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Trouble in Paradise!!
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| 第31話 (1) |
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今朝方はあんなに澄んだ色をしてた空も、見上げてみれば厚い雲が風に乗り、ゆっくりと範囲を広げていた。
太陽は雲に遮られはじめ、まだ午前中であるにも関わらず薄暗い。
風で波打つ広大な池の水面に、何重にも輪が広がる。
「……ようやくご登場か。先にそちらが指定したにも関わらず、遅れて来るなんて良いご身分だね?」
一歩前に出た友雅がそう言うと、アクラムは鼻であしらうように軽く笑った。
「フン…今日この世の終わりを迎えるおまえたちに、少しでも残りの時間を長く与えてやろうとしただけだが。」
「へえ?随分と気が利くじゃないか。ご親切なことだ。」
友雅とアクラムは、互いに思惑を探りながら、目を逸らさず向かい合っている。
彼らの背後には、それぞれの腹心の仲間達が揃って状況を見守っていた。
「……余裕綽々と言ったところか?」
「別に、緊張したり恐れたりするようなことは、私には何もないのでね」
今更ここに来て、慌てても仕方がない。
すべて作戦は整っている。あらゆる可能性に対して、手を打ったはずだ。
意志を持つ者に関しては、本人の考えに委ねるしかないが、上手く誘導すればどうにかなる。
背後にふと視線を向け、鷹通たちの表情を伺う。
大丈夫、彼らは良い意味で緊張を持っている。
仮面の奥に隠れた冷ややかな目が、あかねに向けられた。
「神子も、哀れなものだな。己の力の限度も知らず、良い気になって我が身を滅ぼす男と最期を共にするとは。」
皮肉を込めて歪む唇は、二人の姿を不敵な笑みで捕らえている。
「おまえも、そんな男を選んで破滅に身を投じる、愚かな女ということか」
「…と、友雅さんはそんな人じゃ…!」
無意識のうちに、一歩踏み出しかけたあかねの横から腕が伸びた。
「本当につまらない生き物だねえ…。同じ男として、哀れだと思うよ。」
友雅の腕は、まるであかねを守る結界のように立ちはだかり、否応なしに彼女を自分の背後へと退かせた。
「こうして最愛の姫君と最期を共に出来るのなら、私は愚か者で結構だよ。」
彼がそう答えると、あかねが友雅の袖にしがみつく。
アクラムの様子を伺うが…まだ何ひとつ乱れた様子はない。
そして彼の後ろにいるシリン達…。
"神子殿には、シリンの様子に気を配っていてもらおう。"
話し合いの中で友雅は、あかねにシリンの見張りを頼んだ。
同じ女性の方が、感情の変化を見透かしやすいだろうから、とのことだったが…彼女はこちらを睨みつつ、アクラムの背後にぴたりと付いている。
それと同じ視野に、イクティダールの姿が入って来る。
彼はシリンたちとは違って、冷静な面持ちでその場に佇んでいた。
イクティダールに関しては、それほど警戒しなくて良いと言ったけれど、多分イノリが目を凝らしているはずだ。
…本当にチャンスが訪れるのだろうか…。それは、いつだ?
少し風が出て来て、さわさわと苑内の若草を靡かせている。
「ならば、最期は情けをかけてやろう。二人で共に、息絶えるが良い。せいぜいあの世で戯れろ。」
アクラムの高笑いが、苑内に響き渡った。
じっとしていられずに、拳を握りしめて歯を食いしばる天真とイノリ。
頼久は彼らに冷静を正そうと肩を叩いたが、彼もまたアクラムたちへの憎悪が膨らみ始めていた。
「早とちりをするな。誰が今すぐ、あの世へ行きたいなんて言った?」
友雅の声が、アクラムの笑い声をぴたりと止めた。
「私たちはこれから、永い時を愛し合って行くんだよ。私たちの最期は…遥か先のことだ。」
「我々の前から、無事に立ち去れると思っているのか?」
「当然だろう。おまえたちの相手などしていられないほど、私たちは忙しいんだ。姫君との婚儀のこともあるしね。」
あかねの肩を抱き寄せて、さらりと友雅は答えた。
「つくづく愚かな男だな。夫婦となって何になる?男と女の間に、欲の消化の他に何の意味があるという?」
吐き捨てるような嘲笑で、アクラムは友雅の言葉を踏み潰そうとした。
だが、彼がそんな態度を見せてくることくらい、友雅には既に分かっていたこと。
「…それも知らないとはね。敵ながら、ますます可哀想な男に思えて来たよ。」
友雅はわざと大きく溜息をつくと、しがみつくあかねの背中に手を回し、腕に抱えるようにして前に引き寄せた。
そして、彼女の細い顎に指を添えて、瞳の距離をぐっと近付ける。
「想い慕い合う心があるからこそ、抱きしめ合うたびに幸せを感じるものなのだよ。…ね、姫君?」
「は、はい?何ですか…?」
急に引っ張り出されて、あかねは少し戸惑った。
「行きずりの関係なんて、何て空しいものか。恋をしてみるとね、しみじみそれを感じる。」
「あ、のっ……」
耳元に唇を添えて、くすぐるように彼は囁く、
「……オイ、大丈夫なのかよ、あんなこと言っててさあー」
後ろに控えている八葉達は、言われた通りに友雅とあかねの様子を黙って見ていたが、今になってどことなく不安になってきた。
それはアクラムたちの出方ではなく、むしろこちらの…友雅のことだ。
「オレ、どー考えてもアイツが女口説いてるようにしか見えないんだけど」
コソコソとイノリが詩紋に耳打ちする。
「あ、ははは…と、友雅さんの言うことだからねっ…」
詩紋は乾いた笑いで答えた。
事実を知っていれば微笑ましくもあるが、何も知らない他の者にとっては、さぞかしむずかゆくてたまらないんじゃないだろうか。
まさか彼の台詞が、本気で言っていることだなんて思っても見ないだろうし。
……あまり、やりすぎないで下さいね〜友雅さん〜!。
僕、フォローするの大変ですから〜!。
そんな祈りを捧げる詩紋の心も知らず、友雅は更にプランを進めて行く。
「馬鹿馬鹿しい戯言も、大概にしておいた方が良いぞ。」
「戯言だなんて、とんでもない。現に私はこうして、姫君を腕に抱いているだけでも幸せなのだよ?」
そっとあかねの頬に唇で触れ、流すような視線で友雅はアクラムの姿を見る。
本音で言えるだけ、饒舌になってしまいそうだな…と我を振り返りながら思っては、笑いが込み上げるのを必死に止めた。
「それに、心が通じ合う者同士だと、どんな夜でもそれは甘くて艶めいたひとときに変わるんだ。それも知らないのかい?」
…………『知るか、そんなん。』とは、友雅以外の八葉の心の声。
もちろん、友雅には全く伝わっていない。
「目覚めた時に、この腕の中にその人の姿を見つけた時…その時の至福と言ったらないよ。」
唇で頬を弄びながら言うものだから、あかねは顔が熱くて熱くて仕方がない。
そんな、身に覚えのないことを、ぺらぺらと言うものだから恥ずかしくて。
まあ確かに…、嵯峨野での夜は一緒に寝たけれど…。
寝、寝たって言ってもっ、別にそのっ…た、ただ一緒に寝ていただけでっ!
友雅さんが部屋に帰れなかったから、仕方なく部屋に残って…一緒に寝て……。
あ…でも、熱が出て泊めてもらった時も、確か腕枕をしてくれて…、
っていうことは…、
い、一緒に寝、寝、た、確かにひとつの布団で二回も……きゃーーーーーっ!!
あの夜の記憶が鮮明に蘇って、あかねは声にならない絶叫を上げながら友雅にしがみつこうとした。
……が、その身体を受け止めた友雅が、もう一度顔を近付けて来る。
「ね、姫君。昨夜の君は…本当に美しくて甘やかで…溜息が出るようだったよ。」
「は、は、はあ……?」
まるでダンスのパートナーを抱えるように、友雅の手があかねの腰へ。
もう片方の手で、彼女の手を取って握りしめる。
「ふふ…疲れていないかい?」
「え、え、え、え、え……」
……つ、疲れて、ってどういうことですかっ!!
周囲に聞こえないように、声を殺してあかねが問うと、友雅は笑みを浮かべて指先で唇を止める。
…取り合えず、しばらくは私の言う事に肯定する返事をしてくれれば平気だよ。
抱きしめるふりをして、友雅はそう小さく彼女に告げたあと、さっきのように唇を頬へ近付けてくる。
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