Trouble in Paradise!!

 第33話 (4)
「友雅さーん……」
「どうしたんだい?何かご機嫌斜めのようだね、姫君」
清涼殿からの帰り道。
あかねの表情はムッとしていて、お世辞にも機嫌が良いとは言えない。
「当たり前です!さ、さっきの主上の前での話、一体何なんですかっ!!」
「おや、何か気になった事でもあったかな」
一応しらばっくれて見るが、それで機嫌が直るわけでもなく。
身を乗り出して彼女は、狼狽え気味の大きな瞳で友雅を睨んだ。

「あっ、あるに決まってるじゃないですか!ど、ど、どうしてその……わ、わ、わ…私のっ…」
声がどもって、顔が赤くなって、言いたい事がなかなかはっきりと口に出来ない。
その仕草が少し滑稽にも見えるが、友雅にとってはそれも愛らしく映る。
「どうして君の胸の寸法を知っていたのか、ってこと?」
彼女の代わりに友雅がそう話したとたん、あかねは気恥ずかしくて顔をうつむかせた。

くすくすと笑い声が気になるけれど、顔を上げづらい。
彼は一体、どんな方法で確かめだんだろうか…。
こちらには、まったく見覚えがないのに。
さっきは帝に、随分と咎められていたみたいだったが…。
「いろいろと方法があるんだよ、ということで誤摩化せない?」
「ごっ、誤摩化せるわけがないでしょうーっ!」
とんでもない!手品師か透視でも出来るエスパーじゃあるまいし。
泰明のような力を、友雅が持っているわけもなく…。
もしや、まさか四神の白虎の力を使って?…などと、頭の中ではあらゆる可能性が駆け巡っている。

「ちょっと、こっちにおいで」
「……きゃうっ!い、いきなり何ですかっ!」
急に立ち止まった友雅が、あかねの腕を自分の方へと引き寄せた。
彼女の足元がふらりとよろめき、彼は背後に回ってぎゅっと抱きしめる、
「実は、コレが方法だったりして…ね。」
「ええ!?」
びっくりしてあかねは、友雅の顔を見上げる。
「これまで、何度こうして君を抱きしめて来たと思う?こうしていれば、何となく分かるものでね…」
「うそっ!うそでしょっ!」
「確信はないけれも、まあ大体の雰囲気は。それに、たまに手が触れたり、腕にぶつかったりしたらね」
「さっ…触ったんですかーーーーーーーっ!!」
いつ!?いつ触られた!?いつ?どこで?どんな状況で?ど、どんな風に…!?
思い出そうにも、脳内がメチャクチャなあかねには、何ひとつマトモに記憶を思い起こせるわけがない。

「不可抗力だよ、ものの弾み」
「絶対嘘っ!絶対わざとでしょうっ!」
「姫君に信じてもらえないとは、悲しいねえ…」
動転しているあかねを抱きしめながらも、友雅はいつもと変わらない笑顔を浮かべている。
ものの弾み。確かにそれは間違いないし、決して意図的なことではない。
ない…けれども、それを"幸運"と思ったりしたことは、やはり黙っておいた方が良いか。

「まあ、他にも知る方法は、いろいろあるけれどもね。」
「なっ…何なんですか!!ほ、他に何があるんですかあ!!」
「それは秘密。」
「ひ、秘密って!ちょっと友雅さんっ!!」
細くて小さな肩や手足。抱きしめるごとに伝わる暖かい柔らかな感触。
宮中にいる事など全く構わず、友雅はあかねを強くその腕で抱きしめると、そのたび慌てふためく彼女の様子を楽しむ。

「ふふ…良いじゃないか。大切な婚儀の時に胸が苦しくては、息も出来なくなってしまうよ?」
「とっ、友雅さんが思ってるほど、立派じゃないですよっ!」
たかだかこうして、戯れるように抱きすくめられたくらいで、スリーサイズを正確に分かってたまるもんか!とあかねは思った。
彼が言うほど…そこはふくよかでもないし!
あくまで平均値(多分)に過ぎないのだから、そう騒がれるとこっちが恥ずかしい。
それよりシリンの方がよっぽど………と、そこまで考えて、情けなくなったのでやめた。
あとせめて2センチか3センチくらい、そこだけ太れれば自慢出来そうなのだが、思い通りに行かないのが世の常。

「謙遜することなどないのにねえ」
「謙遜じゃないですっ!期待されると困ります!」
腕の中でじたばたしながら、あかねは猛反論してばかりだ。
「…じゃあ、そこまで言うのなら、私の想像がどこまで正確なのか、答え合わせをさせてくれる?」

「☆×★×☆×★×☆×★×」

あかねの思考回路が、一瞬で吹っ飛んだ。

「ひゃーっ!きゃー!いーやー…うぐぐっ!!!!」
「おっと…さすがにここで、そんな大声を出されるとまずいよ」
友雅は、あかねの口を咄嗟に手のひらで塞いだ。
ここは帝のいる内裏の中。
女性の悲鳴など聞こえたら、あっという間に蔵人たちが武器やら持って駆け付けて来るだろう。
そこに左近衛府の少将がいたら…一大事だ。

はあはあ言って息を乱しながら、あかねはようやく彼の手を払い除けた。
「…と、友雅さん!あのですねっ!私たちの世界では、そういうのをセクハラって言うんですよっ!」
「ふうん…。で、それはどういう意味なの?」
「それはその…えーと…」
セクハラ…。正確にはセクシャルハラスメントと言って、つまり……。
「い、いやらしいことをする事ですよっ!ひ、卑猥な…こととかっ!」
「それって、具体的にどういうことを?」
「あっ、え、え、えっと……」
どこまで説明すれば良いだろう。
正直、あまりに範囲が広いので説明に困るのが現実だ。
ちょっとした言葉でも、場合に寄っては引っかかってしまうし、もちろん身体に触ったりすれば明らかに当てはまる。

……少し考えてみる。これまでのことを、いくつか思い出してみる。
だが、考え出したら切りがなくなった。
彼の場合は、該当することが多すぎて!
「とっ、友雅さんがいつもしてるようなことですーっ!!」
結局そんな説明しか出来なかったが、一番正論ではある。
「うーん…じゃあ、どうすればそれを、愛情表現と思ってもらえるんだい?」
愛情表現?
ぽかんとしているあかねの頬を、友雅の手がゆっくりとなぞる。
「愛しいから、少しでも近づきたくて触れたいだけなのにね。その気持ちは、分かってもらえない?」
「そんなっ…そんなこと言われてもっ…!」
互いの顔の距離が、どんどん狭まっていく。
呼吸が触れるほどの近さで、あかねを吸い込むように友雅の瞳が彼女の姿を映す。


「と〜も〜ま〜さ〜……」
背後から聞こえた声に、ぎくりと一瞬肩をこわばらせた友雅は、そうっとゆっくり後ろを振り向く。
するとそこには、声の主が今にも怒鳴りそうな形相で立っていた。
「これは主上、何か火急の用でもお有りでしたか?」
「やかましいっ!せめて見送りに顔を出そうかと、ここまでやって来たと思えば…また神子に悪さをしおってぇ!!」
帝は友雅に突進してゆくと、扇で再び彼の頭をパコッとはり倒した。
しかも、かなり容赦なく。

「神子!くれぐれも注意するのだぞ!嫌ならはり倒しても構わぬからな!」
「は…はあ…」
「お互いの同意の上で、事を進めるのだぞ!我が身を大切にするのだぞっ!?」
「…はあ、分かりました……」


"同意の上"…ね。
どれくらい本気で愛を囁けば、うなずいてくれるかな…私の姫君は。
懸命にあかねに言い聞かせている帝を見ながら、頭を掻きつつ友雅は思った。



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Megumi,Ka

suga