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 Part.6(4/4)

午後11時半過ぎ。
マンションに帰っても一人じゃつまらない---と確かに言ったが、だからと言って人の気配が欲しいわけじゃなかった。
しかし、そういうことを聞いてくれる相手ではない。
ソファで寝るから気にしないで、と彼らはその通りリビングで横になっている。
「信用されてないのかねえ」
「そういう訳ではありませんよ。あかねさんに安心してもらうためです」
渡された予備のブランケットを広げ、母と逆のシートに座った鷹通が答えた。
彼の母はブランケットに身を包み、ソファの上に横たわっている。
あかねがいないから人恋しくてつい魔がさして…なんてことがないように見張ります、だなんて言って、息子を連れて泊まり込んできた彼女。
「鷹通も大変だな、行動派の母上を持って」
「正直なところ、少々振り回されているとは思います」
二人は顔を見合わせて、互いに苦笑いを浮かべた。

ポケットの中から、小刻みの振動が伝わる。
取り出したスマホの画面には、今すぐにでも会いたい女性の名前。
「それじゃ私も寝室に引っ込むよ。おやすみ」
友雅は即座にリビングを立ち去り、ベッドルームへと姿を消した。
おそらくあかねから連絡が入ったのだと、鷹通は即座に察した。
両親と久しぶりの対面らしいが、穏やかに事が進んでいることを祈るばかりだ。



「こんばんわ姫君。心身が寒々しくて風邪をひきそうだよ」
たった一日。たった一晩。
それだけなのにベッドの冷たさは異常なほどで、どれほど上等な寝具を使っても暖かさは感じられない。
大げさですよと彼女は電話の向こうで笑うけれど、一人分のマットのくぼみが更に寂しさを表す。
「同窓会楽しかったかい?昔の恋を再燃させたりしていないだろうね」
「そんなきっかけも何もないですよ。それに、天真くんがずっとそばにいてくれましたし」
どうやら天真は依頼を忠実にこなしてくれたようで、後々個人的に礼をしなくてはな、と友雅は思った。
「あと…お父さんと話して…近いうちにお店にまた行く約束しました」
「そうか。完璧なおもてなしが出来るよう、念入りに準備をしておくよ」
いよいよか。
何を話すべきか、どう向き合うべきか、友雅なりにずっと考えていた。
母親よりも父親の方が、娘への思い入れが強いはず。それだけに、奇をてらったりせず正統派で接するべきだと決めた。
「あかね、私は君のお父上に結婚の許可を得ようとは思っていない」
「えっ…」
父に結婚の許可をもらわない?それはどういう意味だ。
二人の関係は、結婚ではなく恋人関係に留まるということか。
思いがけない友雅からの発言に、戸惑いながら胸の奥がきゅっと締め付けられた。
しかし、それはあかねの早合点だとすぐに分かった。
「今回は、結婚の意志を持って交際しているのを理解してもらうだけで良い」
そう、以前彼女の母と会った時のように、二人の心構えを伝えることであり、了承を得ること。
あの時は一方的すぎて答えを聞かずじまいだったが、今回は納得してもらうつもりではいる。
「お父上も私がどんな男か、じっくり品定めする時間が欲しいと思うしね」
実際に会って会話するだけでなく、あらゆる手段を使って事細かく調べようとするかもしれない。
例えば興信所に頼んで探偵を使わせたりとか?
「そこまではしませんて、さすがに。両家のお嬢様じゃないですし」
「でも、大切な娘には変わりないよ。慎重にもなるだろう」
ならばどうぞ、ゆっくりと吟味して頂こう。彼女への気持ちに嘘偽りがないことを分かってもらえるまで。
勝負事ではないけれど、焦ってしまったら負け。慎重には慎重で応じるのが成功への近道。
とか言いながら、彼女に想いを打ち明けるまでの期間と、彼女の母に会うまでの期間などを合わせたら、そろそろ焦っても良い頃合いかもしれないが。

「気持ちが変わるわけではないから」
両親に認められた後も、そして今現在も。この心はずっといつものまま。
「君との未来が欲しいという気持ちは、もはや私の日常だからね」
今日も、明日も、その先も、二人で同じ景色を見ること。
小さな未来が積み重なって生まれる、長い長い人生というものを手を取り合って。
「同じ気持ちでいると、信じて良いのだよね?」
「…はい」
「だったら、今すぐ背中の羽根を使って戻ってきておくれ。今夜は賑やかすぎて落ち着かないよ」
藤原母子が隣の部屋で寝ていることにあかねは驚いたが、理由を聞いたあとで笑い声に変わった。
「良いじゃないですか賑やかで」
「いやいや困るよ、ここは君と私の愛の巣のつもりなのに」
誰にも内緒で逢瀬を楽しめる条件で見つけたこの部屋も、今では二人で生活するための場所。
でも、はじめからそんな考えがあったのかもしれない。
会うだけじゃ物足りない。ずっと一緒に過ごせるような空間を見つけようと。
「天真にくれぐれもよろしく。それとお父上に、お会い出来るのを楽しみにしていますと伝えておくれ」
「分かりました。じゃ…おやすみなさい」
彼女が電話を切るまで待って、友雅はスマホをオフにした。
あかねの声を聞いて少し安心した。
帰省する前は緊張していたようだったから、柔らかな口ぶりで両親との関係は和やかだと分かった。
二人のことで、重い荷物を背負わせるのは辛くもあったし。
「さあ、私も頑張らなくてはね」
スマホをテーブルに置き、ミネラルウォーターのボトルを取りに部屋を出た。


「…まだ寝ていなかったのかい?」
リビングの先にあるダイニングに向かおうとすると、ブランケットにくるまって寝転がっている藤原母子と目が合った。
「あかねさん、何て言ってた?」
元々狸寝入りしていたのか、それとも途中で目が覚めて鷹通から話を聞いたのか。
「これと言って何も。同窓会は楽しかったようだよ」
「それは結構だけど、一番の問題はそれじゃないでしょ」
おせっかいで心配性で、そして自分たちの味方であり応援団。
鷹通は常に冷静で控えめに構えているが、彼女はぐいぐい痛いところまで攻め込んで来る。
「会って下さるそうだよ」
短めに答えると、今にもガッツポーズをするような姿勢でぐっと拳を握りしめる。
まったく、母親の方が息子よりもパワフルだ。
「改めてまた、食事に来てくれると約束してもらえたようだ」
「やったわー。あのときチケット渡しておいて良かったー!」
自画自賛する母を見て苦笑する鷹通は、横になっていて乱れた髪を手ぐしで軽く整えてから眼鏡を取った。
「いつお店にいらっしゃるのですか」
「それはまだ分からない。都合を付けるのはこちら側だからね」
「そうね。でも、いつ来られても良いように準備はしっかりしないと」
すっかり目が覚めてしまった彼女は、起き上がって姿勢を正す。
バッグからファイルを取り出し、友雅をこちらへと手招きした。
「メニューどうする?お酒はどこの銘柄が良いかしら」
「ストップ。今から作戦会議かい?もう日付が変わる時間だよ」
「大雑把にちょっと書き出すだけよ。ほらほら、早く」
やれやれ…。彼女の"ちょっと"はあてにならない。
明日が夜営業の『JADE』で良かった。『Giada』だったら寝不足で店に立っていたに違いない。

-------君はもう眠りについているだろうか。
良くも悪くも、私は君の居ない寂しさに浸る余裕はなさそうだよ。



しかし、そんなせっかちな打ち合わせの成果を披露する機会は、意外にも早くやって来たのだった。

--------THE END




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2019.05.18

Megumi,Ka

suga