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翼の設計図
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| 011 |
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「殿、奥様がお目覚めになられたようですので、寝所の方にお連れしてしばらく横になって頂こうと思うのですが。」
賑やかに沸く部屋の中に、侍女の一人があかねの様子を伝えにやってきた。
「ああ、それじゃ私も心おきなく同席出来るね。いや、ここまで我慢を強いられてきたせいで、近づくなと言っても無理にでも突破してしまいそうだよ。」
ようやくあかねのそばに行くことが許された友雅は、ホッとしながらも気は急いていた。
早くあかねの顔を見たい。 そうしたら…何と言ってあげようか。何と言って、この大業を讃えれば良いだろう。
それともただ、抱きしめてやれば良いだろうか………。
ふと、胸に抱いた子供たちの顔を見た。
……残念ながら君たちで手は塞がれているから、お母さんを抱きしめてやることは出来ないね。
友雅は苦笑しつつ、大きな瞳をして父を見上げる二人の子の額に、軽く口付けをした。
産室用の白い御帳台から離れて、あかねは普通の床の上に横たわっていた。
疲労感というよりも、今は脱力感の方が強い。
何せ二人もの子供を、ずっと一年も身体に宿していたのだから、それが取り払われたとなると虚無感に近い感覚がある。
……でも、良かった。無事に元気に赤ちゃんが生まれて………。
感想は、その一言に尽きる。
今頃彼らは、友雅の腕に抱かれているだろうか。
「奥様、殿がいらしておりますよ」
御簾の向こうから、祥穂が顔を出した。
そしてその背後から続いてあかねの前にやって来たのは、会いたくて仕方がなかった大切な人。
ずっとずっと、この手を握りしめていてくれた、大切な人。
「友雅さん………っ」
視界がどこかぼんやりとしているのは、疲労に身体全体が浸っているせいだろう。それでも彼の輪郭だけは、しっかりと捕らえることが出来る。
友雅の手が伸びて、優しく頬を撫でた。力みのせいで、少しむくみの帯びた頬が熱い。
「落ち着いたかい?しかし驚いたね…君が一人で、こんなに美しいものを二つも抱えていたとは。まさか一度に宝物を二つももらえるとは思ってもみなかった……」
ふと目をやると、彼の腕には二人の赤子が抱かれていた。それを見たあかねは、ほっと一息ついて静かに微笑むことが出来た。
「……二人とも、元気……ですか?」
「ああ。さっきまで大泣きしていたのだけれど、抱いてやったら少しは大人しくなったようだ。何とか父親の面目は守ることが出来たようで、私としても安心したよ」
あかねの小さな笑い声が、その場の空気を穏やかに変えてゆく。
「本当にご苦労だったね……。君一人に苦しい思いをさせただけで、私は何一つしてやれなかった。男なんて何の役にもたたないね…」
友雅がそう言うと、あかねの手が彼の指先をしっかりとつかんだ、
「そんなこと、ないですよ。私、あの時ずっとこうして友雅さんが手を離さないでいてくれたから、頑張ることが出来たんですよ。『友雅さんがついていてくれるんだ』って思ったら、気が少し楽になって……」
この大きな手が、自分を包み込んでいてくれたから。
心細さも何もなかった。そばにあなたがいてくれていると、それを感じるだけで幸せになれた。
「それじゃ、少しは君の役に立つことが出来たのかな?」
「勿論ですよ。友雅さんがいなかったら……くじけちゃってたかもしれない」
あかねがそう言って、微笑んでくれるのなら…こんな男の手一つでも価値があったと言える。
それだけで心は熱い想いで溢れる。
「さ、君はまだ抱いていなかっただろう?君が生んだ私たちの子だよ。その腕で抱いておやり。」
友雅は、少し身を起こしたあかねに文紀を受け渡した。
「うふふ…お人形みたいな指ですねぇ…。くにゃくにゃしてて柔らかい…」
文紀を見るあかねの微笑みは、これまで友雅が愛した幼い少女ではなかった。この長い人生の時の中の、わずか一年あまりの日々の中で彼女は変貌を遂げ、今は母としての慈愛の笑みへと変わっていた。
共に寄り添って過ごした毎日の中で、改めて気付くことは数知れない。
だがその中で友雅が目を離せずにいたのは、紛れもなくあかねの変化だ。
ただ可愛いだけの少女にありったけの愛を注ぐことだけで、いつしかその姿は女に変わる。蛹が羽化するように、蕾が大輪の花へと花弁を開くように、目の前にいる姿は少し大人びている。
千歳を左の腕に抱きかえて、友雅は伸ばした指先であかねの顎をそっと持ち上げた。
「……すっかり美しい女になったね」
そう囁くと、ほわっとあかねの頬が赤く染まる。そんな愛らしい仕草は少女の頃のままだ。
「な、何を言いだすんですか☆またからかって…………」
照れくさいのかごまかしたいのか、わざと強気に言い返そうとするあかねの唇を、友雅はそっと自分の唇で塞いだ。
「一人前の女でなくては、こんなに美しい小君たちを産むことなど出来やしないよ。」
そうして母の慈愛を心に宿したときから、少女は確かに『母』という女になる。男が常に、どこかで求め続けている、幼き日に包まれた母のぬくもりと同じものを…今度は愛する女から感じるようになる。
「君は私の…最高の宝物だ。何にも代え難い…最高の女性だよ」
あかねは何も言わなかったが、少しだけ彼女の瞳の奥がきらりと光って潤んだように見えた。
「……君を愛して、本当に良かった。」
その囁きのあとのくちづけは、はじめてのくちづけの味に似ていた。
君に出会って、はじめて『愛する』意味を知ることが出来て
君に出会って、燃えるような想いを知った。
……命というものの愛しさを知ることが出来たのも、君がいてくれたからに違いない。
君を愛さなかったら、私はどうなっていたのだろう。
きっとこうして、この子たちを抱くこともなかっただろうね。
色々とこれからのことを予想してみるのも楽しいけれど、しばらくは取り敢えず、私はここでじっと君たちのために、両腕と胸を空けておくことにするよ。
右腕は文紀を抱くために
左腕は千歳を抱くために
そしてこの胸は………君を抱きしめるために。
いつでも飛び込んでくるがいいよ。
しっかりと私が護ってあげるからね。
だから君たちは、自由に翼を広げて青空を飛ぶが良い。
私は……ずっと君たちをここで待っているから。
-----THE END-----
※あとがきのご挨拶がありますので、よろしければ先にお進み下さいませ。
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Special Thanks Request <kotemari-sama>
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