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Love Me Tender
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マンションのエントランスを通り抜けようとすると
「友雅さん!そこで待ってたんですか!?」
フロント前のロビーには、ソファとテーブルがいくつか置かれている。
オフィスとして部屋を借りている住人もいるので、昼間は打ち合わせなどで意外と需要が多い。
そのソファにゆったりと腰を下ろし、コンシェルジュと談笑している友雅がそこにいた。
「おかえり。退屈だったので、雑談に付き合ってもらっていただけだよ」
彼はそう言うけれど、多分待ってくれていたんだと思う。
手持ち無沙汰でおしゃべりしていたのは、間違いないだろうけれど。
「荷物貸してごらん」
「大丈夫ですよ、小さいし軽いし」
「不足の事態に備えて、片手はフリーにしておくのが良いんだよ」
断っても返ってくるのはもっともな意見ばかりで、反論ができず結局彼の言う通りになってしまう。
それじゃ、とあかねはチョコレートの入った袋を友雅に手渡した。
「来週バレンタインだから、美味しそうなチョコ買って来たんですよ」
「そんな季節か。あかねが選ぶチョコはクオリティが高いから毎年楽しみでね」
「ホントに?」
「私はそちらの知識はさっぱりだからね。いつも新鮮だよ」
楽しみにしてくれているのか…。
そんな風に言ってもらえると、悩んで選び抜いた甲斐がある。
エレベーターが上昇していくたびに、ガラス部分から覗く街の灯りが消えて行く。
ドアの内側にあるミラーの中に、二人の姿が映り込む。
外出帰りの少しドレッシーなスタイルの自分と、シャツにカジュアルなスラックスの普段着の彼。
ちぐはぐっぽくて、でもしっくり馴染んでるようにも見える。
「どうしたんだい」
ミラー越しに映るあかねを見つめ、友雅が問いかける。
「昔ほど違和感なくなったかなーって」
彼の隣に立つ自分と、自分が隣に居る彼の姿と。
付き合い始めた頃から比べて、少しはお似合いになってきたかな。
「私は違和感なんて感じたことなかったよ」
ふと友雅を見上げると、彼はふっと笑顔を作ってこちらを見た。
好きという感情に嘘は通用しない。
誤摩化そうとしても、本心はちゃんと真実を受け入れている。
「通じ合っている者同士が並んでいて、不自然なことなんてないと思うがね」
…そうか。
年齢も立場が違っても、互いに思いを確かめ合っている二人。
かけがえのない人だと認識している者同士が、寄り添っているのは当然のこと…か。
余計なことを考えすぎるのが、知恵を持ち過ぎた人間の悪いクセ。
もっと素直に、直感を信じれば良い。
大切なのは自分の心。そして相手の心。
それらが同じであれば、もう完成系なのだ。
部屋の玄関ドアを開けると、体感温度がぐっと上がった。
マンション内は空調が効いていて寒くはないけれど、室内は更に快適な温度に設定されている。
マフラーやコートを脱いでも平気。セーター一枚でも十分。
友雅が割と薄着な格好でいられるくらいの、そんな室温設定。
「夕飯の支度などしなくて良いよ。出掛けていて疲れているだろう」
帰ってきてすぐさまキッチンに向かったあかねを、友雅が呼び止めた。
「買い物してきてくれたのだし、それで済ませれば良いよ」
「でもおかずだけですよ。ごはんかパンでもないと」
「冷凍したものがあるだろう。余計な労力を使う必要はないんだから」
彼はそう言うと、小分け保存しておいた白米とミネストローネのパックを冷凍室から取り出した。
食器棚からスープカップとカトラリー、プレートを用意する。
てきぱきと手際良くレンジを使う友雅を、カウンターの向こうからあかねがじっと見る。
「なんか…昔を知ってるから今見てる友雅さんが別人みたい」
部屋に出入りする関係になって知ったのは、彼が一連の家事についてあまりに無頓着なこと。
冷蔵庫の中身はからっぽに近い。パンやチーズがあればマシな方。
そんな感じだから食器や調理器具も置いてなくて、これで生活できるのかと唖然とした記憶が。
「天使様に教育されたのでね、一定のことは出来るようになったよ」
「良かったですね〜。これで一人でもご飯作って食べられますよ」
冗談口調であかねが笑う。
「自分の分というよりも、誰かの負担を分担できるのが有り難いかな」
内容や量は違っても、お互いに仕事を持って働いている。
どちらか一人が役目を背負う必要はなく、その時に応じて交代すればいい。
向かない作業もあるけれど、それらも分担すればいずれはコツが掴めるようになる…と実感した。
二人で生活する=生きて行くとは、常にそういうこと。
お互いをサポートしながら、ひとつのことを突き進めて行く。
それが出来る相手こそが、ベストパートナーと呼ばれる人であって………。
ああ、友雅さんに緊張したことない理由、分かった気がする。
実習生には雑用を頼んでも良いだろう、という考えを持つドクターも数名いた。
断りにくい立場だから受け入れていたけれど、不必要な作業を担う必要はないと彼は言ってくれた。
それ以降実習生に雑用が回ってこなかったのは、彼が医局で注意勧告したからだ…という噂を耳にした。
この先生は医療技術だけじゃなく、人に対して平等に考えてくれている、
看護師になったら、こんな先生と一緒に仕事がしたい。
……でも仕事だけじゃなく、結果的に人生の一緒に歩むことになっちゃった。
「チョコレートしまっておくよ」
冷蔵庫のドアを開けて、友雅が中段にチョコレートを入れた。
「あっ、一粒だけ味見…しませんか?」
「気が早いね。いっそアドベントカレンダー仕立てにするかい?」
笑いながらもう一度チョコを取り出し、リボンを解いて蓋を開ける。
強めのリキュールチョコを一粒友雅の手のひらに、弱めのものは自分の手に。
ほぼ同時に口の中に入れる。じゅわっと風味豊かなリキュールゼリーが溶け出す。
「良い銘柄のリキュールを使っていそうだね。でも、あかねには強過ぎるかな」
「こっちも…思っていたよりアルコール利いてる」
甘みは強いけれど、同時にきゅっとしたリキュール感。
ほわっと頬に熱が集まって来たかも…。
「でもあかねには丁度良さそうだ。火照り具合がそそられるよ」
彼女のチョコをもう一粒つまみ上げて、指先でこじあけた唇の隙間から中へ転がり落とす。
「もっと火照らせてあげたくなったな」
身体の芯からこみ上げる熱は、リキュールのせい?
それとも…彼のせい?
この恋はどんなアルコールよりも度数が高くて……甘い。
-----THE END-----
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