Valentine Panic!

 005

「指輪?あかねと…おそろいの?」
「はい、そーです。」
白いリングケースに、二つ並んで納められていたシルバーの指輪。
ピンクゴールドのラインが、緩くねじれるようにあしらわれた、シンプルなもの。
「綺麗だね。形に無駄がなくて。」
友雅は自分用の指輪をつまんで、光に翳してみた。
磨かれた銀白色と反射して、清々しく輝きを放つ輪が美しい。
「でも、どうしておそろいなんだろう?あかねの分も、一緒に買わないといけない意味があるのかい?」
「えーと、それはー…」
はあ、とあかねは溜息をついてから、ぼそりと口を開いた。

「あのー…実はですね、こっちの世界では夫婦になると、おそろいの指輪をつける習慣があるんです…」
「夫婦?」
そう聞き返されたら、何だか妙に恥ずかしいというか、照れくさいというか…どうも顔を上げられない。
きっと自分の頬は熱が吹き出して、真っ赤になっていると思う。
彼から、未来の約束を申し込まれて二ヶ月ほど経つのに、未だに現実として直面すると、鼓動が波打って平常心を保てなくなる。

すると、うつむいていたあかねの目の前に、リングケースが差し出された。
中にはひとつの指輪。
小さな石がアクセントにはめ込まれた、レディスリングがひとつだけ。
「はい、どうぞ。」
友雅はケースを握らせてから、自分の拳をゆっくりと開く。
中に閉じ込めていた指輪は、そのまま彼の指の根元へくぐる。
「ほら、あかねもはめてごらん。私だけ着けていては、意味がないんだろう?こういうものは。」
「ああ…まあ…」
無意識なのか、彼は何の疑問も抱かずに、指輪を左の薬指へとはめている。
その位置は、まだちょっと早いんだけれど…と言いたいが、サイズは薬指に誂えたみたいにぴったりだ。
もしやお母さん、わざと薬指のサイズ計ったのかな…。
あの母のことだから、それも大いに有り得る。

「そうか。夫婦になると、こうしておそろいの指輪を着けるのだね…」
「あ、別にその、夫婦だから着けるってわけじゃないんですよ!?」
慌ててリングを中指にはめたあかねは、感心しながら自分の指先を眺めている彼を見た。
結婚していない恋人同士でも、ペアリングを着けるなんて珍しくないし。
実際、学校の友達から見せびらかされた事も、数知れずだし。
それに、このリングを買ったお店でも、若いカップルがリングを買っていたし。
「だから別に、結婚してなくても…良いんです!」
「でも、夫婦でも着けるんだよね?だとしたら、母上殿はどういう意味で、これを下さったんだろう?」
---------それは間違いなく、最初の意味です…。


「あかねは、どっちの意味であって欲しい?」
友雅の左手が、あかねの左手を取る。
おそろいの指輪が重なって、ひとつの指輪のように見える。
「私は、夫婦としての指輪であって欲しいよ。それ以外の意味では…もう満足出来ないからね。」
恋人以上のつながりが欲しい。
他人でなんかいたくない。
ひとつになりたい。重なった指輪のように、離れずにずっと一緒にいたい。
「母上殿がどう考えられているのか、分からないけど…。でも、私はあかねにもそういうつもりで、着けていて欲しいね。」
頬に触れた手が、ひやりとしたのは手が冷たいのじゃなくて、小さな指輪が当たったから。
二人の指にある同じ指輪は、正式な意味を持つものではないけれど。
でも、気持ちは-------そのまま。

「友雅さんを…息子にしたい…んだそうですよ…っ」
言葉にしてみたら、何だかとぼけた感じに思えてしまった。
"結婚”という言葉なら、もっとロマンチックで甘い雰囲気なのに、あの母の真剣そのものな顔を思い出したら、何だかおかしくって。
「それは、私を君の相手に認めてくれたと言うことかな?」
「あ、そういうことならもう、ずっと前から!うちの両親、全然拒否反応ないですからっ!」
少しは戸惑えば良いのに、と思うくらいに何にも否定しなかったし。
だからいずれこうなることは、最初から目に見えていたのかもしれない。
彼が告白してくれたことで、それは現実になったのだ。

「じゃ、出来るだけ近いうちに、話だけはきちんとしに行くよ。」
すっぽり包んでくれる腕の中、友雅が耳元で言う。
「一緒になるのは先でも、気持ちだけは伝えておいた方が良いだろうしね。」
「ん…多分、両親二人揃って飛び上がります…」
「本当に?そこまで歓迎されているのかい?」
ええもう、何があっても!
こちらから"結婚してやって下さい!"と、頼み込みそうなくらいに!
「そう、か…良かった。」

すべてをリセットして、新しい世界で君だけを求めて生きて来て。
ようやくそれが、本当に手に届く。

「明日、この指輪を着けて演奏をするよ。」
「え?邪魔じゃないんですか?指輪って…」
ピアニストなどの演奏家やスポーツ選手でも、指輪は邪魔になったり危険だったりするからと、本番だけは外している人も多いと聞く。
琵琶だって弦をつま弾くのだし、指の動きを妨げないんだろうか?
あかねの考えが見て取れたのか、友雅は静かに微笑んで首を振った。
「むしろ、着けていた方が良いんだ。あかねと一緒にいるような、そんな気持ちになれるから。」
恋の歌を奏でるときは、恋する人を想い描いて弦を弾く。
その人の笑顔と、その人の笑い声と、ぬくもりと優しさと、すべてを思い巡らせれば……その心は音という形になる。

「あかねがいなくても、ちゃんと良い音が出るようにね。」
「うーん?何かそれって、いなくても良いみたいな感じにも聞こえますよ〜?」
拗ねたように唇を尖らせて、友雅の顔を見上げると彼は笑顔。
「そんな事を言うように見えるのかい?だったら、ちゃんと分からせてあげなきゃ」
ごろりとあかねを抱いたまま、ソファの上に転がって。
自分の身体で動きを防いで、逃がさないように唇を押し当てて。

「……思ってないですよ、そんなこと。」
彼が悪戯する時のように、今度はあかねが友雅の耳に唇を当てる。
小さな赤いピアスにキスして、腕を絡めてしがみついて。
「……信じてますもん、友雅さんのこと。」
出会ってから、いろいろなことを経験して…こうして今、あたりまえのように一緒に過ごしている。
それが嬉しくて、幸せでたまらないのは、やっぱりあなたのことを好きだから…。

「信じてくれて良いよ。それ以外、私にはもう何もないから。」
小指と小指で、指きりして約束した未来と、指輪でつながりあった二人の心と。

そしていつかは----本当に、ひとつになる日を想い描きながら、互いのすべてを抱きしめて目を閉じた。



-----THE END-----





お気に召して頂けましたら、ポチッとしていただければ嬉しいです♪





2010.02.10

Megumi,Ka

suga