出産を全て終えたあかねは、西の対にある寝所に移動されていた。
床の中で横になり、一人安静にしていた彼女だったが、友雅がやって来ると肘を着いて起き上がろうとした。
「ああ、ダメだよ。もう少し横になっておいで。」
慌てて友雅は、あかねをもう一度寝かせる。
何時間も苦痛に耐えた身体は、完全に体力を消耗しているはずだ。
すぐに食事な出来ないだろうから、しばらくは眠って力を蓄えるしかないだろう。
「眠った方が良いよ。疲れているだろう?」
「うん…。でも…もうちょっとだけ、友雅さんのこと見ていたいから。」
ふふふ、と愛らしく笑って、あかねはこちらを見る。
「君が普通の身体で、そんな台詞を言ったなら、絶対に眠らせないんだけどねぇ」
そんなことを言いながら、友雅は横になった。
あかねの隣に寄り添い、普段一緒に抱き合って眠るような格好で。
「まゆきは?」
「兄上と姉上に、お守りを頼んできたよ。」
もちろん、五つの子ども二人にお守りが出来るわけがない。
でも、鷹通や頼久、イノリや永泉も一緒にいるし、何より祥穂がいてくれるから…大丈夫だろう。
「喜んでいたでしょう、あの子たち」
「今にも飛び付いて来そうだったよ。特に千歳の方がね。」
光景がすぐに思い浮かんで、あかねは声を上げて笑った。
今までは文紀の妹扱いだった彼女も、今度はれっきとした姉になる。
「千歳以上のおてんばさんになったら、どうしましょうねえ?」
「ま、それも可愛くて良いんじゃないかい?」
我が子に対しては、本当に甘い彼。
きちんとした指導もするけれど、基本的にはやっぱり親バカ…だなあ、なんて思うと吹き出したくなる。
出会った頃は、こんな人だとは思わなかったよね…。
恋をして、結ばれたあとでも、自分の中にあった友雅さんのイメージは、今の友雅さんとは違ってた。
だけど…そんな友雅さんが好き。
私たちの子を、惜しみなく愛してくれる、父親としての友雅さんも好き。
そして、いつもそばにいてくれる友雅さんが…。
辛いときも、病めるときも…って、結婚式の誓いの言葉みたいに、私のそばにいてくれる。
離れずにこうして、今も隣にいてくれるから…。
「よく、頑張ってくれたね…」
彼女の頬を両手で包んで、友雅は上半身を起こす。
唇を重ねて、優しく抱きしめて、そうしてもう一度唇を重ねた。
「改めて、君をこんなにも愛している自分に気付かされたよ」
「……友雅…さ…ん」
目を閉じて、彼の腕に抱かれる。
今は遠慮なく、愛してくれ…と甘えてみたい気分。
これからはまた、母親として忙しくなりそうだけれど、今日くらいは…。
「友雅さん…そばに…いて。ずっとここにいて…」
「離れないよ。どんなことがあっても、君の側にいるよ。」
指と指は、しっかりと結びあって、ほぐれないように。
寄せ合う身体は、ぬくもりが伝わるほどに距離を狭めて、疲れた彼女を胸に抱く。
「愛してるよ…あかね……」
幸せをくれる、君のことを誰よりも愛している。
そして、そんな君が私にくれた愛の証の子どもたちも、同じように。
君に寄り添って、君を愛して、初めて分かる"愛"というものの意味。
出逢えなかったら…恋に落ちなかったら。
それが君じゃなかったら……こんな幸せを感じることはなかっただろう。
もう、そんな自分を想像することなんて、とても出来ないけど。
「あかね、眠ったのかい?」
手と手を握りあったまま、あかねの反応は言葉ではなく、寝息のリズムに変わっていた。
汗ばんでいた肌も落ち着きを取り戻し、彼女は穏やかな眠りに身を投じている。
外は、いつの間にか暗くなっていた。
今夜は雪がしんしんと降り積もる、静かで寒い夜になりそうだ。
けれど、君のそばにいれば。
こうして手を繋いでいれば…いつだって春の暖かさに包まれる。
ふと思い出して、友雅は小窓を少し開けてみた。
白い雪景色の中に、ひっそり咲き続けているのは、枯れることのない永遠の桜。
淡い紅の花を雪に負けないほど多く付けて、まるで…まゆきの誕生を祝っているように思える。
いずれあの子にも、この桜を見せてやろう。
春の美しさや夏の緑の鮮やかさ、色づく秋の木の葉も…そして、白銀の景色の美しさも全部。
そしていつか、見えないものの中にある幸せの意味も、聞かせてあげようか。
君たちが生まれた意味。
君たちが、愛の証として命を授かったことを。
いつか、ちゃんと教えてあげよう。
愛することの尊さを。
”彼らに幸せが訪れますように。"
愛する人と共に、愛する者たちの幸せを願う……そんな毎日が、幸せに溢れていることを。
また明日から、幸せな日々が季節に溶けてゆく。
遠い未来も、近い明日も。
愛する者たちに囲まれている限り…永遠にこの春は、終わることはない。
-----THE END-----
お気に召して頂けましたら、ポチッとしていただければ嬉しいです♪
|