Just the Way You Are

 003---------
「そもそも、自分の好みなんてよく分からないよ」
これまで付き合いのあった女性に、共通点などあっただろうか。
長い髪とか、身長が高いとか、そういうことを気にした覚えがなかった。
「じゃあ、お付き合いするきっかけって何なんですか」
「さあ…?なんとなく?」
いい加減!と言いながら、あかねが友雅の頭をくしゃくしゃとかき回す。
でも、本当に何となく…という表現がぴったりだと思う。
何となくなりゆきでそんな風に、と。
まったくもって、いい加減だと罵られても仕方ない。
そうやってずるずると、手応えのない交遊が続いていたのだ。

「でもね」
指先を、彼女の唇に当てて。
「後にも先にも、"好き"とか…そういう感情を抱けたのは、あかねだけだよ」
じわじわと、あかねの頬が紅を差して行く。
瞳の奥が微動して、悲しいわけでもないのに目が潤む。
想いを言葉にして告げるとき、彼女にはそんな変化が起こる。
息が掛かるほど近くにいるから、細やかな動きまでしっかりと確かめられる。
「不思議とね、離れ難かった。いつも。」
恋愛感情がまだ芽生えていなかった頃も、会話を終えてそれぞれの場に戻る時には必ず、妙な違和感を覚えていた。
もっと話をしていたいというか、もう少し時間が欲しいというか。
プライベートを共に過ごすようになってからも同じ。
寮の門限に遅れぬようにと分かっていながら、引き止めたい衝動と何度葛藤したことか。
彼女が成人するまでの間、よく耐え抜いたなと当時の自分を誉めたいくらいに。

「それが、結婚した理由にはならない?」
離れたくなくて、離したくなかった。
それっきりの関係で終わりたくなくて、どうしても彼女が欲しかった。
何より
「誰にも渡したくなかったし?」
他の男に取られるなんて、考えたくもなかったし。
自分でもおかしくなるほど、彼女のことしか考えられない現実。
「こんなに嫉妬深い人間だとは、自覚はなかったんだけれどねえ」
「…ホントに」
あかねはふふっと笑って、鼻の先をこつんと当てた。
「ホント、やきもちやきですもんねー友雅さん」
「おや、そうさせたのは誰なのかな?」
戯れ合うように、唇は何度も重なっては離れ、そしてまた重なって。
映画のキスシーンを真似るみたいに、わざと音を立ててみたり。

二人の出会いは、そういう巡り合わせだったのだ。
いずれ結ばれるはずの相手との、赤い糸をたぐり寄せるように。
実習生として病院に来て、そこで彼と出会って。
もしも実習の場が他の病院だったなら、会うこともなかったのかもしれない。
一年遅くても、すれ違ってしまったかもしれない。
あの日、あの場所に二人がいたから出会った。
「そういうことで、良しとしないかい?」
お互いに、心が欲していた相手と巡り会えたという、ストレートで自然な理由。
好みとかタイプとか理想とか、そんな面倒な理由は一切なくて、自らが求めていた人だった、と。
その証拠に、こうして今一緒にいる相手を他の誰かに置き換えられるか?
「…思い付かないです」
「ね?じゃあ、そういうことだ」
あなたしかいない。そばにいてくれるのは。
そばにいたいのは、あなただけ。

「仕事場でも自宅でも天使様に会えるのだからね。幸せこの上ないよ」
「もう…くすぐったいですってば」
抱きしめられて、耳元で何回も囁かれて。
甘い声が神経を痺れさせる。
くすぐったくて、ぞくっとする。
…そっか。
私には勿体ない相手だと思ってたけど、そうでもなかったのか。
好き合っているんだから、結ばれてあたりまえなんだ…私と、彼は。
年齢差とか立場とか、傍目から見たら疑問視されるかもしれないけれど、どうしようもなく好きなんだもの、お互いに。


「さすがにもうそろそろ寝なきゃ」
色々と話しているうちに、日付も変わってかれこれ小一時間。
遅出なら良いけれど、明日も通常通りの日勤。平日の夜更かしは好ましくない。
「私はシャワー浴びてから寝ますけど、友雅さんは先に二度寝してて下さいね?」
「あかねがいると分かっていて、独り寝は出来ないな」
バスルームのドアを開けたあかねの背中を軽く押して、友雅は寝室へ戻って行く。
わずかに残る湯気に混じって香る、柔らかなボディソープの匂い。
さっきまで抱きしめられていた、彼の腕から香っていたものと同じ。
メイクを落として、素顔に戻って。
まあ、化粧したところで…残念ながらあまり変貌はないけれども、と鏡の中にいる自分を見つめる。
それでも、こんな私で良いんだよね。
友雅さんが好きでいてくれるのは、私自身ってことで良いんだよね。
昔は無理に大人びたことをして、彼と対等に向き合えるような努力もした。
柄じゃないこともたくさんした。今思い出してみると、笑っちゃうくらい子どもっぽいことも。
でも、そんなものは何一つ必要なかった。
だって、こうして今私は彼と一緒にいて、一緒に歩いているのだから。

「お手伝いしましょうか天使様?」
「ひゃっ、びっくりしたあ!」
急に鏡の後ろから彼が出て来て、驚いて変な声が出た。
「夜更かしはダメだと言ったのは、あかねの方だよ。時間が掛かるようなら、身体を洗うお手伝いでもさせて頂きますが」
「結構です。友雅さんのお手伝いは、余計時間掛かっちゃいそう」
----なんて、笑いながらそんな甘い冗談を言い合ってから、彼はバスルームを出る。
「ちゃんとお布団の中で、待っててくださいね」
「はいはい。お待ちしております」
まったく、仕事してる姿からは信じられない。
一緒に寝てくれるのを待ってるなんて、まるで子どもみたいなんだから。
だけど、私も同じ。
隣に彼のぬくもりがあるのとないのでは、安らぐ気持ちが断然に違う。
そう、お互い様だ。私も一緒に眠りたい。

彼の隣で見る夢は、いつも幸せな目覚めを連れて来る。
内容は覚えていないけれど、きっとそれは-----------私たちの未来かもしれない。





-----THE END-----




お気に召して頂けましたら、ポチッとしていただければ嬉しいです♪





(2014.07.09)

Megumi,Ka

suga