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Trouble in Paradise!!
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| 第34話 (2) |
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遠く耳を澄ましてみると、入口の方から賑やかな声が聞こえてきた。
さっき出迎えに向かった藤姫の声と、あかねの声が混ざり合う中に、他の誰かの声が加わっている。
「あかねちゃん、帰ってきたんだね…」
詩紋がぽつりと言うと、天真がこちらを見た。
「確かあいつ、友雅と出かけて…たんだよな?今日…」
顔を見合わせてから、声のする方向に目を向けた。
友雅と二人で出かけていた…って、一体どこへ?
もう、京の町を探索する必要もないはずなのに、そんな二人が向かったのはどこなんだ?
「あ、ただいま詩紋くん、天真くん」
戸を開けて入ってきたあかねが、彼らの姿を見つけて声を掛けた。
その後、手に持っていた籠を差し出して、中にぎっしり詰まった杏とスモモの実を見せる。
「ね、これ味見してみて。すごく甘い実ばっかりなの。」
「うわ、たくさん買ったんだねー。」
綺麗に色付いた山ほどの果実は、鼻に近付けるだけで甘い香りがする。
大きさはまちまちだが、彼女の言う通りどれもこれも、丁度良い感じに熟れているみたいだ。
「あとねー、これ。友雅さんのお屋敷の侍女さんたちが、詩紋くんに渡してくれって預かったの。」
葡萄色の巾着の中身は、黒漆に小さな蒔絵の入った小箱。
蓋を開けてみると、こっくりと良い色に煮詰められた杏の甘露煮が入っていた。
「こないだ詩紋くんに教えてもらったから、作ってみたんだって。良い味に出来たから、少しお裾分けにって。」
そういえば彼の屋敷で食事の用意を手伝っていたとき、買ってきた杏が酸っぱすぎると悩んでいる侍女に、甘露煮の作り方を教えてやったのだ。
「丁度良い甘さになっているから、詩紋の口には合うかと思うよ。」
「うん、私も味見させてもらったけど、美味しかったよ。これで応用が利くって喜んでたよ。」
「そっかあ、良かった。ありがとうございます。じゃ、いただきます。」
詩紋はぺこり、と友雅に頭を下げた。
「じゃあおまえ、今日は友雅のところに行ってたのか?」
「えっ?うん、まあちょっと…」
横から天真が尋ねて来て、あかねはどきっとしたが平然と答えて、その場をさっとやり過ごそうと思った。
だが、彼は何だか様子がおかしい。
「何でだよ。別に友雅の家になんか、もう用事ないじゃん。」
「え、えっと…その……あの…っ」
執拗に問いかけを繰り返して来る天真に、少しあかねはたじろいだ。
ちらっと隣にいる詩紋に目をやったが、彼もまた気まずそうな顔をしている。
何だろう。急に天真がこんなに詰め寄ってくるなんて…はじめてだ。
「姫君が我が家に戻って来たから、また話し相手になってもらうために、お連れしたんだよ。」
あかねたちが戸惑っているのに気付き、すぐに友雅が間に入った。
「…お姫さん、おまえんとこに戻って来たのか」
「そう。すべて終わったから、もう安心だしね。それに、あまり彼女と離れていたくはないし。」
友雅がさらりと言ってくれたおかげで、雰囲気はいつものように軽くなった。
いざというときに、おどおどしてちゃ意味がない。
そういう時こそ、堂々と胸を張って誤摩化せるくらいの余裕がなけりゃ…とは思うけれど、なかなかそれは難しいものだ。
「神泉苑での一件で、姫君の役を担って頂いた神子殿にも、ちゃんと御礼を言いたいと言うものだから。」
「そっ…か。」
それきり天真は詰め寄っては来なかったので、ほうっと、あかねと詩紋は胸を撫で下ろした。
あかねと姫君が親しくしているのは、天真も十分に知っているはず。
尤もらしい言い訳だから、これなら疑わないだろう。
「そ、それなら早く…そのお姫さん、紹介しろよなっ」
「ああ、そうだね。出来るだけ早く紹介できるように、同じ女性の神子殿にも手伝ってもらって、何とか彼女を説得させてみるよ。」
ぽん、と友雅はあかねの肩に手を置いて、そう微笑んだ。
詩紋は甘露煮を持って、厨房へ向かった。
初夏らしい一日だったが、甘いものと一緒に飲むのは、やはり渋めの茶が良い。
そう思いながら麦茶の支度に行く、その途中。
「あ、詩紋殿…丁度良いところにいらして下さいました。」
玄関の前を通り過ぎようとした詩紋を、そこにいた侍女が呼び止めた。
何か用事だろうか?と足を止めて振り向くと、イノリの姿がそこにあった。
「イノリくん!?どうかしたの、こんな時間に…」
「あー、その、ちょっと…気になることがあってさ…良いか?」
あかねや藤姫ではなく、イノリは詩紋に話があるらしい。
どうしたんだろう?
もしかして、姉とイクティダールのことで進展があったとか…?
「いや、そーじゃないんだけどさ。ちょっと、外で話しても良いか?」
「うん…良いけど」
イノリの頼みでは断れない。
持っていた甘露煮と茶の用意は侍女に任せて、詩紋は外へ降り立った。
しかしイノリは、自分が来たことは誰にも言わないでくれ、と侍女に念を押してから、二人揃って外へと出た。
「どうしたの?何か大切な話だったら、僕なんかよりあかねちゃんたちに言った方が良いんじゃない?」
土御門家の門を出て、少し離れた外壁の隅に移動した二人だったが、何か言いづらそうにしているイノリの様子に、先に詩紋が声を掛けた。
「天真先輩も藤姫もいるし、今だったら友雅さんもいるから……」
「とっ、友雅がいるのか!?な、何であいつがいるんだ!?」
「何でって…今日、あかねちゃんに付き添って出掛けてたから、送って来てくれて、それで…」
そこまで話を進めて、詩紋はイノリの変化にぎょっとした。
「イ、イノリくん?何か、顔赤いよ?どうかしたの?」
顔というか頬が、まるで朱雀の羽色のように赤く染まっている。
そして彼は、驚いている詩紋の両肩をがしっと掴んで、思い切り目をひんむきながら言う。
「あの、あのさあ詩紋…へ、変なこと聞くけどさあ…。あ、あかねと友雅ってさ、そういう関係じゃねえよなあっ!?」
「は………はあっ!?」
膝がひくついて、慌てて詩紋は壁に寄り掛かった。
「あ、あいつら、その、その…さあ、で、出来てたりなんかしねえよなっ!?」
「どどどどどどど、どうしてそんなこと言うのっ!?あああああ、あるわけないじゃないっ!!とととと、友雅さんにはちゃ、ちゃんとっ…」
「そう、そう!そうだよなっ!そうなんだけど、さあ…」
真剣さを通り越して、どこか我を失っているような表情をしつつ、詩紋の言葉でイノリは自分を落ち着かせようとする。
だが、そんなことはまるっきり出来ていない。
もちろん…詩紋も同じだ。
…天真に続いて、今度はイノリ。どうして今日に限って、立て続けに周囲が過剰反応を示し始めたんだろう。
神泉苑でのことが尾を引いているのは分かるが、偶然に思い出すのも妙だ。
「…イ、イノリくん…何で急にそんなこと思ったのっ!?」
突然やってきてまで、そんな話を始めたイノリ。その理由を詩紋は知りたかった。
+++++
「…ってなことでさ。何かやたら仲良さそうにしててさ…。周りの市の奴らも、二人がそんな調子で出歩いてるの、すっかりお馴染みらしくってさ」
イノリは今日、市で自分が見たことを詩紋に一部始終話した。
同時に、町でのあかねと友雅の評判や噂など、知っている限りの事を打ち明けた。
聞いた詩紋は…背中が冷や汗でびっしょり濡れていた。
「それにその、ほら、あのー……神泉苑でアイツ、あかねに…あんなコトしてたりしたからさぁ…」
回り回って、イノリも天真も最後は神泉苑での事に戻って来る。
それだけ、初めての者にはショッキングだったのだろう……。
周知の詩紋自身も、慣れて見られる光景でもないのだから、彼らはよっぽどだったに違いない。
「そ、それはお芝居!お芝居だって!分かってるじゃないイノリくんってば!」
「ははは、まあ、そ、そうなんだけどさ…」
二人とも自分の笑いが、やけに乾いたように聞こえた。
そのとおり!と相手の言葉に納得しつつ、裏側ではわざと自分を言い聞かせているような気がして。
ぎこちなさの残る、どうも気まずい雰囲気…………。
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