Early Autumn Happiness

 004

部屋に着いて中に入ると、布団が既に用意されていた。
だが、まだまだ寝るには早すぎる。
ガイドマップでも見ながら、明日の予定を考えてみよう。

「でもねお父さん?素敵な息子も良いけど…孫の顔も、興味ありません?」
茶を啜っていた父は、その言葉に思わず吹き出しそうになった。
何とかそれは阻止出来たが、おかげで喉の変なところに茶が入ってしまい、ゲホゲホと散々むせてしまった。
「なっ、何?あ、あかね…まさか…」
「違うわよー。今は取り敢えず何でもないみたいだけど」
父の背中をさすりながら、母はけろっとして答えた。

「でもね、早くそういう風に呼ばれても、良いと思わない?」
ようやく喉が落ち着いたところで、改めて母はニコニコしながら話を続けた。
「だって、橘さんの血が入るのよ?男でも女でも、きっと可愛いわよ〜?」
「う、うんまあ…確かにな」
同性から見ても異性から見ても、ハイレベルの人種に入る友雅の血は、遺伝すればさぞかし見目麗しい子が生まれるだろう。
「おじいちゃん、おばあちゃんとか言って、懐いてきたら可愛いわー!ふふふー、楽しみー」
まだ決まったわけでもないに、母は既に孫が出来たかのような喜びよう。
気が早いのはいつものことだけれども、今回も相変わらず…。

「しかし、その…そういう予定はあるのかね、あの二人」
「ま、今更何でもないことはあり得ないでしょうけど。でも橘さんしっかりされているから、ミスはしなさそうよ」
「うーん、そ、そうか」
なかなか突っ込みにくい話題であるし、自分の娘のこととなると、更に気になるけれど気まずさのひとしお。
毎週友雅の部屋に泊まっているし、旅行にも二人で出掛けているし。
一線は既に越えているのは間違いないと、思ってはいるが…。
それを咎めるつもりも、今更ないが。

「あら!ちょっとお父さん、ここ良いんじゃない!?」
ガイドマップに目を通していた母が、開いた地図の一点を指差して言った。
そこには神社の鳥居マークが記されており、『○○神社』と名前が書かれている。
「すごく古い神社みたいよ。御利益があるからって、遠方から来る人も多いんですってよ!」
気になるその御利益とは……
「おい、おまえ、これはちょっと露骨じゃないのかぁ?」
「良いじゃないのよ〜。どうせいずれは、必要になるんだから!」

○○神社の御利益。
恋愛成就・良縁・安産・子宝・授乳・子育て………。
あらゆる女性のために、御利益を持つ神社として有名なのだと書かれている。
「ひとつくらい御守り買って、持たせておきましょ」
「うーん…」
父は苦笑いをしながらも、まんざらじゃない様子。
結局二人とも、彼らの今後に関しては期待いっぱいなのである。

「それじゃあ、明日はそこに行くか。今のうち、橘さんに連絡して…」
父は立ち上がって電話前に座ると、彼らの部屋番号を押そうとした。
が、とたんに横から母が割り込んできて、その受話器を慌てて取り返した。
「バカね!やめなさいよお父さん!」
「な、なんだよおまえ…」
「今の時間に電話なんかしたら、お邪魔でしょう!せっかく孫が出来るチャンスかもしれないのに!」
「お、おまえなあ…」
酒はすっかり身体から抜けているのに、母の言葉に父の顔がやや赤くなる。
「良いの!こういうのは早いほうが!とにかく…明日、朝食の時に話せば良いわ。今夜は邪魔しては駄目よ!」
がちゃん、と受話器を電話機に戻した母は、何故だか自信満々に仁王立ちして、一人ニヤニヤと顔を綻ばせた。




「友雅さん、今日はいろいろお疲れ様でした」
部屋に戻ると、あかねは姿勢を正して三つ指をつき、ぺこりと友雅に頭を下げた。
「何だい?そんな疲れるようなことは、何もしていないよ?」
「ううん…。だってあんなに両親に付き合ってもらっちゃったし…。改めて、ありがとうございました」
あかねはもう一度、ぺこっと頭を下げる。

「二人きりの旅行も良いけれど、こうしてご両親と一緒に賑やかな旅も良いよ」
彼女を抱き寄せて、友雅は自然な口調でそう答えた。
家族というものを身近に感じたのは、彼らに出会ってからのことだ。
実の両親や兄弟なんて、存在しているという事実のみで、心も何も通わなかった。
退屈で言葉も少なく、家族なんてつまらないものだと…ずっと思っていたのに。
「私にとっては、本物の両親以上に両親…だと思っているよ」
「それ、母の前ではあまり言わないで下さいね。嬉しすぎてまた倒れます」
「はは…その時は、ちゃんと私が看病するから大丈夫。これでも息子だからね」
互いの指先には、銀の指輪。
絡みあう指と指は、約束をするように結び合う。
「ご両親の喜ぶ顔も、あかねの喜ぶ顔も…私が一番楽しみにしているものだよ」
「…ん、ふふっ」
あかねを抱きしめて、ちゅっと音を立てて唇を重ねる。
少し照れたように、キスのあとで笑うあかねの顔も気に入っている。


「あかね、寝る前に…もう一回風呂に行こうか」
「え?今からですかあ?」
大浴場の露天風呂は、24時までだと書いてあったっけ。
まだ開いてはいるけれど…出きればもう少しゆっくり時間を掛けて入りたい気が。

すると、友雅が指先でつんつんと頬を突いた。
「こらこら。誰も大浴場に行こうとは言っていないよ?」
ぐっと顔を近付けて、彼は鼻の先を擦り合わせる。
「露天は男女別だから一緒に入れないし、つまらないじゃないか。部屋にある半露天の内風呂なら…混浴でもOKだよ」
…もしかして、それが目的?
そう視線で尋ねてみると、彼の笑顔は艶やかさを浮かばせて、答えを返す。
「さ、一緒に暖まってから布団に入ろう」
先に立ち上がった友雅は、そのままあかねを抱き上げる。
用意周到で器用な彼の指は、とっさの瞬間に彼女の浴衣の帯を軽く緩めた。

「……お湯じゃない方法ででも、暖めてあげるからね?」
ぱらり、と足元に落ちる帯。
熱を帯びた口づけを交わしながら、浴室への戸がガラリと開く。
そして……いとも簡単に肌から滑り落ちてゆく浴衣。

「ん、何か考えているね。どんなことを思い描いているんだい?」
「な…なんでもないですよー…」
ぎゅっと彼に抱きついて、肌を重ねてその場を誤魔化す。


……お母さん!
私はまだ、"お母さん"になる予定はありませんからねっ!!





-----THE END-----




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2010.09.26

Megumi,Ka

suga