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光り降る音
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| 第23話(1) |
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たった一人を想い続けることに、憧れていた。
いつかそんな、真実の想いを募らせることのできる人に出会えたら、と夢に描いていた。
その瞬間は突然に、前触れもなく目の前に訪れて、気付いたときにはそんな恋に落ちていた。
恋をして、はじめて知ることがたくさんあった。
想いはいつでも常に正直で、素直で、自分の言葉でどれほど繕ってみたとしても、心の中の想いは不変だということ。
だからこそ、本当の恋だということ。
いくら悩んでも答えは同じ。何度泣いても変わることはない。
彼に出会ってしまったことが、すべての始まりであり、それが答え。
----------心には、もう嘘をつけない。
+++++++
「詩紋くん……」
一日を終えて屋敷に戻ると、あかねを真っ先に迎えてくれたのは詩紋だった。
どことなく申し訳なさそうな表情を浮かべてはいるが、それでも笑顔には変わりなかった。
「あかねちゃん、勝手にこんなことしちゃってごめんね。」
少しバツの悪そうな顔で、そう言った。鷹通や泰明に、こっそりあれこれと口添えをしてしまったことが後ろめたかったに違いない。
だが、それでも彼はあかねから目を反らそうという意思はなかった。
「でもね、悲しそうなあかねちゃんを見てるの、僕も辛かったんだ…」
これまでずっと、肩を落としているあかねの姿を見てきた。時にはその瞳から、涙がこぼれているのも詩紋は見てきた。
自分が手を貸すことで彼女が立ち直れるので有れば、出来るだけのことはしてあげたいと思っていたが、それが出来ないからこそ彼自身も胸を痛めた。
彼女には、いつだって元気でいて欲しかった。
それが、彼にとっての元気の源でもあったからだ。
「ねえ、あかねちゃん…。最初に会ったときに、僕のこと勇気づけてくれたでしょ。」
高欄に腰を下ろして、頬杖をつきながら詩紋が昔話を語り始めた。あかねはその隣にそっと座って、彼の声に耳を傾けることにした。
「僕ね、ずっと、自分に問題があるからいじめられるんだって思って、どこかで自分から周りを寄せ付けないように外に向かっていたんだ。でも、そんなことないんだって、自然にしていれば良いんだって言ってくれたでしょ。そのあかねちゃんの言葉で、僕は生まれ変わったような気持ちになったんだよ。」
他人とは違う姿で、異端の視線を浴びたことは数え切れないほどだった。あかねのおかげで立ち直れたのもつかの間で、こうして京にやってきて再び鬼の仲間だという目で忌み嫌われることが多々あった。
だが、そのたびにあかねが言ってくれた言葉を思い出して、彼女がそばにいてくれるなら頑張れるだろう、と何度も自分を励ましてここまでやって来た。
ごまかそうとするから、かえって周りはその違和感を察してしまうんだ。自然にしていれば良いんだ。
それまでは、ただ小さくなって身を隠していれば良いと思っていたのに、自分を励まそうという想いに目覚めたのは初めてだった。
変わっていく自分が見えるたびに、あかねの存在が詩紋の中で大きくなっていた。
恋という想いではなく、深い友情が更に色濃く変わるように。彼女の存在は、詩紋にとってかけがえのないものだった。
「みんな、あかねちゃんのおかげだよ。」
「そんなことないよ……。詩紋くんが強いからだよ。別に私のせいでもなんでもないよ。」
「ほら、そういう風にあかねちゃんが言ってくれるから、僕は少しだけ強くなれたんだ。だから、あかねちゃんのおかげなんだよ。」
横から顔を覗き込む詩紋は、無邪気に微笑みながらそう言ってくれた。
彼の笑顔に勇気づけられたのは、こっちの方だ。彼が黙っていつも話を聞いてくれたことが、少しだけでもあかねの気持ちを楽にしてくれたのは確かなのだから。
庭先に枝垂れる藤の花は、夜目にも鮮やかに色合いを映し出している。静かに流れる風が、その枝をゆるやかに揺らしていた。
「だからね、そんなあかねちゃんにも……自然でいて欲しいと思ったんだ」
花を眺めながら、詩紋がそんなことを言った。
「自然にまかせて、その想いを大切に育てていって欲しいんだ」
一生に出会えるか出会えないか、運命の相手はどこにいるか分からない。たった一度の選択の違いで、巡り会いの機会を失うことだってあるだろう。
そんな流れゆく時間の中で、お互いに何かを感じることの出来る相手に出会えたとしたら、それは紛れもなく運命の、たった一人の人に違いない。
そうして心の蕾が膨らみ、いつしか花開く時が来る。あかねにとって、彼との出会いがその瞬間だったのだ。
「ねえ、もう気持ちをごまかさないで。あかねちゃんが友雅さんを好きでも、誰もそれと咎めたりしないよ。その想いが、あかねちゃんにとっての自然な想いなんでしょう?」
金色の綿毛から、澄んだ瞳が見える。大きな目で、静かに詩紋はあかねのことを見つめてくれている。
肩も手も触れていないのに、そこにいてくれることがとても暖かくて心地良い。
「だったら、それを閉じこめたりしないであげて。友雅さんは、ずっとあかねちゃんのことを待ってるんだから。」
そう言って、やっと詩紋の手があかねの肩に触れた。
「……友雅さん、もう私なんて呆れちゃってるかもしれない」
「そんなことないよ。友雅さん、そう簡単にあかねちゃんのこと諦めたりしないよ?」
詩紋はそう言って慰めてくれるけれど、あかねとしてはあの時のことを思うと、まだ心が少しだけ重い。
あれっきり顔を会わせることもなく、何一つ連絡さえないのが更に不安を募らせている。彼が今、どんな気持ちでいるのかが見えないから。
でも、例え彼が二度と自分を見てくれないとしても。
それでも、この胸の想いが変わらないことは……充分に理解した。
「蘭に……ちゃんと言おうって、決心したの。」
ぽつり、と小さな声であかねが言った。
丁度その時、二人の背後に足音が近づいていたのを、彼らは気付くこともなかった。
「多分、蘭のこと傷付けちゃうと思う…。謝っても、どうにもならないことだと思う…。でも、私もどうにもならないんだ…。もう、分かっちゃったの……」
-------友雅への想いを断ち切れないこと。
自然に目が潤んできて、胸が詰まった。
「蘭に許してもらえないことも覚悟してる…。だからって、友雅さんにいい加減な態度取ってしまって、もう…嫌われてしまったかもしれないって…それも覚悟してる。でもね、やっぱりもう…駄目。嘘はこれ以上付けないの…」
二人に受け入れてもらおうなんて、都合の良い結果を望んだりはしない。
でも、今は正直に言葉ではっきりと自分の心を確認したいのだ。
友雅のことが好きだ。彼のことがずっと好きだった。
彼が引き止めてくれるなら、この京に残っても良いとまで思っていた。
龍神の神子である役目が終わったあとでも、許してもらえるのならば…一緒にいたいと思った。
………八葉と神子ではなく、ただの男と女になりたいと思った。
なにもかも、包み隠すことのない本当のあかねの心だ。そして、何よりも大切なもの。今のあかねを形成する、大切な想いに他ならない。
「おまえなー。友雅のことを甘く見過ぎてんじゃねーのか?」
突然背後から声がして、あかねたちは二人揃って飛び上がるほど驚いた。
慌てて振り返ると、いつのまにかそこに天真が立っていた。
「あいつ、おまえらが思ってるよりも、かなり手強い男だぜ?」
そう言って上からあかねを見下ろした天真は、指先で軽く彼女の額を悪戯に弾いてみせた。
「あいつはな、諦めの悪い男なんだよ。一度目を付けた女を簡単に諦めたりしねえぞ?覚悟しとけ。」
天真の大きな手のひらが、くしゃっとあかねの頭をかき混ぜるように揺さぶった。
前髪が目に触れたから、痛くて涙がこぼれたわけじゃない。天真の手のぬくもりと、隣にいてくれる詩紋の存在が暖かくて、胸に染みこんできて感情が緩んでしまって。
「蘭に会いに行くときは、着いてってやるよ。そのあとのことは、俺は一切手を出さないけれどもな。」
緩んでしまった感情は緊張をほどき、力がすうっと自然に抜けた。
天真の腕にしがみついて、ただこぼれる涙をそのままにして泣いた。
背中に触れている指紋の手が、支えてくれるのが嬉しかった。
----------大丈夫。心は決めたから。
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