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Trouble in Paradise!!
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| 第31話 (2) |
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「ああ、今思い出してみただけでも、君の肌の香りが蘇って来るよ。何故、君はそんなに香しい肌をしてるんだろうね…。もしかして、君の身体は媚薬で出来ているのかい?」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ?」
肯定しろって…どんなことを言えば良いって言うんだ!?
はい、そうですとか、そんな簡単なことで済ませられる状況じゃないだろうっ!
何か答えを考えなくちゃ…と思うけれど、気が動転して思い付かない。
挙げ句の果てに、彼の唇の悪戯はまた続行中で、頬がくすぐったくてたまらない。
「しょ、少々…お戯れが過ぎるのではっ…」
こめかみを掻きながら、鷹通は友雅の行動を眺めつつ顔を赤くした。
ただの芝居とは言っても、あんな風に抱きしめながら頬に唇を寄せたりして。
しかもその眼差しは、偽り事とは思えぬほど甘美な面影。
女性なら、簡単に口説き落とされてしまいそうな。
「ってかさ、オレは聞いてて恥ずかしくなってきたぞ…」
隣では天真が、がしがしと首を掻きながらぼやいている。
あんな台詞、友雅なら言い慣れているのだろう。
艶かしい情景を思い起こさせる言葉が、彼の口からすらすらと出て来る。
頼久は無駄に咳払いをし、イノリと永泉は顔を赤くしてうつむいている。
そして泰明は-------相変わらずの無表情。
「相手の動きから目を離すな。気を乱せば危険を伴う。」
泰明は全く動じず、向こう側にいる鬼達の姿から視線を一時も反らさなかった。
だが、その鬼たちに目を向けると、否応でもあかねと友雅の抱き合う姿が目に入って来てしまい、鷹通たちは気まずくて仕方がない。
「そこの、お館殿の後ろでさっき頬を染めている、いばらの姫君。君も、私の姫君の香りを調べてみたらどうだい?」
友雅の声に、シリンはぎくりと身体を強張らせた。
「いつも、そんな風に頬を赤らめていれば、少しは可愛げもあるのにねえ。悪かったね、また羨ましがらせてしまって。」
「ば、馬鹿にするんじゃないよ!誰がおまえたちみたいなのを…っ」
言い返そうと睨みを決めようとしたが、友雅は何も言わずに、ニヤニヤとこちらを見ている。
その笑みがまた、シリンにとっては忌々しくて癇に障った。
「おまえの、その笑いが一番ムカつくんだよ!見下げたような顔をしてっ!」
「-----シリン、やかましいぞ。」
思わずそこらの石でも掴んで、友雅に投げつけそうになったシリンだったが、アクラムの一声でぐっと息を飲み込んだ。
最愛のご主人様には背かないということか。コレだけ見ていれば可愛いものだが。
命を捨てろと言えば、きっと彼女なら喜んで犠牲になる。
昔はそんなことを友雅も考えたりしたが……今はそれよりも、我が身を慈しんでくれる彼女のためにも、生き続けていたい気持ちが強い。
そして、二人で新しい世界を見て行く方が、ずっと楽しいと思うからだ。
再び口をつぐんで、アクラムの後ろに立ったシリンを、イクティダールは冷静に凝視していた。
彼の力になろうと、女という自分を盾にすることも厭わない、そんな女だ。
それもこれも、彼の…アクラムのそばにいたいがため。
彼に寄り添い生きたいからこそ、認めてもらいたいという願い。一途故の無鉄砲。
『そんな彼女の気持ちを、君だって痛いほど分かっているんだろう?』
あの夜、友雅はイクティダールに、そんなことを言った。
+++++
「君だって、道ならぬ恋に心を痛めているんだろう?」
鬼である自分といれば、彼女は周囲から疎遠にされて孤立する。
そして、鬼と恋仲だと陰口を叩かれ、侘しい生活を余儀なくされる。
彼女のためにも、身を引いた方が良いのかと思いながらも、愛しさが募り会わずにはいられない。
「鬼であることに、誰もが嫌悪感を抱かないような世になれば…君だって彼女と、堂々と愛し合えるんだよ。そんな世を、手に入れたくはないかい?」
「そんな、簡単なものではない。我らと京の者たちの確執は…」
「確かに容易くはないよ。でもね、きっかけを作ることは出来る。例えば、君の想い人の弟のイノリ…の、対にいる地の朱雀を思い浮かべてごらん。」
京に来た頃は、彼もあの容姿で散々辛い想いをした。
けれど、詩紋が自分から怖がらずに人と接していくうちに、今ではあの金色の髪や青い目を隠さずにいても、逃げる者もいないし普通に接してくれている。
少しずつ、第一段階の壁が溶けようとしている。
「あとは君ら次第だよ。君らが普通に接して行けば、いずれは君と彼女の恋を咎める者もいなくなるよ。」
そうすれば、自由に愛し合える。心を通わせた、ただ一人の人と。
「そうしたいと思いつつ、お館様のご機嫌が気になるかい?」
黙ったまま、何か考えているイクティダールに向かって、友雅は言った。
「彼を裏切ることへの嫌悪感かい?義理堅い男だね…君は。」
鬼じゃなくとも、そんなに誠実な人間は珍しいよ、とイクティダールを見て彼は笑った。
「裏切るのではなくて、お館様にも恩返しになる計画だと思うよ、私の話は。」
「恩返しだと?」
アクラムを倒すことが、神子と八葉に嫁せられた役目ではないのか?
友雅は…この男は、一体何を考えている?
「もしも君が、自分の恋を実らせたいと思い、それと同時にお館様を思っているのであれば…明日の夕方、神泉苑の橋の袂を掘り起こしてごらん。」
そこに、小さな壷を埋めておくから、と友雅は言った。
「それを君は、シリンに使わせれば良い。彼女も君からのものだと言えば、信用してくれるはずだからね。」
多くの侍医たちに話を聞いて、調合してもらった薬だと言う。
非合法だから、どこまで効き目があるか分からないが、シリンが集めて作ったものよりは、効能は高いのではないかと友雅は話す。
「元来の効き目はなくとも、少しは意識を麻痺させることは出来るはずだ。そこを私たちは狙う…と。」
「…お館様を倒すための、手を貸す事は私には出来ん。」
これに関しては、イクティダールはきっぱりと答えた。
例えどんなことがあっても、アクラムが狙われているのを見過ごすことなど出来ない、と。
「まあまあ、狙うとしても傷付けるという意味じゃないよ。」
言い切った彼を宥めるように、友雅は言った。
「君らのお館様が、鬼としてではなく一人の男として、幸せに生きて行くための力を与えてやるだけだよ。」
一人の男としての幸せ…?
「恋を知らずに人生を終えるなんて、あまりにも不幸だと思わないか?」
辛い境遇であるにもかかわらず、かけがえのない女性を見つけて愛し合えたことを、君は不幸だと思っているか?
その人に巡り会えたことを、不幸せだと思っているか?
「私は、そう思っていないよ。例え私たちの立場が、公に出来ない関係であったとしてもね。」
いつかそれを覆せる日が来ると、信じているから。
何よりも、二人で生きる幸せの日々を手にしたいから…そのためなら、どんな手だって使ってみせる。
「君ならば、分かると思うけどね、私の気持ちが。」
間違いなく友雅は、何かしら企んでいる。
それは果たして、真実か…それとも、こちらを惑わせる作戦か。
騙すとか裏切るとか、そういう気配は彼からは感じられない。
しかし相手は敵だ。それを信じても良いのか?
そして、もしも本当に彼の言う通りにすれば……自分の未来に光は差し込むのか?
「最終的には…どうするか君次第だ。答えは君に任せるよ。」
彼は最後にそう言って、夜の内裏へ再び消えて行った。
+++++
神泉苑で橋の袂を掘り起こすと、彼が言った通り、小さな薬壷が埋められていた。
その中には薬剤の玉と、小さな紙が一枚。
服用方法と、効能について簡単に書き添えられていた。
イクティダールはそれを持ち帰ったが、しばらくどうしようかと考えていた。
本当に使えるものなのか。
使えば…何もかもが、上手く治まるのか。
------『君はイノリの姉君と、シリンはお館様と、そして私は…神子殿と。三組が見事に恋の花を咲かせられるというわけだ。万事解決じゃないか。』
手のひらの中で、ぎゅっと薬壷を何度も握りしめた。
もしも彼女のそばにいることが出来たら、身体が治るまで看病してやれるだろう。
想いは決まっている。彼女のそばにいたい。
咎められることなく…ずっと彼女と生きたい。
それが叶うのならば……。
誰も傷つかずに、その想いを叶えることが出来るのならば。
そして、彼が出した答えは…。
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