数分後、友雅は箱を抱えて部屋に戻って来た。
「お仕事に使うものを買ったんですか?」
「いや、贈り物だよ」
彼はその箱を、そのままあかねに手渡した。
「え、ちょっと…私に!?」
取り敢えず開けてみてごらん、と友雅が言うので、戸惑いつつもテープを剥がしていく。
伝票に記されているのは、あかねの知らない会社の名前。
少し重いけれど、一体何が入っているのか……。

「えっ、これ今流行ってるブーツじゃないですか!」
丁寧に梱包されて箱詰めされていたものは、キャメルカラーのサイドゴアブーツ。
ブランドのタグが付いており、間違いなく最近あちこちの雑誌に掲載されているものだ。
「あかねが欲しそうなブーツだと思ったから、取り置きしてもらっていたんだよ」
先週、某県での会議に参加するため一泊したホテルに、セレクトショップがテナントとして入っていた。
何か土産になるものがないかと立ち寄って、見つけたのがこのブーツだった。
「しかもこれ、一番人気のカラーですよ。どこも品薄なんですよ」
「らしいね。店員も言っていたよ。再入荷したばかりでラッキーですねって」
サイズもあかねの足にぴったりのものがあった。丁度バレンタインも近いことだし、自宅に配達してもらうよう頼んでおいた。
「履いてごらん」
ルームソックスを脱ぎ、ブーツに足を入れる。
7センチヒールで少し目線が高くなり、いつもより友雅の顔が近く見える。
「履き心地は大丈夫?」
「うん、大丈夫です…。でも、これ結構高いですよね?」
ハイブランドではないが、革だからリーズナブルとは言えない値段だったと記憶している。
自分で買うとしたら、この冬はこれ一足と決意をして買うほどの。
それをまさか、ぽんと簡単にプレゼントされるなんて予想もしていなくて。
「森村くんに渡すチョコを、労いチョコと言っていただろう。これも、そういう意味だよ」
我が家は共働きなので、どちらかが忙しい場合は家事を引き受ける。
だが基本的に家事はあかねが率先してやってしまうから、累積すると友雅への配分はかなり少なくなる。
文明の利器やサービスなどを活用し、手抜きを心がけるよう伝えてはいるがまだまだ。
「日頃の感謝の証だと思って、受け取ってくれれば良いんだよ」
もちろん、愛する人への贈り物というバレンタインの意味もあるけど、と友雅は笑った。

「申し訳ないが、形にするくらいしか思いつかなくてね」
もう少し気の利いたことが出来れば良いのに、と色々考えてはみた。
どんな風にすれば、日常の感謝を伝えきれるだろうかと。
譲れない条件は、彼女を喜ばせること。
毎日の疲れを吹き飛ばしてしまうほど、笑顔にさせてあげること。
思い切り甘えさせて、好きなだけ自由にさせてあげて…でも彼女の性格上、上手く行かないだろうなと考え直し。
結局のところはありきたりなプレゼント、に落ち着いてしまった。
それでも、気持ちが伝わっていれば良いのだが。
「伝わらないわけ、ないじゃないですか…もう」
両手を友雅の肩にまわして背伸びする。ヒールの分、若干軽めに。
ブーツの高さでいつもより抱きしめやすいね、と言う友雅にあかねは笑い声で応える。
「こんなに私のことをよく見てくれているの、両親と友雅さんくらいですよ」
「ご両親と並んで私の名を挙げてもらえるとは、光栄だな」
一緒に暮らしているとか同じ職場で働いているとか、目に見えるものだけじゃなくて。
ほんの少しの変化や些細なことまで、彼はその瞳に自分の姿を映してくれている。
「君を育てたご両親には敵わないけれど、私はご両親の知らないあかねを知っているしね」
「友雅さんにしか分からない私?」
「そう。知りたい?」
耳元に唇を近づけると、囁くように甘美なキーワードを次々に。
両親になんか聞かせられない、真実の…二人の秘密のことばかりを言うから耳たぶが真っ赤になる。
「私はこれからも、新しいあかねを見つけ出すよ。色々な手を使ってね」
彼女が喜ぶことだけではなく、不機嫌になることや目を背けるようなことまで。
マイナスの部分を理解していれば地雷を避けられるし、喜ばせることに集中できるから。
プライベートでも仕事でも、お互いがベストパートナーであり続けるために。

「じゃあ私も、私にしか分からない友雅さんを見つけちゃいますよ」
彼の過去にどんな記憶が刻まれていても構わない。
そこにいるのが知らない女性たちでも、これから新しい彼を見つけられるのは自分だけとあかねは信じている。
「私だけの友雅さん、どんどん探しちゃいますから」
「ふふ、隅から隅まで、気が済むまでどうぞ。お好きなように」
「って言いながら、何やってんですかーっ!!」
シャツのボタンを指先で器用にひとつずつ外し、この寒いのに胸元をはだけてソファにあかねごと倒れこむ。
「さあ、好きにして、天使様」
「そーいうのは男の人が言う台詞じゃありませんっ」
「それなら、あかねが言ってごらん」
形勢逆転。乗りかかられては逃げ場もなく、彼の言いなりになるしかない。
指先が顎をゆっくりなぞり、優しいキスが二度、三度。
「もう…いっそのことお互いに好きにしちゃいましょう!」
背中に回した手をぎゅっと強め、友雅にしがみつく。
「いいね、大賛成」

甘くまろやかなミルクチョコレート。
ほろ苦いカカオの風味が引き立つビターチョコレート。
コクのある甘いホワイトチョコレート。
----------遥か昔、チョコレートは媚薬として使われていたという。
そして今、この現代で…果たしてその効果は?。
真偽の程はわからないけれど、チョコより甘い二人の時間に魅力を感じているのは確か。

大切なブーツをそっと脱いで、テーブルの上のチョコも、後回し。
今、触れたら…二人の熱で溶けてしまいそうだから。





----------------THE END









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