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 Part.5(4/4)

何となく席を外した方が良い気がして、特に用もないのに友雅はコンビニにやって来た。
時折店内から車の様子を確認しつつ、デザートひとつと缶コーヒーを2つ選んでレジを済ませて店を出た。
友雅の姿が見えると、あかねはスマホから手を離して姿勢を正す。
「終わったかい」
「はあ、何かあっけないくらいに簡単に終わりました…」
電話に出たのは父だった。
夜遅くに突然かけたにも関わらず、驚きもしないで至って普通のリアクション。
同窓会で帰るから一泊したいと言うと、『ああ、そうか』と。
その後少し話をして、電話は5分足らずで終了した。
「娘と久しぶりに話が出来て、嬉しかったんだと思うよ」
缶コーヒーのひとつをあかねに手渡し、再びエンジンを起動させる。
手の中にじんわり広がる缶の暖かさ、膝に置かれたデザート入りのレジ袋。
「でも、実家に滞在する時間は殆どないですね」
着いたらすぐに着替えて同窓会に行く支度をして、その後二次会やらに参加したら帰宅は11時前後になる。
諸々の雑用を済ませて就寝して、朝になったら食事して、天真と決めた家を出る時間は午後2時。
数年ぶりの帰郷だけど、これじゃとても帰省なんて言えない。
「年末年始にでも、改めて帰ると良いよ」
「年末ですかぁ…」
最後に帰省した時はすったもんだがあって、逃げるように予定を切り上げて戻ってきてしまった。
あれから時間は流れ、状況は随分と変化した。
二人の気持ちも両親のことも、内容はどうあれ進展はしている。
「必要ならば、私はすぐにでも動けるから」
もしも彼女の両親が自分と接したいと言うのなら、どんなことがあろうと最優先しよう。
簡単に事が進まなくとも、納得してもらえるまで手間も時間も厭わない。
「大切な一人娘だから慎重になるのは当然だよ。私だって親の立場だったら、即座にYESとは言えないよ」
例え相手が非の打ち所のない人間でも、心の整理は簡単に出来るものではない。
手塩に掛けて育てて来た我が子の伴侶を選ぶことは、両親にとって悲喜交々の瞬間である。
「いつか私たちにも、そういう日が来るのかもしれないね」
「友雅さんに似た子だったら、モテ過ぎて大変そう」
「あかねに似た女の子なら、嫁がせたくなくなりそうだ」
例え話の会話は毎回冗談めいているけれど、まんざら絵空事というわけでもない。
でも、まずは二人が結ばれることが先決。
目に見える形ではなく、法的に認められるという意味で。
深夜の幹線道路は長く真っ直ぐに延びていて、このままずっと走り続けるのではと思わせる。
しかし実際は、あと数分でマンションに到着する距離。ゴール地点は目の前だ。
自分たちに残されている距離も、思っているほど長くないかもしれない。
動き出せば、あっという間かも。


管理棟の門をくぐり、静まり返った敷地内に入る。
この時間になると窓から明かりが漏れる家は殆どなく、玄関前の常夜灯や街灯だけが道を照らしている。
正面玄関、エレベーター、部屋の玄関といくつかのセキュリティコードを解除し、ようやく帰宅。
暖色系のフロアライトの明かりが、室内の空気を柔らかくする。
遅い時間だが『JADE』でのオードブルしか食べていないので、造り置きしていたポトフを二人で食べることにした。
真っ白な琺瑯の鍋をコンロに掛けて、その合間に彼がスープカップを取り出す。
「帰省するとき、手土産を用意するから持って帰りなさい」
「え、良いですよそんな、気を使ってもらわなくても…」
「良いから良いから。直接挨拶に行けない代わりにね。天真の分も一緒に用意しておくよ」
二人の家族構成を考慮して、それに見合ったものを鷹通の母に選んでもらおう。
また店を訪れてみたいと思ってもらえるような、とっておきの品物を詰め込んで。
「母は終始、美味しいって大満足でしたよ」
「それは何より。いずれは二人揃って食事に来ていただきたいね」
後ろめたさも気兼ねもなく、そこにいる誰もが全員を理解し合っている環境での食事はさぞかし美味だろう。
だが、残念ながらそれはもう少し先。その前に、乗り越えなければならないものがある。
取り敢えず今は、二人向き合って暖かいポトフを味わう。
彼が買ってくれたコンビニのプリンは、スプーンですくって半分ずつ。
濃厚な卵とクリームのリッチな味に、ほろにがいカラメルソース。
甘さとビターが同居している、まるで大人の恋の味みたい。

「明日は『Giada』ですよね」
「店はいつも通りだけど私は午後から。取引先とランチの会食があるんだよ」
「お仕事だから仕方ないですけど、たまにゆっくり休んでもらわないと心配です」
そうあかねが言うと、友雅の指が右頬に伸びて来た。
「心配してくれるのなら、逆にギリギリまで頑張りたくなるな」
「それじゃ本末転倒ですよっ!」
身を乗り出して顔を近づけるあかねに、友雅は自分の唇で応戦した。
他人への興味が希薄だった自分は、誰かを慈しむことの意味を理解できずにいた。
身内にさえ執着など持たなかったし、赤の他人なんてそれこそ自分とは無関係の生き物。
人付き合いは必要不可欠だから、当たり障りなくその場を繕うように接しながら過ごして来たけれど、彼女との出会いはまさにカルチャーショックだった。
こんなにも誰かを想い続けることが出来るのを初めて知り、相手から想われることで沸き上がるものが至福という感情であること。
彼女がいなかったら、幸せの意味や理由を今も知らずにいたかもしれない。
だから、手放せないのだ。
そばにいて欲しいと願ってしまうのだ。
いつもすぐに抱きしめられるところにいて欲しいと…胸にあふれる想いと共に彼女を抱きしめる。
「友雅さん、もうそろそろ寝なきゃ…」
肩越しに見えたデジタル時計の文字が、PMからAMに変わろうとしていた。
明日はいつも通りの出勤。友雅もランチに合わせて午前中には出掛ける。
お互いの気持ちが一致していても、冷静に次の日のことを考えてクールダウンしなければ。
「じゃあ、時間短縮のためにシャワーは一緒だね」
友雅は軽々とあかねを抱き上げた。
彼女のうなじからふわりと薫るローズのコロンに、ストッパーが外れそうになる。
すると細い手が後ろに回って、やわらかな唇が口元に触れた。

「今のキスは、どういう風に受け取っていいのかな?」
問いかけに、あかねは何も答えなかった。
ただ一度こちらに笑顔を見せて、ぎゅっと友雅にしがみついた。




--------THE END




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2018.12.14

Megumi,Ka

suga