光り降る音

 第7話(2)
「さっさと帰れよ。あかねの顔は見たんだろ、もう用件なんかないだろうが」
「そうだね。最後に一目でも、神子殿を目に焼き付けることが出来て嬉しかったよ。」
軽く手をかざして、あかねに合図を送る。
たったそれだけの仕草。なのに胸が熱くなってしまう。情けないほど単純に反応する感情が心に広がる。
「きょ、今日はありがとうございました!」
あかねは慌てて立ち上がり、立ち去ろうとしていた友雅に声をかけた。
彼は足を止めて、もう一度こちらを見る。
「私こそ楽しかったよ。今度一緒に出掛けられるのは、蘭のところに行くときかな?」
「えっ………」
声が詰まった。

詩紋は黙ってあかねの様子を見ていた。
天真はというと、すぐにでも怒鳴る体勢になっている。
「なんだとぉ!?」
「せっかく誘ってもらっているのに、断ることなんて出来ないしねえ。兄として、天真も彼女の喜ぶ顔を見たいだろう?」

当然のように余裕で笑顔を向ける友雅を、天真は今ほど小憎らしいと思ったことがなかった。
蘭の名前を出せば、こっちが大人しくなると知りながら言っているに違いないのだ。その見透かされた態度が酌に障る。
「別にねえ、そんなに過剰反応しなくても良いだろうに。夜更けに私が彼女のところに通うというわけではないのだから。」
「ふ、ふざけんじゃねえぞ、てめえ……!!!!」
こらえきれずに掴み寄ろうと天真が飛びかかったが、一瞬の隙を友雅は見逃しはしなかった。
飛んでくる拳を、彼の手はしっかりと掴んで力任せに天真の身体全体を転げるように投げ出す。
その様子はわずかな差での、見事な一本取りという感じだ。
「神子殿の前で粗相なんてしないから、安心しておいで」
「……ちっ…!」
イライラしながら、天真はぷいっと顔を反らした。

「それでも心配かい?ならばもう一人付き添いをつけようか」
と、友雅が言ったあとに視線を当てたのは、残った一人。綿毛のような黄金色の髪を持つ少年。
「……え?僕…ですかっ?」
突然の指名に、詩紋が戸惑った表情を浮かべる。
「どうやら天真はこれでもかなりの心配性らしいからね。どうだい?これだけ人数がいれば文句はないだろう?」
友雅は天真の機嫌を伺ったが、まあそれくらいで大人しく引き下がる男ではないだろうし。
つんとそっぽを向いた顔は、二度とこちらに向くことはなかった。

ちらり、と詩紋は隣のあかねの横顔を見る。
友雅の姿を捕らえながら、その瞳の奥から発せられる静かな視線は、別の何かを見つめているように見えた。
その表情は、どこか寂しそうで。そして切なそうで。
詩紋には、そんな風に思えて仕方がなかった。

「それじゃ。神子殿、夢の中でまた逢おうね」
同性でもぞくっとするほど甘美な台詞を、あくまでも自然に囁いて友雅は部屋を後にした。




「あかねちゃん…蘭さんのところ、行くの…?」
詩紋が尋ねた。気付くと、座り込んでいた天真もこちらを見ている。
「あ、う、うん……。明後日くらいに、また遊びに行くって約束してたから…。その時にでも一緒に…ね。詩紋くんも一緒に行くんだよね?」
「うん。僕は構わないけれど………」

-----貴女は?本当に、構わないの?彼を蘭に会わせてもいいの?
彼女の笑顔の方が、自分の喜びよりも大切なの?
今にも泣きそうな…そんな目をしているのに------

声に出して尋ねることは出来なかったけれど、何度もあかねに問いかけてみたかった。
自分の笑顔よりも、友達の笑顔を見る方が嬉しい?
友雅と一緒にいるとき、どれほど幸せそうに微笑んでいるか気付いていないのだろう。
蘭の想いを蹴散らせとは言わないけれど、一度あの笑顔を見てしまったら、今の彼女の表情は胸に痛い。

ままならない恋の狭間で、悩む姿が崩れそうに儚げで。
支えてあげられるのなら手を貸してあげたいけれど。
だけど、それは…彼の手しか意味を持たないものだから、そっと見守るしかないのが歯がゆくもあったりして。

「勝手にしろ」
捨てるように言い残して、天真はさっさとその場を後にした。

「強情だよねえ…」
笑いながら、あかねはそうつぶやく。
それは『笑顔』ではなくて、『苦笑』の表情に違いなかった。


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Megumi,Kasuga