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幹事二人…というか、新郎新婦が登場したので、宴会も晴れて本番スタートとなった。
しかし始まったとたん二人は引き離され、あかねはずっと女性たちに取り囲まれている。
「ねえねえ、このドレスって買い取り?レンタル?」
「レンタルですよ勿論。だって…レンタルでも凄い値段ですもん、これ」
「でも、橘先生ならそれくらい、ぽーんと買っちゃいそうだけどねー」
確かに友雅はその気だったが、レンタルでも数十万のウェディングドレスだ。
買い取りのオーダーメイドとなったら、それこそどんな価格になるか…。
「さすがに止めましたよ。買ってもらったのは、ベールとティアラだけです」
「はぁ!?このダイヤとパールのティアラを買ってもらったぁ!?」
やっぱり、そう簡単に治まる彼ではなかった。
ドレスがレンタルなら、別のものでフォローというわけか。 それにしたって、ベールとティアラでもかなりの代物だろうに。
さっき英国御用達とか何とか聞いたし、ティアラだってひと目で高価と分かる。
「な、何かドレスに代わる記念になるものを、買った方が良いって友雅さんが言うから、そのー…」
ドレスはかさばるけど、ベールならそれほどじゃないし。
ティアラは着けなくても、飾っておくだけで綺麗だからという理由で決めたのだ。
「はあ…。アンタたちって…もう。いい加減にして欲しいわ」
ため息をつきながら、みんな揃ってあかねを突き回して冷やかしまくる。
恥ずかしいと尻込みしていた気持ちは、もうすっかり消滅。
今はただひたすら、照れくさくてたまらない。
そんな女性陣の中に紛れて、詩紋があかねを覗き込んだ。
「でも、あかねちゃんホントに綺麗だよ、すごく」
いつも素直な彼は、ストレートな言葉で誉めてくれる。
だからますます照れくさくなるのだけれど、やっぱりそう言われると嬉しい。
「うん、綺麗だわよ、あかね」
「ホント。これまで色んな花嫁見てきたけどさ、三本指に絶対入るね」
「うっ…あ、ありがとうございますっ…」
次々に浴びせられる賛美に、肩が縮こまってしまいそうになる…嬉しくて。
羨ましがられるような、そんな花嫁姿を見せたい。
そう思って準備を進めて来たけれど、その願いは一応叶ったと言って良いのかな?
「橘先生が選んだんでしょ?これ全部」
「えっ…分かるんですか?そ、そうです…」
あかねの好みで数点のドレスを選び、最後の最後で決定してくれたのは彼だ。
ドレスだけじゃなく、アクセサリーの一つ一つまでも。
「そりゃ分かるよねえ?だってさ、あかねのこと好き好き〜って審美眼が、どこからでも感じるもんね!」
「ど、どういうことですかソレ〜!」
自覚がないようだが、何となく分かるのだ。
彼のことをよく知っている同僚じゃなくとも。
「でも、友雅さんの衣装は私が決めたんですよっ!」
藤原たちと歓談している彼に視線を向け、あかねが少し自慢げに答えた。
「うん…。アンタの選択、ばっちりだわ」
遠目に彼の立ち姿を眺めながら、女性たちが揃ってうなずいた。
フロックコートを着る新郎は結構いるが、やはり背格好次第で似合うレベルが違うものである。
その点友雅は…申し分ない、完璧だ。
外国人と張り合えるスタイルを持つ彼であるから、それを活かさねば勿体ない。ならばここはやはり、オーソドックスなタキシードよりフロックコートだろう。
「いいわあ、目の保養だわあ…」
あかねのウェディングドレスと共に、友雅がどんな婚礼衣装を着るのか、も同僚の女性たちの間では話題だった。
こうして期待以上の仕上がりを前にして、もはや感嘆のため息しか出ない。
「そろそろ、私の天使を解放してもらえないだろうかねえ」
二つのシャンパングラスを手に、友雅がこちらに向かって歩いて来る。
歩き方も、そのシルエットも、非の打ち所がどーやっても見つからない。
「デザートでも、取って来てあげようか?」
「あ、大丈夫です…まだ」
色々なドルチェが並んでいると聞いたから、ちょっと気にはなるのだけれど、ドレスは借り物だから汚したら困るし。
何よりも、気持ちがいっぱいいっぱいで、食欲がまだ芽生えない。
「先生が食べさせてあげれば良いじゃないですかー!」
「なるほど。そうしようか」
こうなったら冷やかしに徹してやろうと思い立った女性陣は、友雅を遠慮なくはやし立てる。
デザートのテーブルから、小さめのカットフルーツとデザートを取り分け、再び友雅は戻って来た。
「さあ、天使様。口をお開け下さい」
「ちょっと…友雅さんっ…!」
金のスプーンに、ひとかけらのケーキを差してあかねの口元に持って行く。
こんなにギャラリーが多い中で、"あーん"なんて恥ずかしいじゃないか。
「ほれ!何今さら照れてんだよー!あーんしてもらえって!」
森村のかけ声まで手伝って、ますます場内のテンションがピークに達し、ついには"あーん"のコールまで出て来る始末。
「ほーら、早く早くー!何ならあーんじゃなくて口うつ…」
「それやめれ!先生マジでやりかねんから!」
二杯目のシャンパンで調子に乗ってきたイノリが、暴走を促すような発言をしそうになったので、慌てて森村が口を抑えた。
普段からイチャつくのがデフォな彼に、そんなこと言ったらエスカレートするばかりだ。
いくらめでたい席だからと言っても、見せられる方はたまったもんじゃない!
「はやくー!記念写真撮ってあげるからー!」
「あーんするか、それとも誓いのキスをするか、どっちかにしなさいよ」
「ええええっ!?」
「そういうことなら、後者に変更しよう」
「待て待ておいおいー!」
------------ぱくっ。
近付く彼の唇を横切り、ケーキのかけらを口にほおばった。
「残念。天使様にとっては、新郎よりスイーツの方が魅力的らしい」
そういうわけじゃないけれど、ここではこんな回避法しかないじゃないか。
二人きりなら…迷わず彼を優先するけど。
「遅くなってすまない」
ハイテンションの空気をクールダウンさせるような、無機質な声が背後から聞こえて振り返ると、最後の招待客がそこに立っていた。
しかも普段の彼とは縁遠い、大きなバラの花束を抱えて。
「安倍先生〜!待ってましたー!!」
どう考えても違和感のあるレイアウトだが、女性人気トップクラスの安倍がスーツでバラの花束なんて。
こんな、百年に一度くらいの滅多にお目にかかれない光景に、理由はどうあれ遭遇出来ただけでもラッキーだ。
安倍はスタスタと迷わずあかねたちの所にやって来て、そのバラの花を彼女に差し出した。
「結婚披露宴の祝いだ。…おめでとう」
「は!あ、ありがとうございますっっ!!」
聞き慣れない彼の言葉と、彼に不釣り合いなバラの花束を受け取った。
淡いピンクと白のバラの組み合せ。こんなファンシーな色の花束を、どんな顔して購入したんだろう。
……まあ、多分いつもと変わらず無表情のままだろうけど。
「あの…安倍先生、今日のこと知ってたんですか?」
「何がだ」
「いや、その…今日の忘年会がお二人の披露宴というのを…」
今しがた遅れてやって来た彼が、誰かから連絡を受けて花束を買って来た、という想像はしにくい。
それに、このメンツの中で安倍だけが、黒のフォーマルスーツというのにも不自然さがある。
「あ、あのね!それについてはちょっと説明を…」
首をかしげている客たちの背中を、慌ててあかねが叩いた。
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