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Trouble in Paradise!!
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| 第37話 (4) |
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次の日の朝早く、あかねを連れて友雅は里山へと下りた。
宿屋で一晩を過ごしていた従者たちは、いつ帰路に着いても良いように、既に牛車の用意を済ませている。
「足元に気をつけて、そっと上がるようにね。つまづいたら、袿がはだけてしまうから。」
「は、はい、気をつけます…」
おそるおそる緊張しながら、あかねは牛車に乗り込んだ。
「夕べ、この人たちに聞いたよ。あんたが噂の少将様なんだってねえ」
宿屋の主人が、友雅たちの姿を見つけてやって来た。
どうやら、こんな山近くに住む者たちにも、自分たちの噂は広まっているらしい。
主人は車の中にいるあかねを覗き込みながら、人当たりの良い顔つきで笑いながら言う。
「こちらがあんたのお姫さんかあ。ま、話は色々聞いたから、何かあったときゃ昔なじみってことにしといてやるよ。」
「ふふ…それは有り難いね。これからも、二人きりで忍びに来るだろうから。その時は、よろしく頼むよ。」
もう、あまり心配するような事はないだろうが、ここはいろいろな意味で、二人にとって想い出深い大切な場所だ。
町からは遠いが、今後も大切にしていきたい、そんな土地だ。
「さ、我が家に戻ろう。」
友雅は車に乗り込み、まだぼんやり気味の彼女を抱きしめて、車を出発させた。
君がこれから、生きて行く場所へ戻ろう。
ずっと、この日を待ちこがれていたのだからね。
コツコツと牛車は山を下りて行く。
向こうに着くのは……昼を過ぎた頃になるだろう。
+++++
「あかね、眠るなら部屋でゆっくりお休み。」
肩を軽く揺さぶられて目を開けると、友雅の腕の中にいた。
行く時は結構時間が掛かったと思われた旅路も、目が覚めたらあっという間。
既に車は、四条の彼の屋敷に着いていた。
「君の部屋はちゃんと用意してあるし。いろいろ…疲れてるだろう?好きなだけ休みなさい。」
「あ…は…い」
彼の言う"いろいろ"の意味を察知し、かあっと赤くなってあかねは顔を隠した。
あかねを抱いて屋敷に向かおうとする、その時。
「おや、これはまた何という偶然」
目の前からやって来たのは、あの晃李だ。それと、確か彼の友人たち。
名前は覚えていないが、同じ学問分野の者たちだったか。
彼らは二人の姿を見つけると、意気揚々に近付いて来た。
「こんなところで会うとは、珍しいね。私に用事でもあったのかな?」
「そりゃあもう。実は昨日から、少将殿と姫君がついに婚姻を結ばれたとの噂で持ち切りで。」
既にそんな話が、世間には広まっているのか?
昨日の今日のことじゃないか。
「真相はどうかと父も気になっていたようで、ならばお祝いのお言葉でも…と伺ったのですが、どうやら本当におめでたいご様子で。」
「まあ、見ての通りだよ。想い出の丹波で二人の夜を楽しんで、今まさに帰って来たところだ。」
友雅が答えると、若い彼らは一様に沸いた。
「とにかく、私の姫はお疲れなのでね。今日はこれで失礼してもらえるかな?」
「ええ、それは勿論。いや、本当におめでたい。お二人にご多幸がありますよう、皆お祈りしておりますよ。」
そんなことを言い残して、彼らはそそくさと屋敷の前を通り過ぎて行った。
晃李達くらいの年頃の男は、誰でも他人の恋にも興味津々だ。
その恋を自分に照らし合わせて、理想の女性をあれこれと描くのだろう。
「彼らも私みたいに、理想の姫君に巡り会えると良いねえ」
「り、理想って…それ」
まだ顔の赤いあかねを抱いて、震える唇にキスを数回。
「中に入ろうか。私の…理想の姫君殿。」
とろけるように甘い甘い唇と、抱きかかえてくれる胸に身を預け、夢見心地のまま屋敷の入口をくぐる。
まるでそれは……新居に運ばれる新婦そのもの。
あ、もう…どうしよう。
こんなに幸せな気分、私…どうしよう…怖いくらい。
手の届かない恋だと思っていたのは、遠い昔のことだけれど。
それがこんな…幸せのかたちになって叶うなんて。
友雅が、手をぎゅっと握ってくれる。
そして…深いその瞳で自分だけを見つめてくれて。
「…あかね…」
名前を呼ぶ声。神子の名ではなく、本当の名前を…呼んでくれる声が耳に響く。
彼のすべてを…独り占めして良いなんて、幸せすぎて…おかしくなりそう。
夕べのように目を閉じて、ほんの少しだけ唇を前に突き出して。
友雅の歩みが一旦止まって、重なるぬくもりを待っていた………時。
「お〜ま〜え〜ら〜…午前様どころか、翌日の午後様か〜……!!!」
入口の前で仁王立ちしていたのは、天真。
そして、後ろに隠れるように立っている詩紋。
「おや、どうしたんだい?ここは私と姫君の愛の巣だよ?君たちの住まいではないと思うがね?」
「おまえな〜!あんな騒ぎを放ったらかして、さっさとトンズラしやがって!!」
血相を変えて着いて来る天真にも、一切惑わされる事も無く、友雅はあかねを抱いたまま廊下を歩いて行く。
初夏の庭は、橘の花も終えて華やかさから遠ざかってしまったが、自分だけの花がこうして腕の中にいてくれるだけで、世の中は春の陽気が漂っているかのようだ。
「おい、あかね!取り敢えず一旦向こうに帰ろうぜ。あのあと、藤姫がまたぶっ倒れて大変だったんだぞ!」
「えっ…ホント!?友雅さん、じゃあ…私…」
それを聞いて、あかねの表情が変わった。
このまま彼と甘い時間に浸るのも惹かれるが、藤姫の様子も心配だ。せめて一目くらい、顔を見ないと…。
すると、不安そうな彼女の顔を見た詩紋が、天真の後ろから顔を出した。
「あ、あかねちゃん心配しないで良いよ。今はもう藤姫も元気になってるよ。」
「ホント…?ホントに大丈夫なの?どこか具合悪くなった…の?」
「ううん、ただ…ちょっとびっくりして気を失っちゃっただけだから…」
それを聞くと、はあ…とあかねは溜息をついた。
びっくりさせちゃったよねえ…藤姫には。それに、みんなにも…
驚いて倒れるの、当然だよね…。
「今日は取り敢えずゆっくり休んで、明日にでも藤姫殿に会いに行こう。向こうから持ち運ぶものも、あるだろうしね。」
「…はい、そうですね…」
友雅に言われて、あかねはうなづいた。
ちゃんと話して分かってもらおう。
本当に…ずっと好きだったんだってこと。
「そういうわけでね、彼女はかなり疲れているんだ。ゆっくり休ませてあげたいから、悪いけれど今日は退散してもらえるかな?」
以前もあかねの為に提供していた、屋敷の奥の部屋。
用意させてあった床の上にあかねを下ろし、友雅は着いて来た二人の方を振り向いて、そう言った。
「ちょっとくらい、連れて行けねえのかよ。すぐ近くじゃん」
「まあ、そうしたいのだけれど…私は良いけれど、彼女の疲労は並大抵のものじゃないだろうし。」
「とっ…友雅さんっ!」
あかねの顔の色が、さーっと一気に赤くなる。
「慣れていないことで、さぞかし緊張と疲労が伴ってお疲れだろう。その辺り、察してくれないか?」
天真たちの顔を見て、友雅はこれ以上ないような満面の笑みを見せる。
慣れていないこと・疲れること・緊張すること+逃避行・山の庵・朝まで二人きり=……その答えは?
ちなみに、数学の成績は全く酷くて目も当てられない天真だが、こういう方程式の計算には異常に早い。
「おっ、おまえっ、つ、つ、ついに…や、やらかしたなーーーーーー!!!」
「うん?何をだい?」
「しっ、しらばっくれんなっ!その、そ、その……ほら、その、アレ……!」
首根っこを掴んで怒鳴り散らしているくせに、天真の顔はあかねに負けず劣らず真っ赤だ。
血気盛んな割に、意外に純情なんだねえ…と思うと、笑いが堪えられない。
「殿、姫様のお着替えをご用意致しました。」
侍女が、あかねの為に仕立てていた衣を持って、部屋にやって来た。
「ああ…よろしく頼む。それじゃ、悪いけど二人とも出て行ってもらおうか。」
自分だけの姫君の柔肌を、他の男に見せられるか。
軽く友雅が肩を叩くと、それだけで天真は掴んだ腕を離してしまった。
一応武官の彼に、こういう力任せはあまり効かない。
二人の背中を押して廊下に出してから、自分は部屋に留まろうと思ったのだが、あっさり侍女に窘められた。
いくら夫婦であっても、こういう時は外に出るようにと。
そこのところは、手厳しい侍女頭である。
「仕方ない。じゃ、着替えたらゆっくりお休み。」
「はい、ありがとうございます…。天真くんも詩紋くんも、ありがと。明日、ちゃんと行くから、そう藤姫にも言っておいて。」
「うん。分かった。じゃあ……」
と、詩紋が言いかけている途中で、友雅はあかねのそばで膝を折ると、人目を気にせず彼女の唇を奪う。
「おまえの頭の中には、恥ずかしいとかって感情がねえのかーーーーーっっ!!!」
天真の叫び声が、屋敷中に響き渡る。
「生憎私は、恥ずかしさとか照れよりも、あかねへの気持ちの方が抑えきれないものでね。」
「…お、おまえ、今、"あかね"って、"あかね"って言ったぁっ!!」
これまでずっと"神子殿"と呼んでいたくせに!いつ、いつから名前で呼ぶようになったんだ!?
やはりその…吹っ切れてボーダーラインを越えた(らしい)からか!?
「おやすみ。でも、夜は先に寝てしまわないようにね。」
「ちょっ!な、何言ってる!オイ!コラ!友雅っ!!」
背後でわめき散らしている天真など、完全に無視して、彼はすっかり自分たちだけの世界に浸りっきり。
「ふっ…じゃあね。…………愛してるよ、あ・か・ね」
「んむっ?う…う〜っ!?」
「友雅ああああ!!!」
「とっ、友雅さぁ〜ん!!!」
「殿!お戯れはいい加減になさいませっ!!」
ぺちっ!と侍女が友雅の手を叩いて、ようやく彼は倒れ込んだあかねから離れた。
しかし、それでも彼はいつも通りの笑顔のまま。
「このトラブルメーカーがあ!!」
「ふふっ…確かトラブルメーカーって…問題を起こす者を、君らの世界ではそう言うんだったっけ?」
「おまえだおまえ!おまえそのものだ!!」
彼女たちの世界で通用する、耳に新しい言葉。
それらはいろいろな解釈があり、聞いていると面白い。
「トラブルメーカーに、あと…セクハラ?とか、前にあかねには言われたことがあったねえ」
「セ、セクハラだぁ!?」
いちいちリアクションが大きくて、天真の反応はいつも楽しみだ。
「…でも、まあセクハラとかじゃないと思うよ。別に嫌がらせじゃないから。私はいつも本気だし。」
----------声にならない絶叫と、じたばた暴れる友雅以外の者たち。
「もういい加減になさいませっ!姫様がお休みになれませんでしょうッ!!!」
ついに侍女の雷が落ちて来て、男性群は部屋から追い出された。
「くそぉ…このエロ少将ぉ!」
「また新しい言葉だね。それはどういう意味なんだい?」
「あ、あのっ!それはまたいずれってことで!」
けろっとして、初めて聞く言葉を友雅は尋ねるが、そんなの説明出来るか。
「ふうん…じゃあ、あとであかねに聞いてみようかな」
…やれやれ。
万事上手く行ってハッピーエンド。
恋する二人は、幸せに結ばれました……と、穏やかなエンディングには程遠い。
愛らしい姫君に心を捕らわれた彼。
そんな二人に振り回される、騒々しくて賑やかな日々。
それらにエンドクレジットを付けて、平穏がやって来るのはいつだろうか。
………いや、多分そんな日は……永遠に来ないかも(笑)。
-----THE END-----
(長期に渡るご拝読、どうもありがとうございました!)
※あとがきのご挨拶がありますので、よろしければ先にお進み下さいませ。
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