Trouble in Paradise!!

 第31話 (3)
アクラムと対峙しながら、友雅はずっとイクティダールの様子を伺っていた。
彼をこちら側に引き入れようと、知り合いの侍医たちに手を貸してもらいながら、何とか作り上げた特別な媚薬。
渡来した他国の植物や、薬園で育てたものなど、彼らの知識のあらゆるものを組み合わせた薬…。
果たしてどれだけ効能があるか。

前もって実験でもしてみようか、と思ったりもしたが、今更自分にはこんなもの必要ないし。
だからといって彼女に飲ませるなんてことも、出来るわけもない。
毒ではないから害にはならないが、もしも効き目があったなら…多分帝に咎められる結果を招くだろう。
……そんなことになったら、戦いどころじゃなくなってしまうからねえ。
これまで耐えてきた聖人君子の真似事も、きっとあっさり崩れさるにきまってる。
本当は、ちょっと興味もあるけれど…。

そんなことより。
埋めた薬壷は掘り起こされて、跡形もなかった。
ということは…イクティダールは、媚薬を手にしているということになる。
果たして、彼はシリンに渡しただろうか。そこまでは…友雅にも分からない。
もう少し様子を見ていよう。
まだまだ、嗾ける余裕は残されている。



「くだらぬ話をしている暇などない。さっさと片を付けようではないか。」
アクラムが一歩、先に動き出そうとしていた。
だが、そうはさせない。
彼が手を出して来るまえに、こちらはもう少し空気をかき乱す必要がある。
腕の中にいるあかねが、心配そうに見上げているが…大丈夫だ、ここまで何ひとつ計画は外れていない。
そろそろ、本格的に挑発しなくてはいけないタイミングだ。
…それもまた、お楽しみだがね。

「あの世に堕ちて、結ばれるが良い。」
「それは遠慮するよ。私の姫君の輝きは、黄泉の闇には相応しくないのでね。」
あかねの肩を強く抱きしめ、友雅はアクラムをじっと見る。
「黄泉の屍どもに、姫君の姿を見せるなんて勿体無い。堂々とこの世で、皆に見せびらかして自慢する方が、ずっと楽しいさ。」
……ううっ、友雅さん、いくら何でもその台詞、赤面しますっ…。
彼の腕の中で小さくなりながら、あかねは心の中でつぶやいた。

「本当は、おまえの前に連れてきたくはなかったんだがね。姫君が神子殿である限り、仕方がない。」
「フン…我の目に映る神子の姿は、もったいぶるほど優れたものとは言えぬが?」
ん?もしかして今のは…私の容姿のことを言ったの?
しかも、優れていないっていうことは…劣っているということ?
…そりゃ別に、美人でもないしスタイルも良くないけど!
ここに来て、何でそんなこと言われなきゃいけないのよっ。
急に個人攻撃をされたあかねは、少し不機嫌そうにアクラムの方を見た。
その背後で、せせら笑うようにこちらを見るシリンがいる。

「容姿ならば、シリンの方が遥かにマシだとは思うがな。」
アクラムの言葉を聞いた彼女は、とたんにポッと頬を染めて恥じらうように腰をくねらせる。
それを馬鹿にするように、隣でセフルが見ていた。

「おまえなどに分かってもらわなくても、結構だ。姫君の良さは、私だけが知っていれば良いんだよ。」
友雅はきっぱりと、迷わずにそう答えた------次の瞬間。


「!!!!!!!!!!!!!!」


後ろに控えていた7人が、一瞬硬直した(正確には泰明以外の6人)。
何もかも知っている詩紋までもが、飛び上がりそうになって…そして皆、一斉に顔色が赤くなる。

あかねが友雅の相手役に扮する、とは分かっている。
今は彼女こそが、友雅の最愛の姫君である…という設定なのだ。
これまでどんな刺激的な台詞を吐こうと、それは彼が相手を撹乱させる手口の一つであって、別にあかねに囁いているわけじゃないのだ、と言い聞かせて来た。
だが!いくら何でも…いくら何でも…これは!
本当にキスをするなんて、聞いていない!!
唇を重ねる振り、じゃない。
目の前の友雅は…その腕にあかねを抱きしめて、しっかりとその唇を彼女の唇に重ねている。

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待っ……!!!」
パニックに陥った天真が乗り出そうとするのを、泰明が後ろから首根っこを掴んで引き止めた。
邪魔をするな。計画通りに進んでいるのを、ここで駄目にするつもりか?」
「け、計画って!そうは言うけどな!キ、キスしてんだぞぉ!?しかも、マジでだぞ!?真似事じゃねえんだぞっ!?」
「鬼の見ている前で、真似事が通用するわけがないだろう。仕方のないことだ。」
「し、仕方がないと言いましてもっ……その、あのっ……」
永泉までもが、顔を赤くしてしどろもどろしている。

「ああ〜友雅さん、やっぱりやり放題なんだから〜っ!」
真っ赤な顔を両手で隠して、詩紋は思わずつぶやく。
「お、おいっ詩紋!あ、あかねにあんなことして良いのかよっ!」
「僕に聞かないでよ〜!イノリくん〜!」
この状況でフォローの言葉なんて、思い付かない。

「おまえたち、気が乱れ過ぎだ。少しは冷静になれ。」
泰明が冷ややかに睨みを向ける。
しかし…この状況で冷静にいろというのが無理じゃないのか…。
「鷹通も頼久も、おまえたちが狼狽えてどうする」
「で、ですが…その…」
こんな状態で、どうしていいのやら。
まさかこんなことになるとは…。
神子である彼女には、手を出さないと言っていたのに。
それとも、手慣れた彼にとっては、これくらい戯言に過ぎないのだろうか。
…しかしあかねの方は…そうも行くまい。

「神子は平気だ。慣れている。」
「えっ?」
あっさりと答えた泰明の顔を、鷹通たちが覗き込んだ。
「や、泰明殿…今、何とおっしゃいましたか!?」
慣れていると言ったか?それは…友雅ではなく、あかねのことで?
「突然の接吻で驚いているだけだ。行為自体にはさほど狼狽えてはおらん。おまえたちも、少しは落ち着け。」
そんなことを言われても…!
と、思っているうちに、友雅の唇はあかねの唇から離れていた。


「姫君の素晴らしさは、私が知っていればいい。おまえの目にどう映ろうと、彼女に勝るものなどありはしないんだよ。」
「童っぱ程度の娘で満足しているとは、程度が知れるというものだな。」
アクラムの笑い声が聞こえ、それまでぽわーっとしていたあかねだったが、また少し奮い立って来た。
……ううう…ど、どうせ子供ですよ!
シリンみたいなボリューム満点じゃないですよーだ!
でも、これからまた、ちょっとは成長する…かもしれないし…と期待だけはしてるんだからっ!
…って、この緊迫した状況下で何を標的に怒ってんの、ワタシ。
我に返って空しくなりつつも、彼の腕の中であかねはそんなことを考える。

すると、友雅はあかねの肩を強く抱いたまま、アクラムを真っ直ぐに睨む。
「私はね、彼女の全てを知っている。外見から見えるものなんて…結構宛てにならないものなんだよ。ね、姫君?」
「は…あ?」
一体どういう意味で、そんなことを言ってるんだろう…。
果たしてこれから、どんな方向へ話は転がって行くんだ?
せめて想定内の範囲で動いてもらわねば、こちらの相づちのタイミングにも困る。

だが、その突拍子さで相手を惑わせるのも、友雅の策。
まあ…半分くらいは、その展開を楽しむ余裕も兼ね備えているが。




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Megumi,Ka

suga