食事が済むと、今度はあかねが風呂に入る番だ。
彼女がバスルームに籠もっている間、友雅がキッチンの後片づけを担当する。
自分は料理なんて、たいして出来ない。
だからその代わりに、片付けくらいはこちらがやらないと。
高級な味ではないけれど、むしろやわらかくて良い味わいの料理を、自らの手で持て成してくれた彼女に感謝の意を示さねば。
湯上がりにはきっと、冷たいアップルジュースが飲みたいと言うはずだ。
それと、ソーダ味のアイスキャンディを買っていたから、それも一本かじりたいと言うかな。
いつもいつも彼女を見ているうちに、行動が予測出来てくる。
先回りして、あかねが喜びそうなものを用意しておく。
「お風呂さっぱりしたー。」
少し大きめなローブに身を包み、濡れた髪をタオルで拭きながら、あかねがリビングへと戻ってきた。
「はい、ジュース。喉乾いただろう。冷やしておいたよ。」
「わ、嬉しいー。飲みたかったんです!」
友雅の予想は的中。
香しい100%のアップルジュースを、あかねは美味しそうに口へと運ぶ。
「アイスキャンディは?」
「あ、どーしよ。ちょっと食べたいかも。」
でも既にジュースを飲んでいるし、夜にあまり甘いものは…摂り過ぎちゃダメかな?と二の足を踏む。
「じゃあ、半分ずつ一緒に食べようか。」
冷蔵庫のフリーザーから、友雅は一本アイスキャンディを取り出す。
「半分こすれば、栄養も半分だよ。遠慮しないで食べなさい。」
「う、うん〜。」
差し出されたキャンディを、ぱくりとあかねはくわえた。
まるで氷を頬張ったみたいに、ひんやりきーんと口の中が冷たい。
けど、甘くて美味しい。
アイスキャンディをくわえ、片手には飲みかけのアップルジュース。
ふとリビングのテーブルを見ると、広げられているのは数々のパンフレット。
旅館や料理店、土産物屋や観光スポットなど。今日一日の散策で、あちこちから集めてきたものばかりだ。
「何か見てたんですかー?」
「うん、いろいろとね。秋にあかねのご両親と一緒に来るときに、どんなところへ案内したら良いかな、と思ってね。」
あかねはくるっとソファの前に回って、友雅の隣に腰掛けた。
そのままこつんと寄り添ってくると、ローブの内側からほんのりソープの香りが浮かんで、少しどきっとする。
「あ、これって何ですか?」
渋めのパンフレットの中に、異質な雰囲気のものが数点紛れている。
近くにあるペンションや、リゾートホテルのチラシのようだ。
「うわあ、可愛くて綺麗なチャペル!ウェディングのプランとか、たくさんあるんですねー」
この辺りは高原の中心部から随分と離れ、山に近い静かな場所だが、向こうに行けばこんな洒落たチャペルが多く建っている。
ホテルなども併設してあるため、高原ウェディングとしては有名な地域だ。
「すごい可愛いドレスー。あ、コースのお料理とかも美味しそうー。」
「こらこら。あまりはしゃいでばかりいないで、ちゃんと目を通して。」
友雅は取り上げたパンフレットを、そのままあかねに手渡す。
「一応、目を通してごらん。いずれは他人事じゃなくなるんだから。」
そう言われて差し出されたページには、真っ白なウェディングドレスに身を包む女性の笑顔。
高原の鮮やかな緑よりも、その幸せそうな顔が何よりも眩しい。
「今から、いろいろなものを見て、気に入ったものをチェックすると良いよ。こういうものは、良い想い出にしたいものね。」
……そうか。
今年の春に入学したばかりだけれど、卒業までは二年間しかないんだ。
そしたら、約束を果たせる時がやって来るんだよね。
もう、二年もないんだ…。
「急いで決めることはないけど、情報は多く仕入れて置くと良いよ。」
「ん、そう…ですね」
寄り掛かっていた肩に、彼の腕が回される。
抱き寄せられて、身体が更に傾いて、顔を上げると唇が目の前に迫っていた。
林檎の香りと、ソーダの味が口の中で混ざる。
甘い口づけに魅了されて、何度も何度も唇を求めあう。
「ん、あっ…友雅さんっ!ア、アイス!半分食べちゃってください!」
ぼうっとしていて、つい忘れそうになっていたアイスキャンディ。
とろりと滴る甘い雫が、どんどん形を崩し掛けている。
「早く!溶けちゃう〜!ほらぁ!早くっ……………うむっ!!」
急いで友雅の口に近付けようとしたのに、捕まれた手首はくるりと回転して、そのままキャンディがあかねの口に押し込まれた。
舌の上で、勝手に溶けて流れてゆく甘い味。
すうっとそれらは、あかねの喉を抜けて身体に沈んでゆく。
「あー!全部食べちゃったじゃないですかあ〜っ!カロリー気にしてたのにー!」
「そんなの、あかねは気にする必要ないだろう。」
「気にしますよっ!これでも女なんですからーっ!」
ここしばらくは何とか増減もなく、ベストの状態を保持しているけれども、油断は大敵。
ただでさえ甘いものも大好きだから、自分に厳しくしなきゃと思っていたのに。
「そこまで気にするなら、私が確かめてあげようか?」
えっ?と彼を見上げたとたん、その体重が上に重なってきて。
すとん、とソファの上に押し倒された。
「ダイエットとか気にするようなスタイルなのか、私がちゃんと隅々まで確認してあげるよ。」
「ちょ、ちょっと…あっ…」
腰のあたりが自由になった気がしたのは、ローブのベルトが解かれたから。
ぴったり重なる肌が、ぬくもりをひとつにつなげる。
昼間、一度は鎮火したはずの炎が、今度はもっと強い力で火の粉を上げる。
「ふふ…確認なんかしなくたって、ちゃんと分かるけどね」
「…え?何、言ってるんですかぁ…?」
唇が離れると、艶めかしい眼差しに自分が映っている。
「覚えていないはずがないだろう?あかねの身体なら、もうどこもかしこも、全部知ってるよ。」
「ひゃっ…!おかしなコト、言わないでください〜っ!」
彼の声が紡ぐ言葉は、どれもこれも熱くて激しくて、甘美すぎて、そして妖艶で。
面と向かっての愛の告白よりも、かなり刺激が強すぎる。
だから、平常心ではいられなくなる。
「…興奮、してきた?」
甘い感覚に目を閉じていると、耳元で囁く声がする。
「昼間の続き。改めて、あかねを興奮させようと思っているんだけど?」
何てことを尋ねてくるんだろう。
本心なんか…恥ずかしくてとても口に出来ないのに。
黙りこくっていると、少し笑いながら友雅は見下ろす。
「それとも、風呂に入りながら既に、自分で自分を興奮させたりしちゃったのかな?」
「は、はあ!?な、何考えてるんですかっ!!」
今、とんでもないことを言われたような。
驚いて、思わず閉じていた目を開ける。
「まあねえ、人間いろいろ不都合な時と場合があるからねえ…。咎めるつもりはないけど。」
「か、勝手に納得しないでくださいよーっ!」
一体どんなことを考えているのか、まったく……。
はあ…と呆れて溜息を付き、あかねは顔を横に傾ける。
その顎を静かに指で引き戻し、潤う唇をもう一度奪ってから、柔らかな耳朶に顔を近付けた。
「だからね、興奮したい時は…私に任せなさい。」
囁いたその声は、まさにストレートに直撃、そして命中。
全身の力が一気に抜けて、そのまま彼の腕に抱かれる。
「…可愛いね。その身のこなし、やっぱり人魚姫のようだよ…」
さあ、自由に泳いでごらん。
この腕の中で、艶めかしく身をよじらせて。
長い夜の静寂なんて、二人の艶息で引き裂いてしまおう。
-----THE END-----
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