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Oh,happy rainy day
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| 003 |
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「…まったく、君らはどうしてこうも、私を喜ばせてくれるんだろうねえ」
「私は関係ないですよ?友雅さんを"お父さん"って呼ぶのは、あの子たちだけですから」
笑いながら、あかねはクローゼットのドアを開ける。
屋内とは言えど雨だから、白っぽいものや薄過ぎるものは止めておこう、と着ていく服を考える。
と、背後から伸びて来た両腕が、彼女をぎゅっと抱きしめた。
「しらばっくれても、ダメだよ。あの子たちに助言をしたのは、君だろうに」
「んー?まあ、ちょっとだけ。でも、お父さんを喜ばせたいと言い出したのは、あの子たちですよ」
先週は父の誕生日だった。
今週は父の日。
連続してしまうから、スルーしても良い気がするけれども、やっぱりちゃんと感謝の気持ちを伝えたいし。
だから、喜んでもらうことをしてあげたい。
二人揃って、子どもたちはあかねにそんな事を言った。
「あまりかしこまらなくても、良いんじゃない?って言ったんです。例えば、お庭の綺麗なお花を飾ってあげたりしたら、喜ぶんじゃないかなーとか」
朝食のお手伝いは、全部やってあげるとか。
お部屋のお掃除をしてあげるとか。
「あとは、肩たたきとか?父の日の定番ですけどね」
お金を掛けるものではなくて、ちょっとした心遣い。
何よりも、父を喜ばせたいという彼らの一言が、きっと友雅には一番だと思った。
「…よく分かってるね。さすがに、私の愛妻殿だ」
くすくす笑いながら、あかねの顎を引き上げる。
壁に身体を押し当てて、抱き合いながら重ねる唇。
静かに降り注ぐ雨音が聞こえるけれど、それよりも互いの心音の方が激しい。
「綺麗な花を選んで摘んでくれたよ。でも、紫陽花は…ないのだね」
青紫の淡い彩りが、白い花に添えられたら綺麗だろうに、と友雅は感じた。
「紫陽花は、ダメだって千歳に教えちゃいました」
「どうして」
「…だって、花言葉が悪いから。父の日だって言っても、友雅さんに送るのなんて、嫌だもの」
紫陽花の花言葉は…その花の色の変化通りに、"移り気"。
「花言葉に影響するって、思ってる?この私が?」
ちょっとバツの悪そうな顔をしたあかねに、彼はぐっと顔を近付けて来た。
深い色の瞳の中に、彼女の姿しか映っていない。
距離を狭めて腰を取り、ふわっと身体が浮いたかと思うと…そのまま柔らかいシーツの上に。
「出掛ける予定がなかったら、今すぐ全身全霊で私の"本気"を分からせてあげるんだけどね」
甘美な台詞で囁きながら、繰り返すのは口づけと吐息の愛撫。
「紫陽花には、ろくな花言葉はないけど、ひとつだけあかねにぴったりな言葉があるんだよ」
「え…?」
笑いながら、友雅はあかねの耳元に唇を近付ける。
「元気な女性、っていう花言葉もあるんだ。君によく似合うじゃないか」
「げ、元気な女性…ですか」
確かに移り気とか、そういう言葉よりはずっとマシだけど、何となく色気が無いような気も。
そして、その言葉が自分にぴったりというのも…女性らしさが薄いような感じがしないか?
複雑そうなあかねの顔を見抜き、友雅は言葉を続けた。
「君は私に、たくさんのパワーをくれる。そばにいてくれるだけで、いろいろな影響を与えてくれたのだから」
はじめて、真正面から人と向かい合ったこと。
はじめて、心を惹かれたこと。
はじめて、人を愛したこと。
はじめて、未来を考えたこと。
「あかねが元気で微笑んでくれるから、私はこうして生きているのだし。そのおかげで、可愛い子どもたちも授かって、父親になれたし」
そんな彼女の血を受け継いだ千歳だって、その花言葉にぴったりじゃないか。
「きっとまゆきも、紫陽花に相応しい姫君になる。あかねの娘だからね、間違いないよ」
あれほど幼い彼女でさえも、その元気さが皆に微笑みを与えてくれるのだ。
それもまた、目の前にいる愛しい女性の血のせい。
「悪い花言葉なんて、必要ない。気になるようなら、忘れるまでとことん愛してあげても良いよ」
そう言って、また塞がれる息。
同時に互いの背中に回した手が、二人の身体を解いてくれない。
このまま、確かめ合えたらいいのに。
----------なんて考えていると、きまって現実に戻すものが間に入って来る。
ベッドサイドの電話が鳴り響き、受話器を取ってみると千歳の声が聞こえて来た。
『お洋服の支度、整ったの。父様たちは、もう大丈夫かしら』
「ああ、そろそろ行くよ。みんなリビングで待っておいで」
電話を切ると、くすっとあかねが笑った。
二人の間を邪魔する相手も、愛しい者たちならば大歓迎だ。
幸いにも雨は強くはならず、せいぜい霧雨程度の一日になりそうだ。
こんな天気に外出なんて…と思ったにも関わらず、ミュージアムは割と人手が多いようだ。
子どもたち向けの体験イベントなどもあり、家族連れも珍しくないが、さすがに友雅たちとなると人目を惹く。
「詩紋殿っ!」
ちょこんとカフェに顔を出した千歳が、厨房に戻ろうとした詩紋を呼び止めた。
「あ、千歳ちゃん!もしかしてお父さんと一緒?」
「そうですの。父様も母様も、みんな一緒ですの」
ふと顔を上げると、そこにはまゆきを抱えた友雅が立っていた。
「個室を予約してあるのだけど、もう用意は出来ているかな?」
「え、そうなんですか?じゃあすぐに聞いて来ますね!」
詩紋に会えてニコニコしながら、千歳は赤いくつをとんとんと鳴らす。
その隣にぴったりと、見守るように文紀は着いている。
「みんな、この子たちのこと見ているよ」
友雅に耳うちされたあかねは、さっきから気になっていた視線に、ちょっと目を向けてみた。
カフェには老若男女の客が大勢いるが、皆子どもたちをちらちら見ながら、声をひそめて微笑んでいる。
『ね、あの子すっごい可愛いの!お人形さんみたい』
『男の子の方も、ちょっと凛々しくって可愛いねー。子役モデルとかかなあ?』
どこかから、そんな声がいくつも聞こえている。
「ふふ、実はこれが目当てでもあったんだけれどね」
「は?どういうことですか」
やがてスタッフがやって来て、詩紋と一緒に彼らは個室へと案内される。
歩きながら、友雅はあかねの問いに答える。
「私たちの可愛い子どもたちを、みんなに見せびらかしてみたかったんだよ」
後ろを振り返り、唖然とするあかね。
そしてにっこりと笑う友雅。
「…ホントに、友雅さんの親バカには呆れちゃう」
そう言いながらも、あかねの笑顔はどこか嬉しそうで。
詩紋のあとを着いて行く子どもたちと同じように、きらりと瞳を輝かせていた。
-----THE END-----
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