待ち合わせは勤務先から三つ先の駅前だった。
繁華街ほど混雑していない地域なので、車が停まりやすいと言う利点があったからだ。
ファミリー層が多い街なので駅周辺にスーパーもあり、早めに到着してちょっとした夕飯の買い物も済ませた。
そろそろ時間かなと見渡していると、友雅のシトロエンが近づいて来るのが見えた。しかし、後ろには代行のタクシーが続いていて、シトロエンを運転するのは彼ではなかった。
「ランチでグラスワインを頂いてしまってね」
「そうだったんですか、じゃあ仕方ないですね」
買い物の荷物を後ろに乗せて、あかねは後部座席に1人。
普段は助手席にしか乗らないので、広々としたシートをちょっと持て余してしまう。
敷地のゲートで管理人のチェックを受けてから住居棟まで進み、ガレージで下車してやっと帰宅。
「さっき奥の家の裏に梅の木があったね、白梅と紅梅のグラデーションが綺麗だったよ」
「でしょ?よく見るとあちこちもう春らしいですよ」
あかねの荷物を代わりに持って、エレベーターを上がりドアを開ける。
自動的にリビングとキッチンの明かりが灯り、窓の外には暮れゆく水平線が見えた。
「そうだ、忘れないうちに。今日の試食に出たドルチェを持ち帰らせてもらったよ」
「わ!新作ですか!?楽しみ〜」
どんなドルチェかなぁとワクワクしながら、保冷バッグの中身を取り出す。
白いものはカッサータ?こっちの焼き菓子はタルト?
「どちらもカッサータだよ。焼き菓子タイプのものもあるんだそうだ」
「知らなかった!時々お店に売ってたりするのはアイスみたいな方ですよね」
多めの保冷剤とレストランで保管を頼んでいたので、どちらもまだ解けもせず冷たいまま。
「同じシチリアでも地域によって違うのは面白いね」
「現地じゃないと食べられないものとかもありますもんね。楽しいですよね、そういうの」
その土地でしか見たことのない食材や調理法。食というのは一番文化の違いが分かるもので、無限に追求できる興味深いもの。
「これをきっかけに、今年はシチリアのワイナリーも探索しようかと考えているんだよ」
毎年友雅は葡萄の収穫時期である秋口にイタリアに渡る。
今年の葡萄の出来や、契約している熟成中のワインの様子、新しい契約農家の発掘などビジネスのための視察だ。
「で、あかねもシチリアの食文化に興味ないかい?」
「えっ!?それってまさか」
まさか同行に誘われてる?
「あかねの予定に合わせるよ。少し長い休みが取れそうな時で」
「でも、友雅さんが行くの秋じゃないですか。他の時期に行ってもお仕事にならないんじゃ…」
「シチリアは初めてだから土地を知りたいし、秋じゃなくても平気だよ」
仕事関係の諸々に関しては、改めていつもの時期にまた行けば良いし。
「邪魔になりませんか?」
「大丈夫だよ、パートナーとして紹介するから」
家族意識の強いお国柄だが特に南イタリアはその傾向が強い。
それに、恋愛についてもかなり情熱的。
「正直に、ひとときも離したくないからと言えば受け入れてくれるよ」
そう、正直に遠慮なく本心を。
情熱的な彼らも負けそうなくらい、見せつけるような心構えで。
「GWは大学も休みになるから、利用者も少ないし休めるかも」
「5月か、良い季節だね。向こうも過ごしやすくて綺麗な時期だ」
陽射しはやや強くなるが、その分新緑が鮮やかで青空に映える。汗ばむこともあるため、海のリゾートも楽しめる。
「今回は宿も良いところを探そう。あかねと一緒だと奮発し甲斐がある」
「普通レベルで良いですってば、そんなに豪勢にしなくても…」
「2人旅なのだから、記憶に残るような旅が良いじゃないか」
そう言って友雅は、今日聞いた鷹通の母のシチリア旅の話をした。
「素敵〜、良いなぁ。やっぱりお二人ともずっとラブラブなんですねぇ」
「だから私達も見習わないと」
何年か先に思い出した時に、最高の記憶しかない旅であるように。
どの場面を切り取っても、彼女の笑顔だけが浮かぶ記憶を刻めるように。
「本来ならハネムーンといきたいところだけど、今回はリハーサル気分で楽しみたいね」
いつかはきっと本当に、蜜月の旅を。
シチリアレモンの酸味も薄まるくらい、甘い甘い蜂蜜みたいな良い旅を。
----------------THE END
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