼女が、自分のことを思ってくれているのだから、その気持ちを無駄にしちゃいけない。

「でもね、あかね。」
ん?と顔を上げると、彼がそっと耳に唇を近付けてきた。
「お預け時間をもらってしまったおかげで、フラストレーションのゲージが、限界寸前になってるんだけど……どうしようか?」
「え、ええっ…?」
フラストレーションのゲージ……って、それはつまり…。
血の気が失せていくような気がしたけれど、実は全く正反対。
熱が身体中に浸透してきて、カーッと顔が熱くなる。
「このゲージを鎮めるのは…消化できるのは、あかねしかいないってこと、分かっているよね?」
吐息みたいな、甘い囁きを吹きかけられて……。
こんなの…ちょっとずるい。

「ねえ?随分と、濃度が増してしまっているんだけど…大丈夫?」
「だだだだ、大丈夫って何がですか!」
友雅はにっこりと微笑む。少し妖艶に、何かを企んでいるように。
伸ばした指先であかねの頬を、つんと突く。
「分かっているくせに。しらばっくれても、ダメだよ。」
誤魔化そうとしても、もうこれ以上は…逃がせない。
十分身体の疲れは取れた。
そろそろ、お互い本心だけで抱き合っても良い頃じゃないか、と思うのだが。

「……まだ、ダメ?もう今夜あたり、我慢出来そうにないんだ」
すとーーーーん、と落ちて、腰が砕けていく感じ。
慌てて彼にしがみついて、身体を合わせる。
「私に、最高の夢を見せてくれないかな…我が最愛の天使様?」

顔も視線も逸らせなくて、その人しか見つめられない。
離れられないから…抱き合う。
愛しているから、抱きしめ合う---それだけ。
想いと欲望は絡み合い、それが愛に変わるとしたら……それでもいいや。
唇を重ねながら想いを伝え合って、あかねはそんな風に思った。

「…あ、あまり張り切りすぎて、また疲れちゃっては…だめですよ?」
「ふふ…そうだね。でも、私は盲目になってしまいそうだから…その時は…」
「…叱っちゃいますからっ」
くすっと笑い、もう一度あかねは背伸びする。
キスを強請って唇を近付けて、背中に手を回して----------。
「ん…」
さわさわと揺れる笹の間、ひととき…今だけ。
誰も見ていないから、ほんの少しだけ………。

この続きは---------------今夜のお楽しみ。






そんなエントランスの向こう側。
遠巻きに彼らの光景を、ずっと覗き見していた数人がいる。
「…だから!分かるでしょ!?このオレのせっぱ詰まった気持ち!!」
藤原の両肩を揺すりながら、森村が情けない表情で泣き付いてきた。
「あんなの間近で見せつけられたら、ストレスたまっちまうじゃないっすかーっ!」
「まあまあ、森村くん落ち着いて。」

困ったように苦笑いしながら、藤原は彼の背中を叩いた。
あかねとは幼なじみで、今も親しくしている間柄。
普段から何かと、接触や交流を持つ機会は多い。
だからこそ、あんな二人のラブラブ熱愛状態を、見せつけられていると、さすがに悶々としてしまう。
例え彼らが意図的にでなくても、普通のままで十分あんな感じなのだから……目の毒だ。

「あーもう、オレには刺激が強すぎる…。彼女欲しいぜ…」
「はいはい。取り敢えず問題も片付いたようですし、みんなでハーブティーでも飲んでリラックスしましょう。」
そう言いながら彼らの背中を押し、永泉は自分の研究室へと連れていった。



-----THE END-----




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