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光り降る音
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| 第15話(2) |
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「友雅さんと一緒に見た蛍、綺麗だった?」
二人きりになったあと、詩紋はあかねに尋ねた。
黙って彼女がうなずくのを見て、ただ『よかったね』とだけ答えた。
好きな人と二人で見るものは、どんなものでも美しいはず。ただでさえ綺麗な蛍の灯りも、友雅と一緒ならば夢の世界のように幻想的だっただろう。
手を伸ばせばそこに、思い焦がれる人がいることが、どれほどに心を満たしてくれるのか。
何処に行こうと、何処であろうと、その人がいてくれるだけで良い、そんな想いを二人は味わったことだろう。
それが例え、想いを相容れないままであったとしても。
「詩紋くん……私………」
しばらくしてあかねが、うつむいたまま言葉を切りだした。詩紋はそっと首を傾けて、彼女の話を聞く姿勢を取る。
「友雅さんに……好きだって…そう言われたの……」
少し頬を染めてうつむいて、あかねはそう答えた。
詩紋は突然の打ち明けに、少々驚いたが一気に胸のつかえがすっと取れたような爽快感を覚えた。
「そうなんだ…。あかねちゃん、嬉しかった…?」
こくり、と詩紋の言葉にあかねはうなづいた。
友雅があかねに想いを寄せていることは、詩紋にはしばらく前から既に周知の事実だったのだけれど。ただ、どちらが先に前に出るか…と、その機会がいつなのかと思っていたのだが、今日友雅が踏み切るとは思わなかった。
でも、早くても遅くても、友雅が踏み込んだ一歩はあかねにとっては幸福の一歩だろう。
「私…嬉しかったの。ホントに…ホントに嬉しかったの…。友雅さんが抱きしめてくれたとき、嬉しくてどうにかなっちゃいそうだったの……。」
二人で過ごしたわずかな時間を思い出しながら、あかねは感じた想いを詩紋にゆっくり打ち明けた。
その一言一言の口調から、あかねがその時どれほど幸せに溢れていたかが分かる。好きな人に好きだと言われることは、そんなに安易に起こる事ではない。だから尚更、その事実を知ったときの幸福感は想像出来ないほどの充実感に包まれるに違いなかった。ここにいるあかねの表情が、それを物語る。
しかし、しばらくするとそんな面持ちの片隅に潜んでいた、いつもの虚ろな面影がふっと過ぎる。
「だけど、ホントにどうにかなっちゃってたみたい……」
苦笑しながらあかねは、両手で顔を覆った。
「私、今の今まで……あんなにずっと考えてた蘭のこと……忘れてた……」
さっき天真の言葉を聞いて、あかねは今まで忘れていたことを全て思い出してしまった。
蘭は…………
蘭は、友雅のことが好きだったのだ。
友雅に抱きしめられてしまった時から…それらをすべて忘れていた。
忘れてはいけないことだったのに。
蘭は、嬉しそうにあかねが友雅との橋渡しをしてくれることを待ち望んでいたのに。
裏切ってしまった。しかもいとも簡単に。
あんなに耐えてきた想いが、こんなにあっさりと崩れてしまうなんて………。
「私…すごく嫌な…子だよね…。あんなに蘭の力になってあげようって…一生懸命頑張ってたのに…こんなに簡単に裏切って…自分だけ…幸せ味わって……」
止まらなくなった涙の意味は、許し難い自分への戒めの形。
何よりも許せないのは、友雅が抱きしめてくれていた間、わずか一瞬たりとも彼女のことを思い出さなかった自分。
少しでも脳裏に過ぎってくれたなら、心を堰き止めることだって出来たはずなのに。
出来たはず……出来た……だろうか?本当に?
思い続けた友雅の瞳に映るのが、龍神の神子である自分ではなく、元宮あかねという一人の少女であったことを知らされた時、本当に想いを止められることが出来ただろうか………。
恋は盲目。彼の目の前では、何もかもが消え失せてしまう。そうして二人だけしか見えなくなる。
広げられた友雅の腕が、自分のためだと分かったその瞬間から……心は境界線を飛び越えてしまった。
本気で恋に溺れてしまいたかった。あの人の腕の中で…そのまま永遠の眠りについてしまいたいとさえ思った。
それほどに熱い想いを抱いていたのに。
「友雅さんだって一人の人間だから…他人の思うように人を好きになってもらうことは難しいよ」
絹色で作られたような柔らかな金髪から、済んだ色の瞳があかねを見つめる。あどけなさの残る少年の言葉は、あかねの心を傷付けたりはしない。
「あかねちゃんは蘭さんのために、一生懸命自分を制止してキューピッド役をしているけれど…でも。友雅さんが好きなのは…蘭さんじゃなくて…あかねちゃんなんだから」
それは紛れもない事実。どれほど蘭が友雅に想いを抱こうと、彼の心はあかねにしか触れることを許されない。
どんなにあかねが自分を押し殺して、二人の距離を近づけようとしたところで、蘭が進めばそれ以上の歩幅で友雅はあかねの方へと向かう。
そうそううまく行かないのが恋というもの。
唯一お互いを確かめ合えることが出来るのは…あかねと友雅の二人だけなのだ。
「蘭さんに……本当のこと、打ち明けてみたら?」
友雅が好きだった。そして、友雅に想いを打ち明けられた。
独りよがりの片思いだけなら諦めがついたけれど……もうどうにもならないのだ、と言ってしまえればいいのに。
蘭は傷付くかも知れない。だけど、このままこんな状況を続けていたからと言って、友雅が振り向いてくれるかという確証はない。
それならば、いつか気付くだろう。そのタイミングがいつになるかが問題なだけ。
「このまま気持ちを隠して友雅さんと逢っていても、また苦しくなるだけでしょ?いつか言わなきゃいけないんだったら…早い方がきっと……」
詩紋の説得に対して、あかねは首を何度も横に振る。涙の小さなしずくがなびく。
「言えない…言えないよ…。だって蘭は友雅さんに会うとき、ホントに嬉しそうに、幸せそうに笑うんだもの…。その顔を私、ずっと見てたんだもん…。それを今になって『あきらめてくれ』なんて…都合良すぎるよ…。そんなこと言えないよ……蘭が可哀想だよ………」
責任は自分にもあると思う。こんなことになるんだったら、早いうちに自分の想いを蘭と一緒に共有していけば良かったのだ。それなのに臆病になって一歩退いてしまったから、こんな風に混乱して胸を痛めることになったのだ。
はっきり言えば良かった、最初から言ってしまえれば……。
恋していたんだ、と。いつの頃からかは覚えていないけれど、自分も友雅に恋していたんだと言えば良かった。
しかしきっかけを逃したときから、自分からその手を伸ばしてはならないと、ずっと思いを押し止めていたはずだった。
「私がバカだったんだよ……全然思ってたことと違うことやったから……だからこんな結果を招いて……。みんなのこと傷付けて……全部私が……っ……」
同じことばかりを考えて、その繰り返し。
何度も悔やんで自分を責めたところで現実は変わらないと知っている。
走り出した想いは、もう戻れない。
狂おしいくらいに心があの人を求めているのに、彼女の微笑みが邪魔をする。
苦しくて熱くて………倒れそうなほどに恋の病に冒されている。
詩紋はあかねの涙をぬぐおうともせず、ただその呼吸が落ち着くまでずっとそばで肩を抱いていた。
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