Trouble in Paradise!!

 第28話 (1)
結局その日もまた、友雅は土御門家に厄介になる事となった。
皆と相談のあと、明日から都合のついた順に彼の屋敷へ向かうとの話で、取り敢えず必要最低限の話し合いは整った。
それぞれが屋敷へ帰宅する中、彼は夜が明けたらあかねと詩紋、天真、そして頼久を伴って屋敷へ戻る、という話に落ち着いた。
「では、明日から神子様方を、よろしくお願い致します。」
「はいはい。藤姫殿も安心しておいで。悪い結果を思って悩むより、良い結果を思っていた方が気持ちも楽だよ。」
それは簡単なことではないけれど、少しでもそれで気が紛れれば。
必ず事態は好転する。
今はそう信じて、この策を遂行する事が第一だ。


友雅には、夕べと同じ部屋が宛てがわれた。詩紋の部屋のすぐ近くだ。
夕べは何かと落ち着かなかったが、二日目となれば少しは気が楽になったようで、蔀戸に照りつける月明かりにも気付けた。
ふと思い付いて、彼は庭に降りてみようと思った。
杜若と灯籠の明かり、池からの水音を夜風とともに感じるのは、なかなか良い気分である。
「これで、姫君がそばにいてくれたら最高なんだがね…」
向かいの対にある彼女の部屋は、まだ明かりが漏れている。
少しゆっくり話がしたい。
思いつきと成り行きで、ある程度の事を勝手に喋ってしまったから、口裏を合わせて了解を得たい気もした。
おそらくそんなことはなくとも、彼女は否定はしないだろうけれど。

だが、彼女の部屋の前庭では、頼久が一晩中警護の為に待機しているだろう。
蔀と御簾を下ろしていても、すぐ近くに人の気配があっては、思うままの心で話し合う事も憚られる。
自分の屋敷なら、主であることで自由も利くが、ここでは厳しい目が多すぎだ。
「…仕方ないな。今回も彼の手を借りるとするか」
そうつぶやいて友雅は部屋へと戻り、まずは詩紋の部屋へと向かった。

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あかねの部屋を、軽くノックする音が聞こえた。
こういう習慣をするのは、二人だけだ。天真か詩紋…その予想は100%当たった。
「遅くにごめんね、あかねちゃん。もう寝るところだった?」
「ううん、まだ起きてたよ。明日、友雅さんのお屋敷に移るから、持って行くものをまとめてて」
そうは言っても、別に荷物などたいしてない。
小さな葛籠に着替えの衣類と、藤姫にもらったお守りなど…それくらい。
「それなら良かった。寝ているのを起こすのは、さすがに忍びなかったからね。」
「あ、友雅さん…」
詩紋の後ろに彼の姿を見つけると、あかねは手を休めて葛籠の蓋を閉めた。

「少し話をしたいと思ったのだけれど…良いかな?」
「…良いですよ。まだまだ寝るつもりはなかったんで。」
彼女がそう答えると、先に詩紋が部屋に入って来た。
だが、彼はあかねの目の前を通り過ぎて行き、御簾と蔀を少し上げると、庭先にいた頼久を見つけて声を掛けた。
「頼久さん、すいませんけどー、ちょっとお願いがあるんです。」
……え?急にどうしたんだろ…詩紋くん。
彼の行動にクエスチョンマークを抱きながら、あかねはそれを黙って見ていた。
外で頼久と何かを話している。だが、声ははっきりとは聞こえない。
「神子殿と同じ様に、明日の用意で彼に聞きたいことがあるんだそうだよ。」
「明日の用意で?」
詩紋が支度しなくちゃいけないものって、一体なんだろう?
神子である自分でさえ、用意するものなど衣類くらいしかないというのに。

しばらくして、詩紋が頼久とともに顔を出した。
「じゃ、ちょっと頼久さん借りるね!」
「えっ?何、連れて行かなきゃならないような用事なの?」
「はあ、申し訳ありません。少し、打ち合わせのようなものもありまして…」
一体どんなことを相談するというんだろう?さっぱり検討が付かないが…。
「それでは、少々席を外させて頂きますので、私が戻るまで神子殿をどうぞよろしくお願い致します、友雅殿。」
えっ?とあかねは振り返る。
「ああ、分かったよ。任せておきなさい。」
唖然としたまま、空気の流れに乗れないあかねを残して、頼久は詩紋に連れられて、彼の部屋へと歩いて行った。

「いつも詩紋に世話になってばかりで、正直心苦しくもあるけれど…ここにいる者で私たちのことを知っているのは、彼一人だからね。」
蔀と御簾は再び下げられ、部屋の中は閉じられた。
そして改めて、今ここでは二人きりなのだと気付く。
「悪いね。何となく二人で話をしたくて、頼久を少しの間遠ざけてもらうようにと、詩紋に頼んだんだよ。」
「それじゃ、用事とか打ち合わせって…」
別に、たいしたことではないだろうけれど、時間稼ぎをしてくれるための口実だろう、と友雅は笑った。

「まあ、私もそれほど深刻な話が、あるわけじゃないんだけれどね。ただ、君に相談をする間もなく、色々と決まってしまったものだから、戸惑っているんじゃなかと気がかりでね。」
「…戸惑ってない、とは言いませんけどねぇ…」
あかねはぽつりと本音をこぼした。
「だってその…策は最初に聞いてましたけど、あのっ神泉苑の話!」
「神泉苑…ああ、シリンとのひと騒動の話かい?」
「そ、そうです!あんな話、どこから持って来たんですか!?そんな物語とかが、この世界にあるんですか?」
シリンとやり合ったのは、確かに事実だ。
でも、姫君の話し相手になったあと、帰り道の神泉苑で話していたときにシリンが現れて-----なんて、まったく記憶に無い。
というか、おそらく作り話。
「さあねえ…。私は即興で思い付いたことを言っただけだが、もしかしたらそんな話は、実際にあるのかもしれないね。」
「そ、即興っ!?」
ぱっと思い付いて、あんないかにも的なストーリーが出来上がったというわけか?
自分たちには、それが偽りだと分かっているけれど、知らない者が聞いたら違和感なく耳に入ってしまいそうなほど。

はあ、とあかねは溜息をついた。
「友雅さん、小説家になれますよ…」
「小説家とは何かな?神子殿の世界の、職人か生業人の事かい?」
「…文筆を仕事にしている人のことです。物語とかを書くお仕事です。」
思いつきで、あれだけ作り話が出来れば十分だ。
まったく、やることなすこと驚かされることばかりの…そんな人。
「それなら、これからの私たちの事も物語にしてみようか」
もうすっかり痕もない彼女の手首を、ゆっくりとこちらに引き寄せる。
傾いた彼女の身体を支えて、包み込むように腕をまわして。

「"鬼との最後の争いは、誰一人傷を負う事無く、神子の力によって丸く治まった。そして京には、永遠に続くような安らぎが戻る事になった。"…なんてね。」
「…うん、それは良いですね。それ、絶対にノンフィクションにしなくっちゃ。」
ノンフィクションというのは、作り話じゃなくて事実の物語を言うんですよ、とあかねは友雅の腕の中で笑いながら言った。
そう簡単に行かないかもしれないけれど、そうならなくちゃいけない。
作り話が現実になるために、自分たちが頑張らなくちゃ。

「そして、その続きはね…」
燈台の明かりがゆっくりと燃えて、暖かい光が二人の影を作る。
「"その後、橘少将は最愛の姫君と無事に結ばれ、多くの人々に祝福されて、生涯仲睦まじく愛し合って暮らしました"とか…どうだい?」
「う、うーん…幸せな結末だったら、良い…んじゃないかなーと思いますけど。」
気恥ずかしくて、わざと友雅から目を逸らして答える。
少し、他人行儀な口振りで。
「じゃあ、"そんな幸せな二人は……若君3人と若姫4人を授かりました…"なんていうのは?」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!私、7人も子ども生むんですか!?」
とんでもない作り話に、びっくりしてあかねは振り返る。
顔が真っ赤になっていることも、もうおかまい無しで。

「ま、それはあくまで…神様に委ねるしかないけれど、きっと良い未来が出来るよ。私たちの力があればね。」
あかねの身体を優しく抱きしめて、そんな甘い戯言を紡ぐ。
渦めく暗い空気が近付きつつあるのも、二人きりでいる時だけはすっかり忘れてしまいそうだ。

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Megumi,Ka

suga