Stand By Me

 17

時間はきっと、流れている。
日付も変わって、もう土曜日になっているだろう。
今、何時?
分からない。
時計はあるけれど、確認する余裕がない。
離れられないぬくもりに抱きしめられて、時間というものを置き忘れてしまった。

すくいあげれば、さらりとこぼれる絹糸の髪。
指先を絡めれば、柔らかに波打つ長い髪が手のひらを包む。
唇と唇は相手を求め続け、やがて互いはひとつに溶け合おうとする。
心も身体も、それだけじゃ足りなくて。
ひとつになって、初めて相手の存在を感じることがある。
そして、新しい発見をしたりする。

「…あ、ここにもほくろがあるんだ」
左の肩甲骨から、ちょっと下に下がった内側のあたり。
友雅の背中に乗りかかって、あかねはそこを指差した。
「気付かなかったな。何度も背中流してあげてたのにな」
「数えてみるかい?隅から隅まで、見せてあげても良いよ?」
「い、良いですよ、そこまでしなくてもっ…」
慌てて起き上がろうとしたあかねを、友雅は笑いながら抱き寄せた。
素肌に触れるリビングマットの感触は、とても心地良いとは言えないのだけれど、抱き合えばそんなこと気にならなくなる。

乱れた髪を頬から払い除け、横たわるあかねの顔を見る。
潤みがちだった瞳の色は消えて、今はいつも通りの輝きがそこにあった。
言葉のかわりに繰り返すキスと、抱きしめるために添えられた手。
「やっぱり、場所移動しようか」
「……うん」
恥ずかしそうにうなずく彼女を、友雅は抱き上げた。
「プリンセスは、やっぱりこうじゃないとね」
お姫様抱っこなんて、映画とかドラマの世界だと思っていたのは昔。
こんなシチュエーション、現実にはあり得ないと信じてた。
女の子が憧れていたのはそんなものが殆どで、大人になれば夢物語と割り切れた。
でも…不思議と今ここにあるのは、夢と同じ現実。
どうして、こんなことになったんだろう。


シルクのシーツ、柔らかなスプリング。
広く大きなベッドに、抱き合いながら沈んで行く。
ラブシーンまで恋愛映画のようで、まるで自分が主人公になったよう。
「ん?」
あかねが自分から、友雅の手に指を絡めて来た。
少し火照った顔を上げて、今度は彼女がキスをしてくる。
「…何か私、ヒロインになったみたいな…ふふ」
普通の女の子なのにね。
彼といると、ヒロインになってしまう。
王子様と恋をしてしまった、シンデレラみたい。
「王子様は言い過ぎだろう。そんな年でもないよ」
「そんなことないですよ。初めて会ったときから……」
手の届かない王子様だと思っていた。遠くで眺めているのが、関の山の相手だと。
「なのに、今はこんな…だなんて。シンデレラストーリーじゃないですか」
もう忘れない。
今度は絶対に忘れない。おぼえてる。
彼が囁いてくれた言葉。
"永遠が欲しい”その意味は------------将来の約束。

「プリンセスはね、王子と結ばれるのが運命なんだよ」
自分を王子と言うのはおこがましいが、彼女にとって自分がそうであるのなら、きっと自分にも運命があったんだろう。
あの店に君がやって来たとき、そこだけ空気が澄んでいて。
これまで感じたことのなかった清々しさに、不思議なほど惹かれてしまっていた。
「ファム・ファタールとの出会いは、そういうものかもしれないよ。私も、引き寄せられたんだ」
偶然という運命が、いつどこで起こるか分からない。
彼女が店に来なかったら。
天真が店に呼んでくれなかったら。
そんな偶然が重なり合って、出会いという運命の出来事が生まれる。

「あかね、指輪をはめてあげようか」
左の薬指に口づけをすると、友雅はそう言って微笑んだ。
今度は堂々と、ここにあの指輪をはめてあげる。
そのつもりで選んだ、大切なものだったから。

引き出しから取り出したリングケースを、彼女から受け取って蓋を開ける。
プラチナの輝きに、ピンク色の石の輝き。
あかねの手を取って、薬指にしっかりと。
彼女にぴったり馴染む、愛らしい指輪。
「天真と鷹通から聞いたよ。帰省したとき、見合いを持ちかけられたんだって?」
「えっ…!あ、は、はい…」
天真には事情を話してあった。
両親から何か聞かれたら、ごまかしてもらうように。
そして、それらを友雅たちには知られないように、とも。
「隠さないで、言ってくれれば良かったのに」
「だ、だって…つい勢いで口を滑らせちゃっただけで…」
その場から退散するため、思わず言ってしまったことだったから、突っ込まれたら大変と天真にも協力してもらってた。

「口を滑らせただけ?本気、じゃなかったのかい?」
左手を指輪ごと、ぎゅっと握りしめられた。
「私は…ずっと本気だったのに?」
「……え?あの、あ…」
唇を塞がれたまま、重なる身体が再び沈みゆく。
その間も、ずっと彼は左手を握りしめて離さない。
「本気だったよ。だから、とびきりの石を選んだんだ」
普通のプレゼントには相応しくないけれど、それ以外思い付かなかったのは、あのとき本気で君をそう見ていたからだ。
「ちょ、ちょっと待って下さい。それじゃ…この石ってトルマリンじゃなくて…」
慌てふためいているあかねに、彼は何も言わず微笑む。
その指先を手に取ると、唇にするように石にキスをする。
「無意識だったけどね…。でも、そう思っていたから、きっとこの石を選んだんだと思う」
約束の証にしたかった。永遠にこれからもずっと、君がそばにいてくれることを祈りながら。
その意味を込めて贈れる日を、待っていたのだ。

「だから、口を滑らせて…なんて言わないでおくれ。本気で願っていた、って言ってくれないかい?」



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Megumi,Ka

suga