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光り降る音
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| 第16話(弐) |
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「藤姫の話だと、今日は野宮の方に行くのが良いみたいだね。」
詩紋はそう言って、後から続く二人よりも少し先に向かって歩いていった。
あかねと友雅は、ほぼ同一線上に歩いている。
歩幅も速度も普通は違うのに、今日は何故かぴったりとお互いの歩調が噛み合うので離れることがない。
多分…友雅が速度を合わせてくれているのだろうと思う。出来るだけ距離を保ちたい気がするのだけれど、これではどうにもならない。
近くにいたら、自分に歯止めが利かなくなりそうで怖い。
あんなに一晩中悔やんで悔やんで、時に涙をこぼしたりしたというのに、そこに彼の手があったとしたら、きっとしがみついてしまいそうだから。
「神子殿」
先を歩いている詩紋には、その声は聞こえないだろう。隣にいるあかねにしか、友雅の声は聞こえない。
「昨夜は……………」
言葉がそのあとも続くことは明らかだった。
しかし、その先を聞いてはいけないような、そんな気がした。
今、友雅が口にしなくても、昨夜のことなど忘れられないままでいる。
あかねは友雅の隣をすり抜け、一気に前に向かって足早に賭けだした。目の先には詩紋が、流れる川のしぶきを眺めていた。
「し、詩紋くん…何か、あったの…?」
慌てて駆けてきたあかねに、詩紋は少し驚いた様子だったが、すぐにその川面を指さした。
「…小さな魚がたくさん泳いでるから、何の魚なのかなーって思って」
目を遣ると、透きとおった小さな魚が群れをなして皮を泳いでいる。
「ホントだ。メダカみたいに小さいね!何の魚かな?」
はしゃいでいるあかねが、無茶をしているのは詩紋にも分かった。
顔を上げて、後ろから歩いてくる友雅の方を見ると、彼が小さな溜息をついているのを詩紋は見逃さなかった。
■■■
二人の間に、距離感を覚えたのは錯覚ではないと思う。
どちらかと言うと、あかねの方が自分から友雅との距離を遠ざけているように見えた。
多分、それは夕べのことのせいだろう。
あかねが朝まで寝付けなかったことを、詩紋は知っている。
夜中喉が渇いて目覚めたとき、どこか落ち着かず何度も寝返りを打ちながら、時には起きあがってぼんやりしていたり…そんな彼女の影を、部屋の外から見ることが出来た。
詳細まで知ることは出来ないが、二人で出掛けた夜の中で、おそらく彼らの心はごく至近距離まで近付いたに違いない。
詩紋は友雅の想いも、あかねの想いも知っている。どちらかが踏み出せば、あとは急速に流れていくものだと思っていた。
しかし、あかねは…思っていた以上に自制心が強すぎたらしい。
彼女のことを思い出さなければ、彼女など構わずに愛し合う者同士、自然に愛し合えばそれでいいのに。
それが一番、真実に近いことなのに。あかねは彼女のことを思い出してしまった。
どうしてそこまで自分を押し込めるの?
友雅さんが好きなのは、彼女じゃなくてあかねちゃんなんだって、もう分かっているはずなのに。
あかねのか弱い想いが歯がゆい。
しかし、その気持ちが分かるだけに、詩紋も複雑なのは一緒だった。
■■■
竹林に包み込まれている野宮は、静かな空気が流れていて心までが静まっていく。緑に囲まれると、どことなく神聖な気持ちになれる、そんな場所だ。
「今日はちょっと蒸し暑いのに、ここはひんやりしていて気持ちいい所ですよね」
大きく深呼吸をしてから、詩紋がそう言って振り返った。
しかし、後ろから着いてくる二人の足取りは、何となくどこか重たい。お互いの気持ちの方向が違っているような、そんな感じがする。
このままではいけないような、そんな気がした。
「あかねちゃん、ちょっとそこの木陰で待っててくれる?僕、神社の宮司さんに用事があるんだ」
立ち止まってこちらを向いた詩紋が、突然そんなことを言い出したので二人は驚いた。
「こないだ知り合ったお爺さんの…お孫さんが、病気だから神社のお札が欲しいって、そう言ってたの思い出したから。だから、ちょっと頼んでくるよ。」
詩紋はあかねに告げると、すぐに鳥居の奥へと向かって走り出したのだが、その背中を慌ててあかねが追いかけようと足を踏み出した。
だが、その足音に気付いて詩紋がすぐ振り返る。
「あかねちゃんはそこで待ってて。僕一人だけで大丈夫だから!」
「で、でも……っ」
戸惑う彼女の表情の意味は、ここに取り残された時の自分への不安から生まれるもの。
一人で取り残されるよりも、今は友雅と二人きりになることが何よりも不安で落ち着かない。
「僕と一緒にいるよりも、友雅さんと一緒にいてくれる方がきっと安全だよ。すぐ帰ってくるから待ってて。」
手を伸ばして、詩紋に駆け寄ろうとするあかねの肩に手が触れる。
軽く触れただけなのに、その手のぬくもりは一瞬にしてあかねの身動きを止めた。
「しばらくここで待っておいで。ここにはまだ穢れの気が感じられないから、詩紋一人でも心配することはないよ」
友雅の言う言葉にあかねは黙っていたが、本心は首を横に振っていた。
詩紋のことは信じてる。不安に思うことはない。
むしろ不安に思うのは、これからの…この時間。
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