Stand By Me

 18

もう一度口づけをしようと顔を近付けると、あかねの手が背中に伸びて来た。
「違います。そんなんじゃないです…。私は…私だって…」
口を滑らせたのは、本心があったから。
考えてもいなかったら、そんな言葉が出て来るわけがない。
「私だって、友雅さんとずっとこれからも…一緒にいたくて…」
離れないためには、どうあるべきなのかと考えて、ひとつの答えが出て来た。

この指輪が持つ意味と同じ。
他人ではなくなれば、これからも一緒にいられる…。
見合いなんて、結婚なんて現実の話じゃない、と笑い飛ばしていた自分が、そんなことを考える日が来るなんて。
「でも、友雅さんはどう思ってるか分からないし。友雅さん…結婚なんてしたくないんじゃないかって…」
彼の印象を見比べながら、現実にぶち当たって悩んだりもした。
そしていつか、この関係が終わるんじゃないかと…そんなことまでも考えて。

「確かに今まではね。私も結婚とかそういうものは、現実に考えていなかったよ」
何人の女性と付き合っても、考えることは一度もなかった。
「だからね、困惑した。あかねに、どう伝えれば良いのかって」
単に好きだから、男女の関係があるから、それだけじゃない。
心躍るような甘いひとときとは別に、彼女といると穏やかに感じる瞬間がある。
初めて感じたその気持ちが、永遠を欲していたと気付いたとき。
それを伝えるにはどうしたら良いのか悩んで、決心がついたとしても自分の身分では無理じゃないか、と。
「言ったよね。私の今の経歴じゃダメだろうって」
そう思っても諦めるなんて無理で。だから、改革をしようと思った。
そこまでしてでも、欲しくてたまらなかったから。

「今となっては、お互いに遠回りし過ぎたね」
同時に、くすっと笑ってしまう。
答えは同じところにあったのに、そこまでの道のりを自分たちでくねらせて。
だけど、それほどに真剣で…本気でその人を愛してしまった。
その人がいない人生なんて、考えられない。
そんなことさえ思ってしまう。
冗談じゃなく、本気で。
「…あかね、ずっとこれからも、私のそばにいてくれるかい」
永遠に、この命が尽きるまで。
健やかな時も、病める時も。
そんな言葉を交わすのは、もうしばらく先になるだろうけれど、想いはもう決まっている。

「君がそばにいてくれることで、得られる幸せが一番欲しいよ」
それだけで良い、ここにいてくれるだけで。
こうして手を握り、微笑む君がそばにいてくれることが。
今はそう、迷わずに言える。
「私……一緒に、いたい」
あかねが小さくそう言った。
「友雅さんとずっと…こんな風に一緒にいたい…」
「へえ、こんな風にとは、また甘美なことを言うねえ、姫君」
悪戯っぽく笑った彼のリアクションに、はっとしてあかねは現実に返った。
今、自分たちがどこで、どんな格好で、どんなシチュエーションであるかを。
「そ、そういうんじゃなくて…その!もっと広い意味でっ…」
必死に弁解するあかねを抱きすくめ、友雅はまた深くベッドに沈み込んだ。

どこでも良いよ。どんなときでも。
大切なのは、君がいてくれること。二人で一緒にいること。
「…だろう?」
「そうやって、すぐからかう…っ」
「そんなあかねが、可愛くてたまらないからだよ」
ふざけてもからかっても、ちゃんと本気はここにあるよ。
君を愛する本気は、いつもここにあるよ。
「あかね」
君の名前を呪文のように唱えながら、抱きしめてありったけの心を捧げる。
この気持ちが真実であることを、誓うように、口づけとともに。




「はあ…仕事かあ…」
目覚めたばかりのあかねは、ベッドの中で愚痴のようにつぶやいた。
土曜日でも図書館は開いている。つまり、あかねは出勤しなくてはならない。
「有給もらえば良かったー」
夕べ色々なことがありすぎて、まだ気力と体力が回復していない。
眠るのも遅かったし、何よりも……夢のようなことがあり過ぎて、少しまだ浮遊感があるような。
「ずる休みはいけないよ。仕事はちゃんと行かないとね」
「分かってますよ。分かってますけど…………ふふっ」
隣に横たわる友雅の言葉に、あかねが思わず笑い声を上げた。
「そういうのって、前は私がよく友雅さんに言ってましたよね」
恋人同士の夜を過ごした朝に、彼が出勤を休もうかなとけだる気に言うたびに、あかねがよく窘めていた。
「友雅さんに言われるようになったら、ダメですねー」
「ふふ、それならばお望み通り、仕事に行けなくしてあげようか」
そう言って彼が、じゃれるように身体を押し付けてくる。
ふざけあいながら、どんどん目も頭も冴えて来て、いつしかキスで落ち着きを取り戻す。
「さ、起きよう」
友雅は、あかねの手を取った。
まだ、指輪がはめられている左手を。

ベッドから起き上がらせて、今日がまた始まろうとしている。
世間はいつも通りの、何でもない一日。
外は相変わらずの小雨なのに、今朝は今までにない清々しさを感じた。
窓を開けても、海の向こうは雨で煙って見えない。
だけどもっと先にある何かが、見えるような気がする。

「友雅さん、メールが来てたみたいですよ」
あかねから携帯を受け取ると、受信ランプが点滅していた。
開いてみると、相手は鷹通の母だ。
「色々と企てるのが好きだねえ、この人は」
内容を見て友雅は苦笑している。
「明日、予定通りにこちらに着くらしいけれど、少し良いレストランを予約したいらしいよ」
せっかく明後日が誕生日なんだし、お祝いっぽい食事会にしましょうよ。と
「良いじゃないですかー。一日早いお誕生日会みたいで」
「まあ良いけどね。でも、私はプリンセスとの二人きりのディナーの方が、楽しみだけどね?」
ぱたんと携帯を閉じて、友雅は笑った。

「頑張って今年も料理作りますね。プレゼントも、ちゃんと用意していますから」
「ああ楽しみにしてるよ。だけど…これ以上の贈り物は、もう見つからないんじゃないかな」
あかねを抱き上げ、彼は口づける。
それだけで自分を幸せにしてくれる彼女が、ずっとそばにいてくれること。


「どんなものにも代え難いものだよ」
---------------君が私にくれた、永遠の約束は。







--------THE END




お気に召して頂けましたら、ポチッとしていただければ嬉しいです♪



2012.07.15

Megumi,Ka

suga