White Snow Flowers

 02
次の日の朝、久しぶりに空が真っ青に染まった。
太陽の光が雪に反射して、あたり一面きらきらと眩しい。
「良いお天気!晴れてると少し暖かく感じられるよね」
まだまだ吐く息は白いし寒いのには違いないけれど、日差しがあるのとないのとでは体感温度も違う。
このまま天気が順調に回復すれば、普段どおりに外出も許されるだろう。

「車をお使いになるのでしたら、お出かけになっても構いませんよ」
朝餉の最中、藤姫がそう告げた。
二人が天真に会いたがっていたのは知っているし、藤姫自身も天真たちの様子を気にかけていた。
雪は完全に融けていないにしろ、車でゆっくり進めばさほどの危険もないはず。
「頼久も一緒にお連れ下さい。手が足りすぎるくらいが丁度良いでしょう」
「うん、分かった。気をつけて行って来るね」
そうと決まったら、早く朝餉を済ませなければ。
せっかく訪ねて行くのだから手土産でも用意しようか。
晴れていても寒さは衰えていないし、厚手の羽織物を着ていかないと。
慌ただしく支度を終えてあかねたちが屋敷を出たのは、結局2時間ほど過ぎた頃だった。
そして、更に十数分後。土御門家に牛車が到着した。
「おや…随分と静かだね。我が君はまだ夢の中かい?」
足を踏み入れたと同時に、いつもより人の気配が少ないと感じた。
すると女房が、今日は湯桶を用意せず玄関先へとやって来た。藤姫と共に。
「ご足労頂いて申し訳ありません。実は先ほど、あかね様はお出かけになられましたの」
詩紋と頼久も一緒に出掛けたとなると、行く先の見当はつく。
あと少し早ければ着いて行けたのに、"たいみんぐ"を逃してしまったな。
「運が悪うございましたね」
にっこり微笑んでいながら、何か含んでいそうな藤姫の一言。
だが、こんなことは日常茶飯事。今更動じることでもない。
「では、私も天真の様子を見に行くとしようかな」
あかねのいない土御門家に用はない。
軽く二人に挨拶をして、再び友雅は車に戻った。


天気が回復したおかげで、今日は外を歩いている人が多い。
家の前に積もった雪を掻き分けている男性や、雪ぶつけで遊んでいる子どもたち。
「友雅様、あそこにもありますよ」
従者の声で窓を開けると、長屋の隅に昨日見かけた雪玉の像(?)が並んでいた。
「あ、あちらにもあります。ん?その裏にもありますよ?」
真っ白だから気付かなかったのか、よく見るとそこかしこに。
泰明に特徴を伝えたのが、思い当たるものはないとの返事。結局これらの正体は謎のまま。
この辺りに住んでいる天真や町に詳しいイノリなら、何か知っているかも…と考えていた時、大きな声が裏手の方から聞こえて来た。
「ゆっくりゆっくり!大きくなると危ないからなー!」
何人かの子どもの声も混じって、賑やかな雰囲気が伝わってくる。
長屋の手前で車を停め、声を頼りに歩いて行くと視界が広がった。
ささやかな作物を育てていた畑も今は雪に覆われて、子どもたちの格好の遊び場。
大きな雪玉を数人で転がしている子どもと、彼らに声援を送る天真。そして近くにはあかねと詩紋、そして頼久。
「そっちの雪玉は小さめにな。大きさを確認しながら転がせよー」
天真の指示に従って、楽しそうにに子どもたちは雪玉を転がす。
徐々にそれらは大きくなり、若干サイズの違う真っ白な玉が出来上がった。
「じゃあ、交代!」
子どもたちを移動させ、天真が手招きをすると今度はあかねたちが雪玉の方へやって来た。
どうやらこの後は、なかなかの力仕事になりそうな感じ。

「姫君の代わりに、私が力を貸そう」
「え、友雅さん!?どうしてここにいるんですか!」
突然現れた友雅にびっくりして、あかねは雪玉に手を出そうとしたのを止めた。
「詳しい話は後でね。白花のような手を冷やしてはいけないよ」
あかねを子どもたちのところで待機させ、男たちが雪玉の前に集まる。
これからおそらく二つの雪玉を、縦に積み重ねるのだろう。
「今回は随分大きく作ったねえ」
「でかい方が雪だるまは存在感あるしな。融けにくいしさ」
雪だるまというのが、この像の名称なのだろうか。
しかし、大きい雪玉は意外とずっしり重い。ふんわりした雪の印象とは違って、密度を高めて固められたせいだ。
頼久と友雅で何とか雪玉を持ち上げ、天真と詩紋が支えながら一回り大きい雪玉の上にバランス良く配置する。
上手く積み上げられると、子どもたちの拍手と歓声が上がった。
「よし!雪だるまの基本形出来た!。顔と飾りは自由に付けて良いぞー」
戻って来た子どもたちはそれぞれに小石や枯れ枝を抱え、思い思いに飾り付けを始めた。

「雪だるま、か。ところでこれは、どういう謂れがあるものなんだい?」
「謂れ?謂れ…って言うと」
詩紋と天真に視線を向けたが、彼らも真相は全く分からない。
雪だるまにはどんな意味があるのか?と尋ねられたら、答えようがなかった。
昔から日本で作られていた雪の人形?
「でも、海外でもあるよ。スノーマンとか絵本とかあるじゃない」
「そうか、そうだよねえ…」
なら、日本固有の伝統でもないのか。
姿形に差はあれど、雪だるま的なものは世界各地に存在しているのかも。
「あちこちにあるものだから、まじないに関するものなのかと泰明殿に聞いてしまったよ」
「いやいや、単に子どもの雪遊びみたいなもんでさ」
現代人の天真たちにとって、雪だるまはそういうもの。
深い意味など全くなく、積もった雪を使って遊ぶ方法のひとつだ。
「雪合戦してる奴はいるんだけど、他にはないみたいでさ。じゃあ雪だるま作ってみるかって」
小さい雪玉なら女の子でも作れるし、人形遊びの感覚で簡単に出来るのが良かったのか、気付いたらかなりの雪だるまが完成していた。
遅かれ早かれ融けてなくなるものだから、その辺りに飾っておいても邪魔にはならないだろう。
それでも子どもたちはもっと作りたがるので、今度は大きな雪だるまをみんなで作ろうということになったらしい。
成る程、子どもたちが作ったものに邪気などあるわけがない。
どことなくほのぼのした風貌の雪だるまは、彼らの純粋な楽しさで作られたものなのだ。
「君たちの世界は、色々な雪遊びがあるのだね。他にどんなものがあるのだい?」
雪だるまに雪合戦は基本中の基本。スキーやスノボのウインタースポーツも、雪遊びのひとつと言えなくもない。
「スノボか。それっぽい板があれば出来そうな気がするけど、さすがに本物の雪山じゃないと無理だよな」
「じゃあソリ遊びは?小さい子が遊ぶくらいの雪山を作ってみるのはどう?」
「ああ、それなら出来るかもな。屋根から払った雪も結構あるしな」
一昨日長屋の屋根から下ろした雪が、どっさりと裏の方に残っている。
滑り台の高さくらいの山を作って、使い古しのムシロなどを使って滑れば十分楽しめるかも。
「よーし、もう一仕事だな」
天真はそう言うと、シャベルを皆に1本ずつ手渡した。
家の修理に使った板の余りと、落ちていた木の枝を組み合わせた手作りの雪かきシャベル。材料は有り合わせなのに、結構出来上がりはそれっぽい。
「意外に器用だよね…天真先輩って」
サバイバルに強いというか、ライフハック能力に長けているというか。
適応力と発想力と行動力が半端ないのだ。心底これは羨ましい。

「ほい、あかねの代わりにやってくれるんだろ?」
「やれやれ…。姫君に無茶はさせられないから仕方ないね」
ため息をこぼしつつも、天真から差し出されたシャベルを友雅は受け取った。
彼女の前でだらけた態度を見せるわけには…という、意識くらいは備わっている。



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Megumi,Ka

suga