
クリスマス用に選んだテーブルクロスは、薪のように深いシックな無地のブラウン。
冬らしい暖色や、クリスマスらしい赤や緑も惹かれたけれど、二人で過ごすのなら大人っぽいコーディネートにこだわるのも良い。
「良いね。レストランにも負けていない雰囲気だな。」
「でしょう?こないだ見た雑誌に、特集されてたのが素敵で良いなあと思って。」
テーブルの表面を無地に抑え、代わりにランチョンマットは白地。
金糸刺繍で施されているのは、雪の結晶模様。きらりと糸が光るのが、また良い感じだ。
部屋の照明は落として、赤いガラスのホルダーにキャンドルを灯す。
バカラのワイングラスに、クリストフルのカトラリー。
すべてもらい物ばかりであるが、テーブルコーディネートには最高の脇役だ。
「じゃ、私は着替えてきまーす」
テーブルの用意も食事の支度も殆ど終えると、あかねは寝室へと消えてゆく。
出掛けるわけじゃないのだから、服装なんて気にする必要もない。
けれど、そこはやはり女性である。
せっかく気合いを入れた聖夜のクリスマスディナーなのに、食べるときは普段着なんて…あまりにムード台無し。
せめて自宅でも、ドレスアップしなくちゃ!
そう言って、夕べからパーティードレスを探っていたくらいだ。
以前は取引先のパーティーに、彼女を連れてよく出掛けたものだ。
その度に選んだドレスは、未だにずらりとクローゼットに掛けられているけれど、今はあまり出掛けたりしないので、袖を通すことは少ない。
そういえば、ドレッシーな姿も御無沙汰しているな。
たまには、そんなあかねを見るのも楽しみではある。
手持ち無沙汰に開けた小さめの缶ビールを、飲み終えて友雅は寝室のドアをノックした。
「もう着替え終わった?入っても良いかい?」
「あー…うん、どうぞー」
ちょっとためらいがあったが、すぐにあかねはOKの返事をした。
ドアを開けて中に入ると、着替えを終えた彼女が立っている。
「このドレス、久し振りでしょう?」
裾をつまんでお姫さまのように、あかねはポーズを取ってみせる。
ワインレッドの生地に、黒のレースをショールのように重ねた、Aラインのビスチェミディドレス。
確かこれを買ってあげたのは…付き合って一年目の時に連れていった、新年パーティーの時だったか。
「ちょっとだけ、ここがキツイんですけどねぇ」
恥ずかしそうにあかねは、胸元に手を当てる。
ここ最近ワンサイズ上がったから、バストだけが以前よりも少しきつめだけど、それ以外はまだまだ平気。
ウエストやヒップに変化がなくて良かった…なんて、ホッとしたりもして。
「いや、きつそうなのがまた色っぽくて良いよ。」
抱き寄せると、スカートの裾がふわりと揺れる。
「肩も胸元もこんなに剥き出しになってて…こんなあかねを、外では見せられないな。」
「んー…今はちょっと恥ずかしいかなぁ…」
ショールやボレロがなければ、着ている方も落ち着かないし、周りの目も気になってしまう。
でも、形は気に入っているので、こういうときこそ着てみないと。
「まあ、私は全然構わないけどね。きついのなら…ずらしてあげようか?」
「ああっ!もうっ、またそういうことするっ!!!」
谷間に指を差し込もうとした友雅の手を、慌てて払い除けた。
「すぐそういうことするんだからっ!」
「ドレス姿より、その方が魅力的だと思って。」
悪びれもせず、さらっとそんなこと言って笑う。
まったく油断のならない…恋人。
「私はもう着替え済みましたから、友雅さんも早くしてくださいね!」
少しずらされたドレスを整え直して、あかねはぱたぱたと部屋を出ていく。
ドレスアップは姫君だけにとどまらず、こちらにも一応強要されている。
女性と違って、男なんて着飾る張り合いもないのだけれど。
「ま、私のプリンセスをエスコートするには、正装しなければ釣り合わないか。」
着飾った姫君には、それなりのスタイルで。
そうしなければ、彼女の手を取っても様にならなそうだしね。
友雅は反対側のクローゼットから、ワイシャツとシルバーグレーのスーツを取り出した。
+++++
リビングのソファを隅っこに追いやって、テーブルも折り畳んで仕舞い込む。
広々とした空間に、ダイニングセットを移動。
完璧なテーブルコーディネート。二人分の椅子と、カトラリー、そしてグラス。
明かりを消すと、キャンドルライトが揺らめいて。
薄暗い中で、真っ白なクリスマスツリーが輝いている。
「すごいね。外食なんかしなくて正解だったな。」
次々に差し出されるプレートは、見た目も味もなかなかのもの。
さほど凝った味ではないが、素材と素材の相性を絶妙に組み合わせてある。
そのせいで、新鮮な味わいがまさに生きているという感じだ。
「ホント、鷹通さんのお母さんって料理上手。すごくセンス良いんだもん。」
「イタリアはパリと並んで、昔から芸術の都だからね。」
住んでいればそれだけで、風習や日常の中に優れた感覚が根付いてくるのだろう。
「でも、あかねのアイデアをもらったデザートは、鷹通がとても誉めていたよ?」
「え、この間の…クリスマスのメニューのことですか?」
大々的なイベントはしないけれど、特別メニューくらいは用意する。
けれども、どんなものが女性に好まれるか…。悩みに悩んで、結局あかねに相談したのだ。
「鷹通だけじゃないよ。あのメニュー、毎日かなりオーダーがあってね。一人で何回も頼むお客さまもいたくらいだよ。」
「ホントにー!?何か、ちょっと嬉しい!」
単純に、自分だったらこんなものが食べたいな〜、という、気軽な発想にクリスマステイストをプラスしただけなのに。
「あかねを、うちのメニュー要員に雇いたいくらいだ。」
「あはは…それはさすがに無理ですよ。」
笑いながらあかねは、空になった友雅のグラスに、白ワインを注ぎ入れる。
「そうだね。あかねは来年から、社会人になるのだからね。」
グラスを手に取り、カツン、と彼女のグラスの縁に当てて、一口含む。
ハーブ仕立ての魚のソテーは、綺麗に骨を残した姿になっている。
「…その御祝いも兼ねて、そろそろプレゼント交換しようか。」
「あ、そ、そうですねっ!」
友雅が急に切り出したので、少し焦ってドキドキしてきた。
いよいよクリスマスのメインイベント…。
一生懸命探して選んだ贈り物を、やっと彼に手渡せる時がやってきた。
「ちょっと待っててね。実は寝室のクローゼットに隠してあるから、取ってくるよ。」
「あ、じゃあ私もっ!私も倉庫に隠してあるんで取ってきます!」
二人はほぼ同時に、逆の方へと向かって歩いていく。
…喜んでくれると良いなあ…。
そんな同じ気持ちを抱いて。