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光り降る音
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| 第21話(1) |
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毎日のように、彼の顔を見られるのが当たり前だと思っていた。
決してそんな確信はないのだけれど。勿論、時には彼の事情で逢えない時もあったけれど、そんなに日を開けて逢えない時間は続いたことがなかった。
朝になると迎えに来てくれている。それが当然のことのように日常に浸透していた。
「最近は友雅殿、随分とご無沙汰でらっしゃいますわね」
「何かと忙しいのでしょう。永泉様を除けば、我々八葉の中で帝の御前に上がることを許されているのは、友雅殿しかおりませんから。」
鷹通が答えた。
今朝方迎えに来てくれたのは、天の白虎である鷹通だ。これまで何かと治部省の仕事がたてこんでいたらしく、屋敷にやって来たとたんに深々とあかねたちに詫びた。相変わらず生真面目で利発な青年である。
そういえば、鷹通と会うのは久し振りだ。天地の白虎と祠を探しに出掛けた時以来かもしれない。
地の白虎である友雅とは、あんなに頻繁に会っていたのに…随分と偏った付き合い方をしていたな、と改めて思う。
何もかも無意識だった。心の動きと同時に、自然に行動も素直に反応していたからこそ、彼の目に止まるところに常に自分はいたのだ。
こうして彼が屋敷に来なくなってから、そんな自分に気付く。自分にとって、どんなに彼の存在が大きいものであったのかを。
今更、あの時の答えを覆すことなど出来ないと知りながら、胸に突き刺さるあの日の彼の瞳をまだ忘れられないでいる。
「これは…泰明殿。おはようございます」
後ろを振り返った鷹通の背後に、泰明が立っていた。屋敷にやって来たという知らせさえもなく、足音さえも誰一人気付くこともなく。いつのまにかそこにいた泰明は、まさしく風のように現れたという表現が相応しかった。
「神子、鷹通の他に付き添いがいないのならば、今朝は私が付いて行ってやる。」
「丁度良かった。今、もう一人の八葉を神子殿に伺おうとしていたところです。神子殿、せっかく泰明殿がお越し下さったのですから、今日は御一緒にいかがですか?」
鷹通はあかねに問いかける。泰明の申し出を断る必要はない。あとから誰かがやって来るわけもないのだ…そんなことは、もう二度とあるかどうか分からない。
「はい。じゃあ泰明さん…お願いします。」
軽くあかねは頭を下げた。
泰明は何も言わない。ただ、少しの間あかねの姿を見つめてから、二人よりも先に車寄せへと歩いていってしまった。
■■■
詩紋の部屋に天真がやって来てから、かれこれ2時間ほどが過ぎていた。
彼が来訪した理由は、先日目の当たりにした、あの時のことを詩紋と話し合うために他ならなかった。
「天真先輩……友雅さんが蘭さんのところに通うようになって、どれくらい経つんですか?」
「多分、あいつがここに来なくなったのと同じくらいなんじゃないか?」
つまり…八葉の仕事をするよりも、蘭の屋敷を訪ねることを優先しているということか。あかねの相手をするよりも、蘭の琴の指導の方が良いという意味で。
友雅は兼ねてから八葉の立場には熱心ではなかった。だが、あかねがそこに存在するという意味が、彼の心を変えたのだと詩紋は思っていた。
いつしか友雅が土御門を訪れる回数は増えて、あかねが彼と共に出掛けていくことが多くなった。
その頃からきっと、友雅の中ではあかねに対する想いが芽生えていたのだろう。なのに今になってこんなことをするとは、どうしても思えない。
「天真先輩は……あかねちゃんが友雅さんのこと、好きなの…気付いてた?」
突然の詩紋の言葉に、天真は驚いて彼の青い瞳を見つめた。
「………今更、何を言ってんだよ」
本当に今更そんなことを言われなくても、あかねの様子を見ていればあからさまに分かるじゃないか。
他の八葉と一緒にいるときの表情と、友雅と一緒の時とでは雲泥の差があるほどだ。彼といるときはどこか落ち着きがなくて、それでいてどこか甘やかな雰囲気がして。
その変化は、時には天真にとっては悔しいほどだった。自分がどれだけそばにいようか、あかねにとっては友雅一人がいる方が重要だと思い知らされる。
悔しいけれど、仕方がない。それは事実に違いなくて、そんなあかねの顔が…やけに幸せそうに見えたから何も言えなかった。
それよりも悔しかったのは、蘭が同じような表情で友雅の前にいるのを見たときだ。
ただ、明らかに違うものがあったのだが。
「友雅だって、あいつの事が好きなんだろう?」
「………天真先輩、知ってたの?友雅さんがあかねちゃんのことを好きなの…」
びっくりしたように詩紋が言った。天真は深く溜息をついて語り始めた。
「…こないだ、熱くくって掛かられたぜ。あいつを元の世界に連れて帰るんだったら、アクラムじゃなく俺たちを敵と見る、まで言われたからな」
今でもあんな瞳を見たことがない。普段の友雅からは想像も出来ない、圧倒的な力を発していた彼の瞳の強さ。さすがの天真でも呑み込まれてしまいそうなほど、熱く激しい炎の塊のようだった。
「蘭のところなんて通う余裕なんかない、と言ったくせに…」
あんなにあかねへの想いを語ったくせに。何故にこんなことをしている?来る場所は蘭の所ではなくて、あかねのいる土御門ではないのか。
彼がぱったりと姿を現さなくなってから、既に4日が過ぎている。まだ4日、でななくてもう4日だ。
それでもあかねから友雅に会いたいという言葉もなく、ただ日々が過ぎている。友雅のいない日々が、一つずつ流れ去っていく。
「あかねちゃん…もしかして友雅さんに、お別れしたのかな…」
詩紋が、ぽつりとつぶやいた。
「あかねちゃん、ずっと悩んでたんだ。蘭さんが友雅さんのことあんなに好きなんだから、自分が友雅さんを独り占めしちゃいけないって…ずっと悩んでたんだよ」
「はあ?そんなの悩んでもしょうがねえだろ…。友雅の奴は、はあかねのことが好きなんだろ?。蘭がどう思おうが、どうしようもないだろう」
「それはそうなんだけど…。でも、あかねちゃんはさ、最初に蘭さんに『仲を取り持って欲しい』って頼まれたのを引き受けちゃったから、それでずっと気に掛けてたんだと思う。その頃はあかねちゃんも、友雅さんの想いは知らなかったから片思いだと思ってただろうしね…」
だから、蘭もあかねも同じ位置にいるものだと思っていた。
でも、それはいきなりの急展開を迎えてしまった。彼の想いは、あかねに向かって流れ続けていたことを知ってしまったから。
抱いていた想いを手渡して、その代わりに彼の想いを受け取った。
まるで結婚指輪の交換のように、気持ちのやりとりの中でお互いの想いを確かめ合ったとき……その想いが通じたのだと確信して喜びに溺れた。
しかし、取り残されたもう一人の彼女の姿が焼き付いて離れない。
それは、もしかしたら自分だったかもしれないと思うと、知らないふりをすることが出来なかった。
どちらかしか選ばれないと分かっていても、彼女が彼と会うときの微笑みを見るたびに、自分だけ幸せでいいのだろうかと胸が痛んで。そして悩んで。
吹っ切るための選択肢は二つ。
自分が身を引くか、それとも彼女に二人のことを打ち明けるか。
「で、あかねは身をひく方を選んだってことか?」
「…そうすれば、全部つじつまがあってくるでしょ。あかねちゃんが身をひいたのなら、友雅さんは前みたいに頻繁に来る必要はないわけだし。それに、きっとそうなら…あかねちゃんは、蘭さんのところに通ってやってくれって、きっとそう言うと思うもの」
天真が苦み走った表情で、うっとうしそうに頭をかきむしった。
「ばっかじゃねえのか!何でそんな自分から被害者になる必要があるんだよ?いいじゃねえかよ、蘭が失恋すりゃいいことだろうが!って…元々既に失恋してんだからよ」
想った相手が自分を想ってくれているなら、それをそのまま素直に受け止めれば良いだけのことだろう。そう願っていたのだから、それを否定する必要なんてないだろう。
既に連れ添う者がいるならともかく、お互い一人一人の個人なのだから問題はないはずなのに。
何故こんなにも面倒な展開になってしまうのか。
単純に考えれば、誰でもそう思うだろう。
「うん…そうなんだけどね…でも、あかねちゃんはそういう女の子だから……」
それが彼女の長所でも短所でもある。
自分を抑えてでも誰かの幸せを願う心の広さ。それは時にして自己を被害者に仕立ててしまう残酷さもある。
他人を被害者にすることを避ければ、どうしても結果はこうなってしまう。
彼女はそういう方向を選ぶ人間だ。だからこそ、こんなにまで切なくてもどかしい恋を味わうことになってしまった。
「……でも、友雅はそう簡単に、蘭の方になびく男じゃないぜ」
天真が言った。詩紋も、同じように思った。
あれほどに想いを深めた友雅ならば、きっとあかね以外の女性に心を奪われることなどない。今は、なんとなくそう確信出来る。
「蘭さんも…それじゃ可哀想だよね。絶対にこっちを向いてくれない友雅さんと会っていても………」
それぞれの想いは、複雑に入り乱れて困惑の中にいる。
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