集合写真が終わると、今度はツーショットの撮影と大忙しだ。
スタッフにメイクを直してもらい、着崩れがないか確認をしてもらい…と、花嫁は細かいところまでチェックをされる。
「本当にお綺麗ですよ。ふわりとした白無垢に、桜模様がまた愛らしくてとても良いですね」
この白無垢はスタッフや参列者にも好評で、むしろ完璧な真っ白より女性らしいと口を揃えて言われた。
「春のように暖かで、花のように愛らしいあかねには、やっぱり桜が似合うよ」
「もー…あまりひやかされるようなこと、言わないでください」
終始寄り添いながらそんな会話をする二人を見て、スタッフも笑みがこぼれる。
華やかすぎるほど艶やかな新郎と、清楚で可愛らしい花嫁。
なかなかこんな見栄えの良いカップルはいないな、という風に、カメラマンまでお世辞のようなことを言うし。
朱の社殿を背景に、寄り添って一枚。
茜色の紅葉が広がる庭園を背景に、また一枚。
「じゃ、花嫁さん単独でも何枚か撮影しましょう」
綿帽子をかぶったスタイルと、綿帽子を外したスタイルと。
左右から、斜め後ろから……随分とパシャパシャフラッシュをたかれる。
何か…モデルさんになった感じがするな〜。
柄じゃないけど、今日くらいはそんな気分を味わっても良いかも。
だって、花嫁衣装だもの。
「へえ、髪は結構洋風にアレンジしてんだな」
初めて綿帽子を取った姿を見た天真が、友雅の隣に来てそう言った。
花嫁姿なんて男には全く縁がないもので、文金高島田のような時代劇のお姫様髪のイメージしかなかった。
だが、あかねはゆったりと上に髪をまとめて結い上げ、白い花飾りをあしらったスタイルだ。
「良いよね〜。おしゃれな感じ」
蘭がいそいそとやって来て、あかねの撮影を眺めている。
ウェディングドレスも良いけど、こんな神前式もいいなあ…とか、そんな夢を描いていることは、まだ天真にはナイショにしておく。
あかねの撮影が一通り終わったとたん、蘭がデジカメを持って駆け寄って行った。
「あかねちゃんっ!一緒に写真撮ろ!」
「えっ?う、うん…」
「ほらお兄ちゃん、シャッター押してよ!」
天真にカメラを押し付けて、あかねにぴったりくっついて蘭はVサイン。
「はあ、結婚式って女に振り回されるんだなあ」
渋々言いながらも、カメラを構えてシャッターを切る。
ファインダーに納まる二人を見ながら、妹もいつかこんな衣装を着るのだろうか、とふと天真は思った。
その後もあかねは親戚や詩紋たちに取り囲まれ、一大撮影会になってしまった。
やれやれ…。まあ、あんな綺麗な姫君なのだから、誰だって写真くらい撮りたくなってしまうよね。
なんて一人思いながら、友雅はふらっと庭園を散歩でもしようかと歩き出した。
すると、社殿の近くであかねの両親が、二人で何やら話しているのが目についた。
「あらっ、橘さん、どうしましたの?」
「いや、花嫁が大人気なもので…」
苦笑しながら友雅が言うと、母が父の背中をぐっと押した。
「あ、その…今日は本当に色々とお世話になりまして…」
「いいえこちらこそ。晴れの日を滞りなく済んで、私も一安心です」
「あ、はは…そうだな。本当に…その、これからもよろしく頼みますよ」
「はい。お嬢さんのことは、以前申し上げました通り、幸せにすることをご両親にお誓い致します」
彼女は自分に、幸せという感情を教えてくれた。
その感謝を伝えるには、彼女を自分が幸せにすることだろう。
だからその役目を、人生をかけて自分に与えてもらえないだろうか------------
あの日、彼が言った言葉だ。
二人がどんな風に気持ちを育んで行ったのか、さすがに親も分からない。
これほどの人が、年の若い自分の娘を嫁に欲しいなんて、とても信じられない気もしたけれど。
でも、二人の様子を見守りながら、彼と親密に付き合いながら、いつしかこの人になら任せられると、揺るぎない信頼が生まれていた。
「ご両親も、あかねとお写真を撮りに行かれはいかがです?」
「あら、そうよね!お父さん、行きましょうよ!」
親戚や友達が記念写真を撮っているのに、両親と撮らないなんておかしい。
母と友雅に急かされながら、父もあかねの方に向かおうとした。
「お義父さん、これからも引き続き、あかねを可愛がってやって下さい」
「ん?あ…っ…?」
父が足を止めて振り向いた。
友雅はそこに立ち尽くしたまま、静かな笑みを浮かべてこちらを見ている。
「私があかねに抱く愛情と、ご両親があかねに抱く愛情は、そもそも別のものです。ご両親が彼女に注いできた愛情に、私が勝てるわけはありません」
生まれた時から、というより生まれる以前から、両親はすべての愛情を捧げて彼女を育てて来た。
どんなことからも盾となって守り、父母として娘を大切に愛しく思って来たのだろう。それは、きっと今も変わらない。
「彼女が私の名に変わり、私の元に嫁いだとしても、お二人があかねのご両親であることは変わりありません。そして、あかねもお二人の娘であることも、一生変わることはありません」
家を出て、別の家庭を築いても、あかねの両親は彼らしかいない。
「ですから、今後も気負いなどせず、娘として可愛がって下さい。私は、夫として彼女に愛情を注ぐとお約束しますので」
「あ、あらま…ほ、ほほほ…やだわもう!橘さんったらもう、言うこと何でも素敵なんだからっ!!!」
ばんばん!と勢い良く母が友雅の肩を叩いた。
おおはしゃぎしているように見えるけれど、どの笑顔の隅っこで目尻に潤んだものが見えたような気がしたのは見間違いか。
「お父さん、行きましょ!そ、そうだわ、橘さんもあとで一緒に写真撮って頂けるわよねっ?」
「ええ、不肖な息子でよろしければ」
友雅は母の言葉に、にっこりと艶やかに微笑んで答えた。
世界が、変わった。
ほんの小一時間程度の儀式を終えただけで、目の前の世界がまた変化した。
それは、目に見えるような変化ではなく、心の中に広がる世界の変化。
そしてまた私に変化を起こしてくれたのは----------------やっぱり、君なんだね。
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挙式を終えて着替えを済ませたが、披露宴は後日改めて行うという予定なので、食事会だけがセッティングされた。
神社が提携している旅館のレストランに移動し、祝いの膳が振る舞われた。
「ふふふーん、じゃあおまえらはこのまま、今日はお泊まりってことかー」
「そういうプランをお願いしたのでね」
タクシーを頼んでも、市街地のマンションまで一時間も掛からないのだが、参列者と違って新郎新婦は長時間慌ただしくて疲れている。
今日はゆっくり旅館に泊まって、疲れを取るのが良いだろうと。
だが、そう説明したところで、祝いの酒が少し入った天真は邪な想像しかしない。
「何が疲れを取るだよ〜。こんなところに泊まったら、ますます疲れちまうじゃんよ〜新婚さんはよ〜」
「ちょっと天真先輩ー」
呆れる詩紋が背中を突くが、ほろ酔いの天真はにやついてまた絡む。
「だってよー、新婚さんだぜ新婚さん。結婚したてのホヤホヤ!初夜だぜ初夜!初夜ってことはつまり……」
突然パーン!と横からはり倒す音がしたかと思うと、次の瞬間、天真が後ろにのけぞって倒れていた。
「ごめんねえ、下品なお兄ちゃんで。」
「…あ、相変わらず容赦ないね…」
腕まくりした蘭が袖を整え、天真を横に押し退けてあかねの隣に来た。
このまま放っておいていいんだろうか、と詩紋も気がかりではあったけれど、まあ大人しく寝ているようなので、しばしそのままにすることにした。