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光り降る音
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| 第19話(3) |
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「これまでのことは、私の思い過ごしだったのかな」
肩をつかんだ友雅の手が、ふわりと離れると同時に彼の声がした。
とっさに隙を見て表情を伺うと、気怠そうに憂いを背負った友雅の表情が目を貫いた。
「それとも、君はまだ私の心に気付いてくれていないのかな」
片目にかかる前髪を、うっとおしそうに掻き上げた友雅は、独り言のようにそんなことをつぶやいた。
あかねには意味が分からなかった。
だが、そんなことを考えている余裕さえなかった。
一度離れたかと思った友雅の手は、あかねの肩ではなく背中に伸びてきた。
そしてもう一つの手は、力強くあかねの手首を握る。
背中の手が腰を支え、強引なほどの力が身体を引き寄せる。
そのあと………瞬く間だった。
押さえ付けられたあかねの身体の上に、重ねられた大きな影。
そして、熱い唇。
愛しさの想いを込めて抱きしめてくれる、その腕の強さが嬉しくて泣きそうになる。重なる唇で心を求めてくる熱情に溶けてしまいそうになる。
何度も経験した、その甘い時間を彼はいつも与えてくれていた。
目の前が真っ暗になったのは、友雅の影のせいだけじゃない。求めてくる友雅の唇を、自分がどうしても引き離せなかったからだ。
分かってる。こんなことは……許されないということ。あの夜に、とっくに自覚できていた。
でも、やっぱり嘘がつけない。自分の前では嘘なんか言えない。
………好きなんだ。
………友雅さんのこと……好きなんだ。
その答えに反論する自分はいない。
それが唯一の答えなのだから。
「…逃げないね。嫌がらないのは何故?」
口付けのあと、友雅の腕の中に閉じこめられたまま、あかねはまだその言葉に答えることが出来ない。
「私は君に、自分の想いを伝えたつもりで居るのだけれど。それに対して、君はどう思っているの?」
何度友雅が尋ねようと、あかねの中にある想いは変わらない。
好きで、好きで仕方がない。ずっと追いかけていたのは、あなたの姿だけだった。
あなたに近付きたくて、一生懸命に後ろを追いかけ続けていた。
今まで………そして、今でも。
「答えなさい。私は君の本心が知りたいだけだ。」
蘭の想いだけではなく、彼は気付いているはずだ。あかねが自分に恋をしているということを。
だが、それは友雅にとっても同じことだった。
形で示した想いの告白を、彼女が否定せずに受け止めていたのは、お互いの心が同じ場所を求めているからだ、と疑わなかった。
だからこそ、本人の言葉で確かめたかった。
この想いが片道ではないことを。
なのに、あかねは口を開かない。自分の問いに答えてはくれない。頑なに身体をこわばらせ、友雅の腕の中で小さくうずくまって顔を伏せている。
どうすればいい…?もう一度強く抱きしめれば良いのか。それとも…全てを奪ってしまえば答えてくれるだろうか?
欲しいのは、あかねの言葉だけ。
胸の中に飛び込んできてくれたなら、優しく甘く包み込むことができるというのに。
沈黙は長く続いた。どれくらいの時が流れただろう。
お互いは言葉も交わさずに、あかねは友雅の視線から顔を背け、おぼろけな友雅の瞳は彼女の姿を輪郭だけ捕らえていた。
「………明日、またここにくるよ」
声が聞こえて、あかねはやっと顔を上げた。
「君が聞きたかったのは、それを承諾してくれる私の言葉だったんだろう?」
…………ずきん、と突き刺さるような痛みが胸を走り抜けた。
突き放すような冷たい声。さっきまでの様子が嘘のように、その声は無感情に近い。
「私に何を求めているのか分からないけれど、断る理由も用事も特にないからね。その代わり、明日の付き添いは休ませて貰うよ。あちらもこちらも相手は出来ないからね」
あかねは友雅の顔を見上げた。だが、視線は絡み合うことはなかった。
今度は彼が、あかねから目を反らしていた。もう、二度と見下ろそうとはしないような気がした。
「……はい。分かりました。蘭に…よろしく言ってください。」
たった一言。それだけ言えただけでも充分だったと思う。
今にも胸の奥に息が詰まって、苦しくて声にならないのではないかと思ったくらいだから。
あかねは深く友雅に頭を下げて、くるりと背を向けて歩き出した。
友雅の方向とは逆に向かって、ゆっくりと歩き出す。息を詰めて。
そうでもしないと、このまま泣き崩れてしまいそうな気がした。
++++++
彼女の背中が消えてしまうまで、友雅はそこに立ちつくしながらじっと眺めていた。
まだこの腕の中に、彼女のぬくもりがしっかりと残っている。唇の暖かさまで、覚えているというのに。
触れることが出来ても手に入れることの出来ない彼女の心は、友雅が思い描いている『桃源郷の月』そのものだった。
諦めきれるか?一度灯ってしまった炎を、吹き消すことが出来るか?
そんな方法があるのだろうか…。
浮かんでくるのは、未だに彼女の笑顔しかないこの現実を、変えることが果たして出来るのだろうか。
欲しいものはお互い同じものなのに、何故それを手にすることが出来ないのだろう。
目の前にあるものを、手を伸ばせば届くはずのものを。
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