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光り降る音
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| 第19話(1) |
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「そなたが良いと思ったことを、実行に移すが良い。結果がどうあろうと、自分で決めたことならば諦めもつくだろう」
最後に晴明は、念を押すようにあかねにそう言った。
あかねはうなづくこともなく、ただ軽く晴明に礼をしてから庵を一人であとにした。
「全てこれで滞りなく、神子の気も正調に戻ると思って間違いないか?」
泰明が口を開くと、晴明は決して首を縦には振らなかった。
「さあな。それは神子次第というものだろうな。神子が自分で選ぶことしか出来ない答えだ。私にはどうすることも出来ぬよ。」
それでは解決になっていないのではないか………と、泰明は訝しげな表情をしたが、晴明は当然のように言葉を続けた。
「自分で決めた答えが求めない結果であったとしても、それを運命と受け止めてしまうか、それとも自分からその結果を覆そうと動き出すか。それくらいの強い気がなくては…龍神の神子とは言えぬだろうよ。これは、あの娘が神子であるが故の試練の一つでもあるのだからな。」
あかねの選ぶ答えの行き先は、まだ誰にも分からない。
あかねの心しか、それは知らない。
■■■
母屋に帰ってくると、天真と友雅の二人はのどかに晴明の式神たちにもてなしを受けているところだった。
「おう、もう用事は済んだのか?」
他人の屋敷だというのにすっかりくつろいで、唐菓子をかじりながらあぐらをかいている天真があかねを見上げる。
「…うん。」
小さくうなづくだけで、あかねはどこか心有らずにぼんやり立ちつくしている。そこに友雅がいることも眼中にない様子で、瞳の中に輝きが見えない。
「何かあったのか?泰明の師匠に、変なことでも言われたか?」
変化に気付いた天真は、即座に立ち上がってあかねの肩を叩いた。彼女の小さな肩が、いつも以上にうなだれているようなか細い感触を手のひらに伝える。
「ううん、別にそんなことないから…気にしないで。取り敢えず、もう出掛けなくちゃ。あまりゆっくりしてたら、回れるところも回れなくなっちゃうものね」
ぱたん、と両手を合わせて音を立てたあと、顔を上げてあかねは明るく笑った。
そうして、天真たちとそれ以上顔を合わせることなく、足早に自ら先に屋敷の外に出ていった。
何でもないと口で言って見せても、あきらかにその変化は見て取れる。
晴明たちにどんなことを言われたか知らないが、あかねにとってはあまり聞きたくないことを指摘されたに違いないと天真も友雅も思った。
ただ、これ以上彼女の深いところに声を届けることが出来なくて、そのまま二人はあかねの後を追いかけるように屋敷をあとにした。
+++++
既に陽は充分高くなってきている。天気は良いが、これから夕暮れまでに足を伸ばせるのはせいぜい一箇所か二箇所くらいに留められてしまうだろう。
思いがけなく泰明たちに捕まってしまい、今日はこれ以上の遠出は無理かも知れない。
「で、次はどこに行くんだ?まあ、あまり遠くはもう無理だろうけども。」
二人から少し距離を置いて、前を歩いているあかねの背中に天真が尋ねた。すると、予想もしなかった返事が返ってきた。
「……蘭…のところに、ちょっと行きたいんだけど、良い?」
「はぁ?何でまた。あいつに何か用事でもあるのか?」
いきなり蘭のところに行きたいなんて、何を言い出すのかと天真は一瞬首を傾げた。用事があるのなら最初に行けば良いのに、何故今になって突然そんなことを言い出したのが検討がつかない。
「ちょっと…大切なことがあって……駄目かな」
あかねはちらりと天真の方を覗き込んだ。
これから蘭のところへ行くとなれば、必然的に友雅も同行することになるだろうし。天真にとってはやはり、彼を蘭のところに連れて行くのは気分の良いものではないだろうと思うが。
でも、思い立ってしまったのだから。今、動かなかったら更に悔やみ続けることになるだろうから。
決心がついている今だからこそ、早く決着をつけてしまいたい。今を逃したら、また迷い道に入って出られなくなりそうで。
「……構わねぇけどな、別に…。用事があるってんだったらしょうがねえ」
渋々天真はあかねの言葉を聞き入れた。
友雅がいる手前、蘭に会わせたくはないのだが…それよりも、どこか思い詰めた憂いぎみのあかねの姿の方が気に掛かっていたからだった。
彼女が何を理由に、蘭に会いに行くのか天真には見当のつかない。それは友雅もそうだろう。
晴明の処から戻ってきたあと、あかねは正面から彼らに向かい合っていない。
どこかよその方向へ視線を反らしているか、背を向けているかのどちらかだ。
何かの変化が彼女の中に生まれてきている。何となく、そんな直感がした。
+++++
蘭が身を寄せている寺院に着くと、既に顔なじみになっている初老の住職がやってきて、すぐに中へと三人を招き入れてくれた。
友雅が上がろうとしたとき、一瞬天真が不機嫌そうに何か言おうと振り返ったのだが、あかねがその腕に手を掛けたせいで天真もそれ以上先に出ることが出来なかった。
「…こいつも連れて行くのか?」
ムッとした顔で、天真が潜めた声であかねに尋ねる。
「連れて行かなかったら、蘭が怒るよ…。それに、せっかく友雅さんが来てるのに、逢えないんじゃ可哀想だもん」
そう答えて、天真の前をあかねは歩きだした。
いくら友達だからって…自分の好きな男を恋敵に会わせたいものだろうか。例えお互いが既に気持ちを受け入れあっているとしても、だ。
それとも、他の女が友雅に恋をしたところで、自分たちの絆は解れることはないとの自信の現れか?
--------あかねが、そんなに強いはずがない。それくらいのこと、天真も充分知っている。
なのに何故、こうして蘭に友雅を会わせようとするんだろうか。
声をかければ振り返るほどの距離にいるのに、あかねの心は天真には全く理解出来ない。
戸を開けたとたんに、その表情はぱっと明るくなった。
それはあかねの姿でもなく、天真の姿でもなく。そこに友雅の姿を見つけたからだった。
「途中、近くまで来たから…寄ってみたんだけれど、迷惑じゃなかった?」
「え、ぜ、全然!かえって退屈していたところで…出来ればこちらから遊びに行きたいと思っていたくらい」
彼女の指先に触れていた琴は、使い込まれていて弦も艶が出てきている。外にも漏れてきていた音色を聞く限り、かなりその腕も上達してきていると思われる。
「この間よりも良い音が出るようになったね。若い女性らしい、清々しくて美しい魅力的な音だ」
友雅に誉められ、蘭の頬がふわりと紅をさす。天真は不服面丸出しだが、好きな男に誉められることほど嬉しいものはない。あかねには、その気持ちがよく分かる。
それにしても天真としては、全く面白くない展開だ。出来れば引き離したい蘭と友雅の距離を、これでまた縮ませてしまうのは更に彼女の気持ちを高めるだけのことになってしまう。
何とかしたいと思ってはいるのだが……そう漠然と手口を考えているとき、突然あかねが思いもよらないことを言い出した。
「あの…友雅さん、良かったら蘭の琴の指導、してあげてくれませんか?」
あかねがやっと友雅の顔を見たのは、この時だけだった。
「……構わないが、そんなことをしたら日が暮れてしまうよ?他に行かなくてはならないところがあるのではないかい?」
天真だけではなく、あかねの言葉に一瞬戸惑ったのは友雅も同じだった。
いきなり蘭のところに行きたいと言い出したかと思えば、ここで自分に彼女の琴の指導をしてくれと言う。
用事があるというのは、この事だろうか。しかし、そんなことをいきなり言い出すのもおかしい。
「私、ちょっと疲れちゃったんで…。少し休みたいと思って…。せっかくだから蘭のところなら、のんびり休ませて貰えるかな、なんて。だから…その間、友雅さんに蘭に付き合ってもらいたいんです。」
微笑みながら、あかねはそう告げる。こちらを向いて話しているのに、瞳の先はどこか遠くに向いていて友雅を映していない。
無意識になのか、それとも故意的にそうしているのか。彼女の視線を真っ直ぐに捕らえなくては、その本心まで見抜くことは出来ない。その行動の意味と、その言葉の意味の本質を知りたいのに。
「友雅さん、お願いします…」
ぺこりと頭を下げたあかねは、どこか他人行儀な姿に映った。
そのせいだろうか、友雅はすんなりとあかねの願いを聞き入れてしまった。
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