「ふーん…じゃあ新婚旅行は未定なんだ」
「友雅さんも、年末年始はお仕事が忙しくなっちゃうしね」
こちらの世界では、結婚すると夫婦は記念の旅行をするのが一般的だと言う。
行く場所は様々だが、殆どは海外。つまり、異国に旅をするらしい。
「異国がどういうところなのかも、私には分からないしね」
「そうですねー確かに」
友雅もかれこれ数年現代に生きて来て、ニュースや情報で日本以外の国の知識は、そこそこ得ているだろう。
だからと言って、どこの国がどんな特徴があり、どんな魅力があるのかまでは追いついていない。
「異国どころか…私にはまだこの国でさえ、知らないところが多くて新鮮だよ」
そういうものなのかもしれない。
別の世界の住人だった彼には、現代自体が異国と同じ。
「だから、異国とは言わずにこの国を、近場からあかねに案内してもらって楽しむことにするよ」
「うん、その方が時間も掛からないから、ふらっと出掛けられるでしょ」
どこに行くのではなくて、誰と一緒に行くかが重要。
二人ならどこだって、楽しい旅が出来ると思う。
「あ、でも年末年始に温泉宿に泊まろうかって、話してましたよね」
彼の知人の馴染みの宿があるので、新婚さんなら紹介してやろうか、とか言われていたらしい。
「もしかしたら、それが新婚旅行かもしれませんね」
「ふふ…それもまた味わいがあるよ」
帰ったら、連絡してみよう。
例え予約が取れなくても、二人きりで部屋で年を越すだけでも十分なのだが。
食事会がお開きになると、旅館の正面玄関に送迎バスがやって来ていた。
親類たちが乗り込み、まだ少し酔いが残る天真を引っ張りながら、蘭や詩紋も乗車した。
最後に、あかねたちの両親が乗り込もうとしたとき、友雅が二人を呼び止めた。
「明日の夜は、お邪魔させて頂きます。」
「うん、是非楽しみにしてるよ。橘さんの好きな酒とつまみ、たっぷり用意させておきますよ」
父が嬉しそうにそう答えて、全員がバスに乗り込んだ。
窓際にいる蘭と詩紋が、中から何度も手を振るので振り返す。
エンジンが掛かり、ドアが閉まって、ゆっくりとバスが旅館を離れて行く。
やがて車体が見えなくなるまで見送ると、ようやく二人だけの時間が訪れた。
「終わっちゃいました…ね、結婚式」
「そうだねえ。あんなに慌ただしかったのに、あっと言う間だったね」
準備は一年近く掛かったのに、式はほんの一瞬。
数時間前に着ていた白無垢の感触も、もうあまり残っていない。
「部屋に戻ったら、もう一度着てみるかい?着付けなら喜んで手伝うよ」
「そんなに何度も着ても、意味ないですよ。もう良いです」
友雅の腕に絡み付きながら、エレベーターのボタンを押して3階へ。
実は、今日初めて足を踏み入れた客室。
宿泊用の荷物だけが先に運ばれていて、彼らは挙式のためにそのまま神社に向かったからだ。
広い窓は右手に渓谷、そして左手には神社の森が望める。
「あそこが、私たちの誓いの場所だ」
「うん…そうですね」
外を眺めながら、友雅に抱きすくめられる。
前で組みあう指先に、あかねがはめた指輪が光る。
「同じ指輪」
「そう、誓いの指輪。これまでとは違う、永遠の指輪だよ」
いつもはめていたのは、結ばれる約束を込めた指輪。
でも、今二人の指に輝くプラチナの指輪は、永遠に愛し合って行こうという誓いが込められた指輪。
もう離れる必要もない。
ずっとそばにいられる……あなたのそばに。
「あかね、誓いのキスは、ドレスを着ていないと駄目かい?」
頬を撫でながら、友雅がそんなことを言い出した。
駄目か?と聞いていながら、もう唇は吐息が掛かるほどの距離。
うっかり動いたら、それだけで触れ合ってしまうくらいなのに。
…一歩自分から近付いて、自然とキスが始まった。
触れ合ってしまったら最後、止められる術がない。
互いの背中に手を回し、何度も何度もキスをただ繰り返して。
そのふれあいだけで、こんなにも胸がいっぱいな幸せ感を味わえるのは、誓いの言葉を交わした二人だから。
「私、自分がこんなに早く結婚するなんて、思ってもみませんでした」
漠然と25〜6くらいで、やっとこぎ着けられるかな〜なんて。
だけどそれよりも驚いているのは、これほど真剣に愛し合える人に出会えたこと。
「全然別の世界の人だったのに…やっぱり不思議ですよね」
「そうだね。私も、異世界にこんなに愛しい姫君がいたなんて、思わなかったよ」
出会わなかったら、恋を知らなかったかもしれない。
誰かを愛することさえも、おそらく知らずに退屈な日々を過ごしていただろう。
「今となっては、その不思議な出会いに感謝しなくてはね」
君が突然、天女の如く私の世界に舞い降りて。
どうでも良いと思っていた私の生きる世界を、別世界の君が命を懸けて守ると言ってくれて。
その真っすぐな瞳に惹かれ、清らかで自由な心に惹かれ、
「そして、君に惹かれて…こうして今、ここにいられる」
辻褄が勝手に整理され、君と暮らして行ける世界が用意された。
「これも龍神のご加護かな。神社に祀られている神様よりも、私は龍神に感謝をしなければならないな」
「挙式を終えたばかりで、そんな失礼なこと言っちゃ駄目です」
くすくす笑いながら、あかねはまた唇を重ねて来た。
「でも、龍神に感謝しなきゃいけないのは、私も同じですよ…」
私だって、あなたと出会えた運命のいたずらに感謝しなきゃいけない。
確かに、京に突然放り出されて、神子の役目を果たさねばならなかったのは、とても大変だったけれど。
でも、それがあったから今があるのだもの。
こうして抱きしめ合って、愛し合えるのだもの…あなたと。
「どこか、龍神が祀られている神社を探して、一緒にお礼参りに行こうか」
「あ、良いですね。それを新婚旅行にしちゃいます?」
「ふふ…そうだ。そうしようか」
二人を巡り会わせてくれて、本当にありがとう…と一言だけでも。
その出会いを、今度は幸せに変えて行くんだと、龍神の前でも誓いを挙げよう。
そうすれば、遠い世界に残る彼らにも、何となく伝えられるかな。
この幸せな気持ちを。
「んっ?何ですかぁ」
首筋に鼻をこすりつけられて、はっとあかねが我に返った。
「いつもとは違う、肌の香りがすると思ってね。白無垢を着た時の化粧の名残かな?」
「あ、そうかもしれませんね。おしろいとか、普段とは違う化粧品でしたから」
道理で首筋からうなじにかけて、うっすらと白さが残っていたのか。
「良いね、花嫁になった証があるようで」
「化粧が残ってなくたって…私はもう、友雅さんの奥さんですよ」
「勿論。違うと言っても、認めないよ」
----------君しか、あなたしかいない。
恋と愛を両方教えてくれたのは。
Congratulation!!
-----THE END-----
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