Christmas Eve-----03



「はい!クリスマスプレゼントです!開けてみてください!」
胸に抱きしめていたそれを、あかねは笑顔いっぱいで友雅に差し出した。
赤いリボンを解き、マットな艶なしの黒い箱の蓋を開ける。
外からは何度も眺めたけれど、今はじめて中身の正体を目にすることとなる。

「ん?これは…ブリーフケースかな?」
「そうです!本場イタリアで、革細工職人さんが手作りで作ったやつですよー!」
パラフィン紙に丁寧に包まれたそれは、こっくりとした良い深みのある色の、艶やかな仕立て。
ほつれなど一切なく、どこもかしこもきちんとした仕上がりになっている。
「最近、打ち合わせとかで資料とか書類とか、持って歩いたりすることが多いでしょう?こういうのがあれば、かさばらずに済むかなと思って。」
「なるほどね…。確かに重宝しそうだな。」
今までのように、『JADE』に付随した業種なら楽なのだが、これからはそうも行かない。
まったく新しい事業が、やっと動きだそうとしているところ。
それらを成功するためには、まだまだ準備が必要で。
おかげで、最近は打ち合わせなどが増えているのだ。

「お仕事に使ってください。」
「…ありがとう。本当にあかねは、私のことをよく観察してくれているね。」
「だって、そりゃあ…いつも一緒にいるから……」

帰宅する彼を出迎えて、一緒にここで食事をして。
眠るときは、同じベッドに。
目が覚めても、隣には彼がいてくれる。
その繰り返しが…日常の光景。
一人暮らしのアパートには、滅多に帰ることもなくなって……。
外出から戻ってくるのは、いつも…ここ。
まるでここが、自分の家みたい。
表札には『橘』としか書いてないのに。
でも……カードキーの暗証番号は、彼が決めた私の名前。
"xakanex"
両サイドにはx。
それを"キス"と読むんだ、と最初に彼が笑って教えてくれた。



「さあ、それじゃ私も贈り物をしなくてはね。」
彼が椅子を引く音に、あかねは顔を上げた。
友雅は立ち上がって、彼女の後ろへと回る。
「目、閉じて。良いっていうまで、目を開けちゃだめだよ。」
「え?何なんですかあ?」
「内緒。目を閉じた?」
「あ、はあい…ちゃんとつむりました」
何だか分からないけれど、わくわくしてきた。
どんなサプライズを用意してくれているのか…。ちょっと期待しつつ、あかねは友雅の合図を待つ。

「はい、良いよ。」
ゆっくりとあかねは、瞼を開けた。
次の瞬間……目の前に置かれていたその代物は……。
「え、ええっ!?これっ…」
真っ赤なベルベットのケースが開かれ、中にひとつ輝いている眩しい光。
大粒のピンクの石の周りを、きらきらした小さい透明の石が取り囲み、花のような形を作っている。
「あかねの指に合うはずだよ。君の身体のサイズなら、どんなところでも熟知しているからね。」
後ろから手を伸ばして、友雅はケースから指輪を取り出す。
そして、当然のように彼女の左手を取り、薬指にぴったりとはめ込んだ。
「ほら…ね。ぴったりだ。」
「え…友雅さん…これっ…」
びっくりして、あかねは振り返る。
指輪のプレゼントなんて、思ってもみなかった。
しかも、このケースに印字されているブランド名…。
確か最近噂になっている、超ハイクラスセレブ御用達のブランドじゃなかったか?

「ちょっと待って…こんな高いの、受け取れませんよ!」
「そう高くはないよ。」
「嘘っ!だってあのお店、普通の人が入れるところじゃないですもん!」
無気になって焦るあかねを、友雅は笑いながら後ろから抱きすくめる。
「確かに他からくらべたら…ちょっと高いかもしれない。でも、それはさっきも言ったように、来年から社会人になるあかねへの御祝い。」
もう一人前の大人なのだから、いいものをひとつ持っていても良い。
それに、ここまで苦労してきたのだから、改めて"よく頑張ったね"の気持ちも込めて。

「だからね、今回は特別。受け取ってくれないと、困るんだよ。」
「でも……こんなに高いの…」
やれやれ。私のプリンセスは、金銭感覚にはとことん庶民派だな。
苦笑しながら、友雅はあかねの手を取る。

「あのね、これはあの店の中でも安い部類のものなんだよ。ほら、デザインだってシンプルだろう?」
リングの土台は細いシルバーで、爪も飾りも凝っていない。完全に輪っかのみ。
「それに、ピンクの石はトルマリン。色が薄いから、比較的リーズナブルなんだ。周りのはダイヤに見えるだろうけど、ジルコニアだよ。だから、値段もあのブランドにしては安いんだよ。」
「…そう…なんですか…?」
何せ殆ど縁がないから、あまり宝石のことは詳しくはない。
咄嗟に、もしかしてピンクダイヤに、周りの石はダイヤ!?と驚いたのだけど…違うのなら、思っているほどびっくり価格じゃないのかな?


「でもね、気持ちはホンモノ。」
あかねの手が持ち上げられて、彼がピンクの石に口づけをした。
「心は込めてあるよ。あかねがくれたプレゼントと、同じくらいにね。」
本当はもっと、大きな気持ちが隠されているけれど……それは、今は言わない。
だけどこの想いは、とても硬くて崩れたりしない。
……この、ピンクの石と同じように。

「何か薬指に指輪だなんて、エンゲージリングみたい」
くすくす笑いながら頬を染めて、あかねは友雅に寄り添う。
そして、彼が口づけた石に、そっと自らの唇を近付けた。
「じゃあ…今夜は真似事でもしようか。」
彼女を椅子から立ち上がらせて、ふわりと身体を抱き上げる。
部屋の隅っこで寂しそうにしているソファに、あかねを横たわらせて、抱き合いながら唇を重ねた。

ドレスはあかねの身体から剥がれ落ち、同時に友雅のネクタイとジャケットは、その上にこぼれ落ちる。
抱き合うのに、服なんて必要ない。
肌と肌を重ねあうことで、ぬくもりに閉じ込められた想いが、直に伝わるような気がするから……身体以外、何もいらない。


身体をよじらせてそり上がると、視界にクリスマスツリーの輝きが映る。
「……綺麗…」
真っ白なツリー。光る赤いリボンの飾り。
首を傾けると、テーブルに置きっぱなしのグラスが、キャンドルライトに照らされて…。
「ね…ツリーもグラスも…ライトも、みんな…綺麗…」
「でも…あかねの薬指が、今夜は一番綺麗だ。」
「…ふふっ…。だって、大好きな人がくれた指輪だもの。一番綺麗に決まってますよー」
「ああ、困った。そういう切り返しをされたら火が着いてしまって、せっかくの聖夜なのに、しっとりとは行かないな。」
最初からそんなつもりないくせに…と、またそんな切り返しをするから、大人しく愛してやるなんて出来ない。