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白雲の果て、春の雪
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| 第19話(2) |
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「何だ泰明、まだ不服そうな顔をしておるな?」
美味い酒と華麗な音楽に包まれた宴の中、相変わらず納得行かないような顔で座り込んでいる泰明に、晴明がもう一度声を掛けた。
「わしがおまえよりも先に懐妊に気付いたのが、そんなに気に入らないか?」
「……そういうわけではないが」
とか口で言っても、眉間にしわを寄せて黙りこくっていては、不機嫌なのはあからさまだ。
「偶然にな、上手い具合に気付いたのだよ。」
晴明は盃の残りを飲み干し、それを盆に戻して泰明と向かい合った。
「異界に戻った彼らが、何故突然京にやって来たのか…その原因を調べていた途中でな、運良く気付くことが出来たのだよ。」
「えっ?ぼ、僕らがここに来た理由…分かったんですか!?」
詩紋が身を乗り出したが、それは他の者も皆同じだった。
天真だけは、泥酔していて気付いていないが。
「おそらく…それもまた偶然のことだろう。だが、それもそなたらでなければ、有り得ないことだったのではないだろうかな。」
偶然…。自分たちに関わる特別な何かが反応して、こんな再会の機会が設けられたと、晴明は言っているのだろうか。
「あの戦いが終わったあと、神子も八葉もその役目から解かれた。だが、それは表向きのことであってな…神子が存在する限り、龍神はその加護を持って神子の背後に常に着いている。そなたはまだ、龍神の神子であるのだよ。」
まだ自分が…龍神の神子?。あかねは少し驚いた。
京を護る必要もなくなった今、こうして新しい生き方を選んでここにいる自分が、まだ…神子だと晴明は言う。
あかねの存在が龍神を存在させ、この京に穏やかな気を広げているのだと。
「で、神子がいるのだから…八葉もまだまだ健在というわけだ。その証拠に、普段の生活に戻ったあとも、常にそなたらは神子を忘れておらぬだろうが。」
晴明が笑いながら言う。
皆、近くにいる者と顔を見合わせては、心の中でうなずいた。
それが、神子の存在によって作られた、そなたたちにしかない深い絆の証だ----と晴明は言った。
「そうなれば、互いの対になる四神が気になるのも当然。うちの泰明や、鷹通殿などは近くに相手がおるが…そうもいかない相手もおる。ふと、どうしているのか気になったり…したことがないか?」
頼久殿、イノリ、そして詩紋や天真。
答えを探るように、彼らの顔を晴明は順々に見る。
「そんな意識が…ほんの一瞬、偶然に一致する時があるとすれば…な。一つや二つの一致なら些細なことも、多くの力が同時に動いた時、予想外のことが起こることもあるだろう。」
「え、それじゃあ今回、僕らが京にまたやって来られたのは……」
「たまたま、ということだろうな。」
------例えば。
彼らは今頃、どうしているだろう?もう一度会えたら良いな…とか。
互いにそんなことを考えて、それが偶然にも同時に…であったなら、ひとつの思いが倍になる。
魔力や法力なんてものよりも、遥かに強いのは人の念。
それが一時期に重なり合ったなら……時空さえも動かすことだって不可能とは言えないのかもしれない。
「……僕ら、あの時、神泉苑でお祈りしたんだ。もしも…もう一度会えたらっていいなって」
桜の花が舞う神泉苑で、気軽な気持ちでそんな風に祈った。
だけど、決していい加減ではなかった。
叶うとは思わなかったけれど、もしも…を諦めきれなくて。
「天真先輩、その時は笑ったけど…一緒にお願いしてくれた。だからあの時、僕らは一緒に………」
出来るのならもう一度…彼女たちの今を知りたいと思って。
もう一度会える機会があれば、と二人で祈ったのだ。
単なる気持ちだけのことだと分かっていながら。
「あのね…私、詩紋くんたちがやって来る直前にね…友雅さんとお花見の話をしてたの…。」
詩紋に続くように、あかねもあの再会の瞬間を思い出していた。
「私の世界では、桜をどんな風に楽しむのか、って友雅さんが聞いたから、いろいろと思い出して話をしてたの……」
桜が満開になれば、どの時代の人々も花を愛でにやって来る。
宴の形式は少し違えども、賑やかに花とともに過ごそうと思うのは同じ。
大人になれば、折り詰めのお弁当とお酒なんかを飲みながら、ハイテンションで大騒ぎするかもしれないが、当時はあかねたちも高校生と中学生。
校庭や学校へ続く街路樹の桜を、お酒の代わりにコーラやジュースを飲みながら歩いたり。
お弁当の代わりに、購買部でパンなんか買って食べたりしながら、裏庭に座り込んで桜を楽しんでいたりしたのだ。
「時々詩紋くんが手作りのお菓子を持って来たりして、って話してた…。」
懐かしいなあ、と思いながら、そんな昔話を彼に聞かせていたところだった……。
「そんなことが…可能なのですか…」
驚いたようにつぶやく鷹通を、晴明は見た。
「普通で考えれば無理だろうが、何せ神子と八葉の力があるとすれば、不可能でもないだろうよ。」
そして何より、彼女を護るために龍神が存在する。
あかねの気と同化している龍神が、その気持ちを汲んでくれたのかもしれない、と晴明は笑った。
「もしくは、そなたたちの間に、近いうちに新しい命が芽生えることを予測して、皆が揃ったところで私に気付かせたのかもしれんしな。」
「……ふむ。だとすれば、龍神というものは、なかなか気の利いたことをしてくれるのだな。」
永泉たちの演奏を聴いていた帝だったが、晴明たちの話は興味深いもので、つい耳を峙てていた。
帝自身、龍神や四神というものの気は、全く感じることが出来ない。
だが、もしもこの話が事実であるならば…粋なことをするではないか。
「しかし、それなら八葉の私に気付かせれば良いはずだが」
大人しく晴明の話を聞いていたと思ったら、泰明は相変わらず仏頂面で、まだまだ納得するまでに至っていない。
髭を弄りながら、晴明は呆れたように彼を見る。
「仕方あるまい。おまえはこれまで、神子と友雅殿のことで奔走しておったのだろ?どう二人の仲を繕うか頭がいっぱいで、そちらには意識が向けなかったのだろ。なので、私が代役となったというわけだ。」
そういえば、確かに…。
永泉やら鷹通やらに相談を持ちかけられて、友雅の乱れた気をどうしたものかと悩んではいたが。
「ご、ごめんなさい泰明さん!私たちがドタバタしてたから…」
申し訳なさそうに、あかねは何度も頭を下げる。
当時はかなり深刻だったことも、今は笑い話のようなことで。
泰明も呆れているんじゃないかと思ったのだが…。
「構わん。おまえたちが平穏になったのなら、それで良い。気にするな。」
静かに目を伏せて答えた彼の表情は、かすかに笑みが浮かんでいた。
暖かな橙色の明かりが照らす中、優雅な調べは響き続ける。
琵琶と笛だけの音とは思えぬ程に、音は荘厳でどことなく華やかで艶やかだ。
「でも、本当にそうなら…もう、二度と会えないってことはないんだよね?」
あかねの隣で、イノリと共に耳を傾けていた詩紋が、そんなつぶやきをこぼした。
そんなタイミングの良いことは、滅多に起こるはずはないだろう。
けれど…起こらない確率は100%ではない。
こうしてあの時のように、みんなで時を過ごしているのは、夢や幻ではなく現実なのだから。
「例えまた別れたとしても、再会出来るチャンスは…あるよね?」
心が呼び合えば、奇跡は起こる。
きっと、また会えるときが来るはず。
「……うん、そうだよね。」
例え生きる世界が変わっても、会える可能性はゼロじゃない。
「父様?」
千歳の声がして、あかねは子ども達の方を見た。
すると向こう側で、友雅が二人に向けて手招きをしている。
「ご一緒に奏でましょう、と申されているのではありませんか?」
鷹通が言うと、二人はびっくりしたような顔をする。
「だって私、全然練習しておりませんわっ!」
「ぼ、僕もこんな曲なんてまだ……」
二人が戸惑っているにも関わらず、友雅はこちらにおいでと合図を送っている。
「大丈夫ですわよ、文紀様、千歳様。お父様がちゃんと、教えて下さいますよ。安心なさって。」
ぽん、と子どもたちの背中を藤姫が叩くと、彼らは彼女を見上げてから、もう一度父の方を見た。
あかねは文紀の龍笛を、鷹通は千歳の琵琶をそれぞれに手渡した。
少し躊躇しながらも、彼らは楽器を抱えて友雅のところへ向かっていく。
そして千歳は友雅に寄り添いながら、文紀は永泉の隣に腰を下ろして、彼らをお手本にしながら懸命に音を奏で始めた。
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