Truth in my heart

 05

「もしもし…友雅さん?」
『あかね?少し時差ボケが酷いのかな。もう3が日が過ぎてしまったかい?』
「ううん、こっちは元旦です。あけましておめでとうございます。そっちは寒いですか?」
『ああ、結構冷え込んではいるけれども……』
それよりも、何故この部屋にいるのだ?と尋ねたいに違いない。
けれど、友雅は何も言わなかった。
何かしら彼女に理由があって、家から戻って来たのだろうと察したからだ。
その理由に、こちらから触れても良いものか…。その隙間があるかどうかを、あかねの口調から探っている。

「ごめんなさい。帰って来ちゃったんです、今日」
『それは構わないけれど、予定より長くあかねが一人でそこにいるのが、私は少し心配だよ』
詳しいことは、あとで鷹通に尋ねてみるとして。
加えて、正月休み中の彼には申し訳ないが、あかねに不自由がないようサポートしてもらわねば。
『だけど、こっちにいてくれて良かった。アパートに戻られていたら、更に心配だったよ』
あかねのアパートは、学生時代から借りている部屋であるせいか、周りに住むのは大学生が多い。
この時期彼らは大体帰省してしまうため、留守がちの部屋が大半となる。
だがこちらは警備員が常駐している分、何か困りごとが起こっても安心だ。
『あちらに戻らないで、そこにいるんだよ?』
「…はい、ここにいます。だって……」

だって?
彼女の口から続く言葉を、期待しながら耳を澄ます。
「だって、ここには友雅さんの匂いがあるから…心細くないし」



あかねに携帯を手渡したあと、鷹通はそっとリビングから廊下へと移動した。
恋人同士が愛を語り合うのなら、第三者の存在は少々邪魔だろう。
電話が終わるまでは彼らだけにしておこうと、気を利かせたつもりだった。
しばらくすると、あかねが携帯を手にドアを開けた。
「鷹通さん、友雅さんが電話…代わって下さいって…」
「そうですか。では、もう一度お部屋に移動させて頂きますね」
どんな会話をしていたか知らないが、二人とも声を聞いただけで気分は和らいだだろう。

「もしもし、お電話済みましたか」
再び話し相手が代わったとたん、向こうから聞こえて来たのは、鷹通が想像もしなかった言葉だった。
『鷹通、今すぐ明日のフライトを手配する。明日のうちに、こちらを発って帰路につくよ』
「えっ?お待ち下さい…ご予定では10日過ぎまでと…」
今日は元旦だし、まだ一週間以上もあるじゃないか。
こちらを発ったのが去年の29日。ほんの数日じゃ用件だって片付くとは思えない。
それで帰国するというのなら、一体何のために向こうに行ったのか分からないじゃないか。

だが、友雅は鷹通のそんな困惑を、既に察していたようで。
『取引と会合は、カウントダウンを兼ねて済ませたよ。あとはメールかFAXで、国内にいてもどうにかなる』
スピーディーな仕事の進め方に、信じられないと言った鷹通のリアクション。
しかし間違いなく、約束していた相手との会合は終了していたのだ。
そこら辺は、年末年始のカウントダウンで盛り上がるお国柄のおかげ。ホテルのラウンジを貸し切って、同じ業者たちの集まるパーティーに参加したため、一度に最低限の用件が解消出来たのである。
『最初から少し早めに帰国しようと、フライト時間の変更を考えていたんだ。あかねが一人でそこにいるなら、最速の時間を手配するよ』
明日以降は、彼女への土産でも物色しようかとか、そんな予定しかなかった。
でも、こんな状態ならば、すぐに帰国して彼女を抱きしめる方がずっと良い。
『チケットが取れたら、また連絡をするよ。それまではあかねのことを、よろしく頼むよ』
「…了解致しました。ではお気をつけて」
もう一度あかねに代わろうか、と尋ねたが、友雅はNOと答えて電話を切った。
おそらくすぐに、空路のチケットを手配するのだろう。

「橘さん、お仕事を早めに終えてお戻りになるそうです」
「えっ…?」
びっくりした顔で、あかねはこちらを見上げた。
そりゃそうだ。鷹通もさっきは、同じような顔をしていたはずだ。
「早ければ3日の夕方頃には、帰国されるのではないでしょうか」
にっこりと優しい笑顔で、鷹通は答える。
だがあかねの方は、驚きの顔から戸惑いの顔へと変化した。
「もしかして私、友雅さんに心配かけちゃいましたか…?」
一人でいることを気にかけていた彼だから、早く帰らねばと思ったのかも。
「それもあるでしょうが、お仕事は済んだようですので。元から早く帰るつもりだったようですよ」
気にかけなくても良い、と彼は肩を軽く叩いて励ましてくれる。

彼が予定よりも早く帰国してくれる。
ここに、また戻って来てくれる。
ベッドに染み付いた彼の残り香に包まれるだけじゃなく、本物のぬくもりに抱かれて眠る日が、また戻って来る。
仕事の邪魔をしてしまったのでは、と心苦しい気持ちがあるのに、早く彼に会いたいという気持ちが勝りつつある現実。

どうしてこんなに、恋しいんだろう。
ずっとずっと好きだったのに、今もずっと好きなのに…心が不思議なほどに逸る。


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新年が明けて、早くも3日が過ぎていた。
『JADE』は5日から営業開始であるが、オーナーの彼がいなくとも、マネージャーの鷹通がきっちりと営業スケジュールをまとめている。
だが、オーナーの彼が今日の夕方帰国することになった。
「しばらくはご自宅で、あちらとの取引作業をして頂きますか…」
店はこちらに任せてもらい、残った仕事は本人にこなしてもらおう。
国内にいても出来ると言ったのは彼だ。
それはすべて責任を取ってもらうとして。
「そろそろ出掛ける時間ですね…」
時計の表示時刻を確認して、鷹通はファイルをぱたんと閉じた。
これからあかねを迎えに行き、空港へ友雅を出迎えに行くのである。
ついでに、空港近くのホテルを予約しておくように、と言われていた。
もちろんそれは、彼が長時間のフライト疲れを癒すための部屋としてだが、ダブルルームの予約ということであるから、一人で宿泊するわけではない。
-----------------だから、彼女が同行しているのだ。

明日からあかねは仕事始めだというのに、のんびりとホテルで過ごすなんて大丈夫だろうか。
余計な心配をしながら着替えを始めた鷹通の携帯が、またも鳴り響いた。
彼だろうか?
急いで液晶モニタを確認したが、それは意外な相手からの電話だった。

『もしもし、あー…明けましておめでとうございまっす、藤原さん』
「ええ、こちらこそ、明けましておめでとうございます、森村くん。どうなされました?」
電話の相手は、『JADE』フロアスタッフの一人、天真だった。
『えーとですね、ちょっと…まあたいしたことじゃないんですけども、話したいことがありましてー…』
普段からっとした性格の天真にしては、珍しく奥歯に物が挟まったような口調。

「これから出掛ける用事があるので、あまりお時間は取れませんが…宜しければお話をお聞き致しますよ?」
どんな些細な内容であっても、スタッフの相談や話に耳を傾けるのは、マネージャーの仕事の基本。
鷹通は一旦ソファに腰を下ろし、天真の声に耳を集中させた。



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Megumi,Ka

suga