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光り降る音
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| 第24話(4) |
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背を向けている友雅には、気付かれることなどあり得ないだろうけれど、今のあかねには知られて困ることなど一つもなかった。
むしろ、自分の中に潜む想いのすべてを、残さず彼に知って欲しいとさえ思った。
彼がつぶやくその言葉の一言一言が、自分のために贈られていることをリアルに感じられるだけで、身体が震えて、そして涙が止まらない。
身体中が歓喜の声を上げている。その証が、この雫に変わる。
「私にただ一つ必要なのは、いつだって君だけなんだ。それ以外は、何も欲しいものなんてないんだよ。」
本当は声を上げて、思い切り泣きたかった。ただ、それが出来なかった理由は、喉まで涙がいっぱいに詰まっているようで声が出なくて。
出来ることと言えば、力いっぱい友雅の背中にしがみつくだけ。それで彼に、この気持ちが伝わっていてくれるのなら良いのだけれど。
想った人に想われることの幸せは、天にも昇るほどの至福感を与えてくれる。それをあかねは、友雅は、今確かに実感している。
「でも、君に必要とされていなければ、私の立場もないけれどもね。こればっかりは、自分で思っているだけでは仕方がないから。」
ふっと笑いを含めた友雅の声がした。慌ててあかねが姿勢を立て直す。
「私は……私は友雅さんが必要です!!」
勢い余って、とっさにそう大声で言ってしまった。少し声が裏返ってしまったけれど。
「友雅さんがいなかったら、私…ここに残る意味がなくなっちゃいます…!」
あかねの声があまりにも息ばっていたので、微笑ましくて顔がほころんだ。何よりも、あかねからそんな言葉を言われたのだから、気分が悪いなんてことあるはずがない。
自分が求めている相手に求められている至福が、確かに今、友雅の胸に芽生えていた。
「あんなに元の世界に戻りたいって思ってたのに…今は、ここに残りたいって、そう思うようになったのは…」
ここを訪れた時、あれほど言葉を切り出すのに苦労したのが嘘みたいだ。思ったことがすらすらと言葉になって飛び出してきて、友雅に伝えたい言葉が次々と生まれてくる。
多分これまで蓄積したものが、溢れだしてきているのだろう。伝えきれなかった言葉も想いも。
「だから…だからっ……私には友雅さんがっ………」
しがみついていたあかねの手がほどけて、がしっと今度は友雅の腕に手を掛けた。
その手を追うように、もう一度彼の手が重なる。
「天真の妹君が言っていた事は正解だ。可哀想だけれど確かに君は、二度と元の世界に帰れないだろうね」
そうして、あかねの手を握りしめて引っ張り上げた。手前に傾いたあかねの身体を、彼の手が受け止める。
「こうしてやっと捕まえることが出来たんだから、私はもう離すつもりはないからね。どんなことがあっても。」
時折、生まれ育った世界を懐かしむ思いに耽ることもあるだろう。両親や友達に会いたいと、寂しさを募らせることもあるだろう。
しかしここに引き止めた以上、そんな思い以上の幸せと至福を必ず彼女に与えてやる。思い出に振り返る暇などないくらいに、いつでもどんなときでも自分が出来る限りの力で彼女を思い続けることを、自分の心に永遠に誓う。
「君を護るために私がいること、君の存在が私を変えたこと……全部本当のことだよ。」
手にするものさえなかった日々は、何てつまらないものだったんだろう。
すり抜けていくだけの留まらない想いは、いつだって身軽にいられて気楽ではあったけれど、決して充実していたとは言い難い。
それから比べたら、今の自分は。
龍神に導かれるがままに白虎の力を与えられ、神子を護り…………そしてただ一人の女性を見つけた。
せつなさの胸の痛みと、激しさの心の熱さ。時折立ち止まっては、変わり行く自分を眺めて微笑ましく思えてきて。
初めて知った、人を愛する心の尊さ。
あのまま生きていたら、きっとそんな経験をすることなどなかっただろう。こんな暖かな気持ちを抱くことさえなく、時間が流れていくままに身を任せていただろう。
面倒なことがないかわりに、つまらない退屈な人生と、振り回されて落ち着かないことが多いが、忙しい現在のような人生と、どちらを選ぶかと尋ねれたら、迷わず今を選ぶだろう。
一度知ってしまった想いのぬくもりは消せない。
もう、彼女が存在しない世の中なんて考えられない。
「全部、事実だ。私が君のことを愛しているということもね」
指先があかねの頬をなぞる。少し湿った肌に涙の雫が残っていて、それらを外から差し込む月明かりが輝かせる。
抱き寄せようと友雅が手を伸ばすと、それよりも先にあかねの身体の重みが腕の中に飛び込んできた。
「友雅さん…っ」
その大きな胸に飛び込んで、あかねは何度も彼の名前を呼びながら泣き続けた。
せきを切ったように溢れる涙は、これまで押し止めていた彼女の中にある感情を吹き上がらせているかのようだった。
「友雅さんっ……友雅さ…ん…」
震えているのは、彼のぬくもりが暖かかったから。
強く両腕で抱きしめられて、その暖かさに身体が反応を示した。
こんなに冷え切っていたんだ、こんなに寂しくて凍えそうなほど、自分の身体は凍り付いていたのだと。
瞳からの雫で濡れたあかねの顔に、まとわりつく絹糸に似た髪の毛を友雅は払い除けた。
そして、その涙に一度口付けをしたあとに、抱きしめた彼女の身体を引き寄せて、花びらに似た紅色の唇を奪った。
「泣きたかったのは私なのだけれどもね」
こつんと額を押し当てて、友雅がそう言いながら笑った。
「君に会えなくて辛かった」
あかねの涙をぬぐい尽くすかのように、友雅の唇が頬をくすぐる。そのたびに鼓動が早まっていくのが分かる。
なのに心は穏やかで安らいでいて、今まで押しつぶされそうになっていたものが消えて、あかねの心を堰き止めるものは何もない。
辛かったのは私も同じ。あなたに会えなくて寂しかった。
毎日あなたの姿を、この瞳に映す時を心待ちにしていた。いつのまにか。
明日になったら、会いに来てくれるかもしれない。そう期待して目を閉じて朝を待つ。次の朝の光景を夢に描いて。
いつもいつも、そんな日々が続いて。あなただけを追いかけて……少し足早に歩き続けてきた。
そして、いつかあなたに追いつくことが出来たとしたら、その時こそこの想いを告げようと思っていた。
真正面に、あなたの顔を見ることが出来るだけの距離になったら。
こうして、その胸に飛び込んで。
-----言えなかった"好きです"の一言を。
「友雅さ…んがっ…好きです…っ」
何度だって言い足りない。
「好き…っ…だい…好きで…す…」
永遠に繰り返す同じ言葉。そのたびに、言葉は更に色づいて深く染まっていく。春の桜色から秋の紅色の楓のように。
ただ一つ変わらないのは、四季という時間の流れの中で常盤木の如く緑を保つ橘の木々。
それこそが、この想い。二人の胸に芽生えた想い。
「何度聞いても嬉しいものだね、そういう言葉は…」
きつく抱きしめてくれる腕に包まれて、友雅の声が聞こえた。
「だい、す………」
そのあとは、言葉を遮られた。深い口づけがとても甘くて、身体が動かなくなっていた。
素直に想いを言葉に込めたあとは、ただそのままで、気持ちを自然の流れの方向へ傾けて。
離れていたのは、ほんの少し。逢えなかったのは、ほんの少し。それでも、長い間逢えずにいた気がする。
だから、一時でも離れていたくない。指一本でも良いから触れ合っていたい。
離れたくない。もう二度と、離れられないとお互いの心が理解しあっていた。
これからもずっと、あなたのそばで生きていこうと。あなたのそばから離れないと誓う。
ふわり、とやわらかな光がいくつか足下を照らしていた。
「紛れ込んできたようだね」
友雅が手を伸ばして宙を掴むと、開いた手のひらの中から小さな蛍が飛び出した。
ほんの小さな光の粒が舞う。二人の出会いを祝福しているかのように。
夜は更けゆくたびに、寒さを感じさせた。
それでも胸の中はとても熱くて。
そして、彼の腕の中は暖かくて。
-------感じるたび、涙が止まらなかった。
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