君に逢いたかった

 006

「ふーん…じゃあ新婚旅行は未定なんだ」
「友雅さんも、年末年始はお仕事が忙しくなっちゃうしね」
こちらの世界では、結婚すると夫婦は記念の旅行をするのが一般的だと言う。
行く場所は様々だが、殆どは海外。つまり、異国に旅をするらしい。
「異国がどういうところなのかも、私には分からないしね」
「そうですねー確かに」
友雅もかれこれ数年現代に生きて来て、ニュースや情報で日本以外の国の知識は、そこそこ得ているだろう。
だからと言って、どこの国がどんな特徴があり、どんな魅力があるのかまでは追いついていない。
「異国どころか…私にはまだこの国でさえ、知らないところが多くて新鮮だよ」
そういうものなのかもしれない。
別の世界の住人だった彼には、現代自体が異国と同じ。
「だから、異国とは言わずにこの国を、近場からあかねに案内してもらって楽しむことにするよ」
「うん、その方が時間も掛からないから、ふらっと出掛けられるでしょ」
どこに行くのではなくて、誰と一緒に行くかが重要。
二人ならどこだって、楽しい旅が出来ると思う。

「あ、でも年末年始に温泉宿に泊まろうかって、話してましたよね」
彼の知人の馴染みの宿があるので、新婚さんなら紹介してやろうか、とか言われていたらしい。
「もしかしたら、それが新婚旅行かもしれませんね」
「ふふ…それもまた味わいがあるよ」
帰ったら、連絡してみよう。
例え予約が取れなくても、二人きりで部屋で年を越すだけでも十分なのだが。



食事会がお開きになると、旅館の正面玄関に送迎バスがやって来ていた。
親類たちが乗り込み、まだ少し酔いが残る天真を引っ張りながら、蘭や詩紋も乗車した。
最後に、あかねたちの両親が乗り込もうとしたとき、友雅が二人を呼び止めた。
「明日の夜は、お邪魔させて頂きます。」
「うん、是非楽しみにしてるよ。橘さんの好きな酒とつまみ、たっぷり用意させておきますよ」
父が嬉しそうにそう答えて、全員がバスに乗り込んだ。
窓際にいる蘭と詩紋が、中から何度も手を振るので振り返す。
エンジンが掛かり、ドアが閉まって、ゆっくりとバスが旅館を離れて行く。
やがて車体が見えなくなるまで見送ると、ようやく二人だけの時間が訪れた。


「終わっちゃいました…ね、結婚式」
「そうだねえ。あんなに慌ただしかったのに、あっと言う間だったね」
準備は一年近く掛かったのに、式はほんの一瞬。
数時間前に着ていた白無垢の感触も、もうあまり残っていない。
「部屋に戻ったら、もう一度着てみるかい?着付けなら喜んで手伝うよ」
「そんなに何度も着ても、意味ないですよ。もう良いです」
友雅の腕に絡み付きながら、エレベーターのボタンを押して3階へ。
実は、今日初めて足を踏み入れた客室。
宿泊用の荷物だけが先に運ばれていて、彼らは挙式のためにそのまま神社に向かったからだ。

広い窓は右手に渓谷、そして左手には神社の森が望める。
「あそこが、私たちの誓いの場所だ」
「うん…そうですね」
外を眺めながら、友雅に抱きすくめられる。
前で組みあう指先に、あかねがはめた指輪が光る。
「同じ指輪」
「そう、誓いの指輪。これまでとは違う、永遠の指輪だよ」
いつもはめていたのは、結ばれる約束を込めた指輪。
でも、今二人の指に輝くプラチナの指輪は、永遠に愛し合って行こうという誓いが込められた指輪。
もう離れる必要もない。
ずっとそばにいられる……あなたのそばに。

「あかね、誓いのキスは、ドレスを着ていないと駄目かい?」
頬を撫でながら、友雅がそんなことを言い出した。
駄目か?と聞いていながら、もう唇は吐息が掛かるほどの距離。
うっかり動いたら、それだけで触れ合ってしまうくらいなのに。

…一歩自分から近付いて、自然とキスが始まった。
触れ合ってしまったら最後、止められる術がない。
互いの背中に手を回し、何度も何度もキスをただ繰り返して。
そのふれあいだけで、こんなにも胸がいっぱいな幸せ感を味わえるのは、誓いの言葉を交わした二人だから。
「私、自分がこんなに早く結婚するなんて、思ってもみませんでした」
漠然と25〜6くらいで、やっとこぎ着けられるかな〜なんて。
だけどそれよりも驚いているのは、これほど真剣に愛し合える人に出会えたこと。
「全然別の世界の人だったのに…やっぱり不思議ですよね」
「そうだね。私も、異世界にこんなに愛しい姫君がいたなんて、思わなかったよ」
出会わなかったら、恋を知らなかったかもしれない。
誰かを愛することさえも、おそらく知らずに退屈な日々を過ごしていただろう。
「今となっては、その不思議な出会いに感謝しなくてはね」

君が突然、天女の如く私の世界に舞い降りて。
どうでも良いと思っていた私の生きる世界を、別世界の君が命を懸けて守ると言ってくれて。
その真っすぐな瞳に惹かれ、清らかで自由な心に惹かれ、
「そして、君に惹かれて…こうして今、ここにいられる」
辻褄が勝手に整理され、君と暮らして行ける世界が用意された。
「これも龍神のご加護かな。神社に祀られている神様よりも、私は龍神に感謝をしなければならないな」
「挙式を終えたばかりで、そんな失礼なこと言っちゃ駄目です」
くすくす笑いながら、あかねはまた唇を重ねて来た。
「でも、龍神に感謝しなきゃいけないのは、私も同じですよ…」
私だって、あなたと出会えた運命のいたずらに感謝しなきゃいけない。
確かに、京に突然放り出されて、神子の役目を果たさねばならなかったのは、とても大変だったけれど。
でも、それがあったから今があるのだもの。
こうして抱きしめ合って、愛し合えるのだもの…あなたと。

「どこか、龍神が祀られている神社を探して、一緒にお礼参りに行こうか」
「あ、良いですね。それを新婚旅行にしちゃいます?」
「ふふ…そうだ。そうしようか」
二人を巡り会わせてくれて、本当にありがとう…と一言だけでも。
その出会いを、今度は幸せに変えて行くんだと、龍神の前でも誓いを挙げよう。
そうすれば、遠い世界に残る彼らにも、何となく伝えられるかな。
この幸せな気持ちを。

「んっ?何ですかぁ」
首筋に鼻をこすりつけられて、はっとあかねが我に返った。
「いつもとは違う、肌の香りがすると思ってね。白無垢を着た時の化粧の名残かな?」
「あ、そうかもしれませんね。おしろいとか、普段とは違う化粧品でしたから」
道理で首筋からうなじにかけて、うっすらと白さが残っていたのか。
「良いね、花嫁になった証があるようで」
「化粧が残ってなくたって…私はもう、友雅さんの奥さんですよ」
「勿論。違うと言っても、認めないよ」

----------君しか、あなたしかいない。
恋と愛を両方教えてくれたのは。






Congratulation!!



-----THE END-----




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2012.11.26

Megumi,Ka

suga