永遠の緑

 第4話
「先生…あのー…こないだ私がもらった山吹も、先生のところの山吹だって、ああいう園芸店で売っているっていうことは、人が手を加えた苗木じゃないんですか?」
ふとあかねはあの時のことを思い出して、泰明に尋ねてみた。

「あれは問題ない。この間も言っただろう。今のような幼木の時は少々の世話も必要だが、過度な世話は余計に木を弱めてしまうものだ。その時期に、自然に対応するシチュエーションを作ってやれば、彼らは人の手から離れて本来の自然の中で生きて行くようになる。過保護すぎるのは問題だが、それらが自然の形に近づく力を出せるまで支えてやることも人間の役目ではないのか?」

その言葉は、時折難しくてあかねにはすぐには理解できないところもあった。だけど、その一つ一つは泰明が植物に対して抱いている真実の想いに間違いない。それはとても深く、厚く、そして広い。
彼が何故天才と呼ばれるだけの人間であるか。その後ろには……その想いが存在しているからなのだろう。

「先生って、優しいんですね」
思わずあかねがそう言うと、泰明は振り返ってじっとこちらを見た。
「何なんだ、それは」
「先生に世話してもらってる植物たちって、幸せですねー」
あかねが微笑むと、泰明は不思議そうに眉をひそめる。その言葉に照れるそぶりもなく、ただその意味をどう理解して良いのか分からず、戸惑っているという感じだ。そんな彼の姿が妙に微笑ましく思える。

「ともかく、さっさと仕事に戻れ。明日は今日とは違う仕事をこなしてもらう予定だ。今日の分は終わらせないと帰れないのは分かっているだろう」
「分かりましたー!」
確かにのんびりしていたら、バスの時間に乗り遅れてしまう。急いで仕事に戻らなくては。あかねは入口に向かい、階下へ戻ろうとしたとき、彼女を泰明が呼び止めた。

「一つおまえに忠告がある」
振り向くと、彼は表情を変えずにこちらを見ている。
「『先生』と呼ぶのはやめろ。藤原のように助手に値する能力があるのならともかく、おまえはそうではないだろう。私はおまえに何を教えるわけでもない。だから私を『先生』と呼ぶな。」
あかねはその言葉を受け取って、今度は自分のアレンジを加えて泰明に投げ返した。
「じゃあ、私のことも『おまえ』って呼ばないで下さいね。ちゃんと名前で呼んで下さいね。」
泰明は少し考えて、そしてあかねを見た。
「ならばこれから『あかね』と呼ぶ。構わないのか?」
「はい『泰明さん』!では仕事に戻ります!」

部屋を出たあかね。
部屋に残った泰明。
確かに二人の間の空気は、少しずつ変化しつつある。

それはまるで四季の流れで色を変えて行く木々の葉のように。





-----THE END-----





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Megumi,Ka

suga