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「短冊を飾りに来たのかい?」
「……そうです」
あかねの手には、ピンク色の短冊が握られていた。
書いてある内容については、裏面を見せているので分からない。
「おいで。届かないだろうから、飾ってあげるよ。」
「い、良いです!あとで他の人に頼みますからっ…」
と、あかねは断ろうとしたが、伸びてきた友雅の手が彼女の手首を掴んだ。
ドキドキしているのが、手首の脈から伝わってしまいそう。
先日の食事の後で、ホテルの部屋に連れて行かれる時みたいな…感じ。
あの時、彼の熱い目的はひしひしと伝わっていて、心臓がばくばく言いつつも、流されちゃいけない!と自分を戒めて気を引き締めた。
その結果が、ちょっとした距離感を作ってしまったのだけど。
「高いところが良い?下の方にする?」
「た、高いところにしてください!」
あまり目立つところには飾りたくない。内容が内容なだけに、簡単に目に付いたらひやかされそうだから。
「じゃあ、ほら、貸して。」
「えっ…」
友雅が手を差し出してくる。
「貸してごらん。高いところが良いなら、あかねの背では届かないだろう。付けてあげるよ。」
そ、それは…!それこそダメだ!
彼の目にもあまり止まらないようにと、そう思ってわざわざ人気のない時間を選んでやって来たのに。
「だったら、肩車でもする?担いであげようか?」
「いやっ!いやですーっ!」
ふう、と友雅は苦笑いをして黙り込む。
薄暗いエントランスにふたりきり。ものすごく------気まずい。
その時、顔を上げた視線の先に、あかねは一枚の短冊を見付けた。
男性の手書き文字。
署名はされていないけれど、この字をあかねはよく知っていた。
薄緑の短冊に書かれていた内容。
"心優しい天使の笑顔が、再び取り戻せますように"
「あかね、私の短冊の内容を見て、自分のを見せないなんてフェアじゃないよ」
背後からの声に、びくっと肩が浮き上がった。
ささっと後ろに隠した短冊だが、彼は差し出した手を引っ込めてくれない。
「短冊なんて、誰の目にも付くものだよ。」
それはそうなのだけど…と思いつつも、友雅は諦めてくれそうにないし。
渋々そっと、あかねは短冊を差し出した。
もちろん、裏面を表にして。
友雅は上の方の枝を引っ張り、短冊の少ない場所をぐっと引き寄せた。
この辺りなら良いか、と思いながら、あかねの短冊をくくりつけようと表を広げてみる。
彼女らしい、柔らかいけど繊細な文字。
彼女らしい、愛らしさを感じるピンク色の短冊。
"彼が無茶をせず、自分の身体を大切にしてくれますように"
そう記されてある。
ふと見下ろして目が合うと、あかねはくるっと背を向けてしまった。
「あかね、短冊付け終わったよ。」
「あ、ありがとうございますっ…」
再び沈黙。静寂の広がるエントランスに、会話もないから果てしなく無音に近い。
耳障りな音などないのに、この静寂というものは重苦しさを感じさせる。
…友雅さん、短冊見たよね。
自分のことを書かれているって、分かったよねきっと…。
で、でも別に間違ったことは書いてないし、そういうこと気にして欲しいのは本音だしっ。
「この間は…悪かった。謝るよ。」
背中が受け止めたのは、彼の謝罪の言葉。
振り向けないけれど、あかねははっと顔を上げる。
「あかねが、私の身体を気に止めてくれているのは、いつも分かってたことだけど…あの時は、ちょっと…つい、ね」
「……つい、じゃないですよ!いつも自己管理してもらわなきゃ、困ります!」
咄嗟に振り向いたあかねが、ムッとして友雅を睨む。
怒った顔。でも、背を向けられているよりはずっと良いし、目も顔も逸らされるよりは、こんな顔でも真っ向から見つめられるから良い。
「ごめん、私も調子に乗りすぎたね」
「そうです!自覚してください!」
ああ、何だか…怒られていても気分が良いな。
彼女が自分のことを、考えてくれているのがひしひしと伝わってきて、愛情を感じてしまう。
まるでマゾヒストだな、これは。
笑ってしまうけれど、彼女の声と視線とぬくもりと…包まれているようで心地良くなる。
「聞いているんですか!」
「ああ、聞いてる。本当に悪かったよ。」
でも--------------
「でもね、一応私の言い分だけでも、ちょっとだけ分かってくれると嬉しいんだけどね。」
誰でも良いわけじゃなくて、あかねでなければならなかった。
抱きしめて愛し合える、自分ひとりの天使である彼女でなければ、こんな気持ちにはならなかった。
「恋しくて愛しくてたまらなくてね…。一週間も離れているのが辛くて。だから、その反動が……」
一歩、彼が足を踏み出す。
あかねはその場に立ち止まったまま、彼との距離が狭まるのを待った。
「その反動が、あかねを求めてしまった理由だよ」
伸びてきた手が、頬に触れる。
そうして、身体と身体の間に距離が消えて、彼の腕の中に閉じ込められた。
「だけど、ホントにちょっとこの間は、焦りすぎだったね」
決まりが悪そうに、友雅は苦笑する。
あの時は自分でも必死だったが、改めて今振り返ると…さすがに余裕なさ過ぎで情けなくて笑ってしまうほどだ。
「でも、少しホッとした。あそこで振り払われたから、もしや私の相手なんか嫌なのか…って思ってた。」
「そ、そうじゃないですよ!ただ、あの時は友雅さん帰国してばかりで…」
「うん、分かってるよ。疲れてるのに無茶はダメだって、わざと叱り付けてくれたんだろう?」
ひらりと笹に結ばれた、彼女の書いた一枚の短冊。
あそこに記されているように、こちらのことを考えてくれていたから。
ずっと一緒にいるから、あかねは自分のことをよく理解してくれている。
「…だよね。調子に乗ると、止まらなくなるからねえ、私は」
くすくす…と、艶めかしい笑い声。
抱きしめたら、想いを止められなくなる。
何度も繰り返し…愛していたくなるから。自分の体調さえも気にせずに。
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