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Trouble in Paradise!!
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| 第25話 (2) |
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藤姫に話をすると、昨日の友雅の屋敷でのこともあるし、出来れば八葉は二人の方が良いと忠告された。
だが、それでも彼女の言葉を受け入れる訳にも行かず、心苦しさを抱きながらも何とか了承を得たあかねは、詩紋とここへやって来た。
「じゃあ泰明さんから、もう新しい榊が届いたんですか?」
「ええ、朝早くに使いの方が、お届けして下さったのですよ。おかげで何事も無く、結界を手直しすることが出来ましたの。」
橘家の侍女は、そう答えて来客二人をもてなしてくれた。
友雅は屋敷に寄らず、そのまま出仕したと聞いていたから、彼の屋敷がどうなっているのか気になっていたのだ。
「昨夜は土御門家の方に、厳重に警護もして頂いて…いつもより安心して休む事が出来ましたわ。神子様のお心遣い、本当に感謝しております。」
「いえ、そんなの全然構わないですよ。私も、皆さんのことが心配でしたから、何もなくてホッとしました。」
異常があったとの連絡はなかったが、それでもどこか気になっていたので。
「昨夜の殿のご様子は、何も変わりはございませんでした?」
差し出された氷入りの蜜水は、ほんのり甘くて美味しい。
いつでもあかねがやって来ても良いように、友雅が用意させているものの一つ。
彼女にとっては馴染みの味だが、詩紋にとっては新鮮な飲み物のようだ。
「友雅さんは…私が寝てるうちに、内裏に出掛けちゃったんですけど…多分何もないと思います。」
「そうでございますか。さすがに土御門の藤姫様の目が届く所では、神子様への過ぎたお戯れは出来ませんものねえ」
「え、ええっ?」
今のは、そういう意味で言っていたのか…。
かあっと顔が赤くなるあかねを、侍女の彼女はにっこり微笑んで見つめている。
「一日も早く、京に本当の平穏が訪れると良いですわね」
「…そうですね。そのためにも、頑張ろうね詩紋くん」
「うん。みんなが平和に暮らせるように、僕も精一杯頑張るよ。」
素焼の碗に汲まれた蜜水を飲み干して、飴色の髪を輝かせながら詩紋は答えた。
「神子様のお部屋をご用意して、その日が訪れるのをお待ちしておりますわ。」
どきっとするような事を、さらりと彼女は口にするので、そのたびあかねはドキドキして頬が熱くなった。
+++++
橘家を後にしたあかね達は、市で賑わう東寺付近を歩きながら帰ることにした。
特にいつもと変わりなく、人々は持ち寄った作物や工芸品、日用品などを売り買いしながら、明るい空気を醸し出している。
「そうなんだ、じゃあ友雅さんの家の侍女さんたちは、随分前からあかねちゃんたちの事は知ってたんだね」
「うん…。大概は外を出歩いてるんだけど、天気が悪かったり一休みしたいときは、お屋敷で休ませてくれてたの。」
だからあんなに、親し気にお互い向き合っていたのか、と詩紋は納得した。
確かに、外は否応でも人目があるし、時には邪魔されない二人の時間が欲しいものなんだろう。
そういう時に好都合なのは、我が家であるということか。
「あ、あの…さっき、お部屋用意して待ってる、って言ってたよね…。それってやっぱり…」
「えっ?あ、あ…ど…どうなんだろうね…あははは。」
真っ赤になりながら、あかねは頭を掻きながら笑って誤摩化そうとする。
でも、おそらくそういうつもりで、友雅は用意をさせているんだろう。
いずれ平穏な日が訪れると同時に……彼女が住まうためのその部屋を整えて、その日を待っているに違いない。
………はあ…何か圧倒されちゃうなあ。
ホントに本気で、あかねちゃんのこと好きなんだなあ、友雅さん…。
色付いた桜の実を籠ごと買って、それをつまみながら詩紋は彼女の背中を眺めた。
「いい加減にしろよ!俺はおまえの召使いじゃないんだ!」
「うるさいね!下っ端のおまえが、私に口答えするんじゃないよ!」
「そっちこそ、子供だからってこき使うな!オバさんのくせに!」
「何だって!?それが女に対する言葉遣いかい!?」
「オヤジだろうがガキだろうが、男なら平気で足で使う図々しいオバさんを、オバさんって言って何が悪い!」
「キーッ!ちょっとおまえっ!こっちに来な!!」
騒々しいけんか腰の会話が聞こえて、立ち止まったあかねたちの視線は、否応でも彼らの姿に注がれた。
一見は、普通の若く美しい女性。そして、一見は年端も無い、幼い少年。
女性は大荷物を少年に持たせ、それでも市に並ぶ作物などを吟味しながら、道を闊歩し続けている。
だが、次々に増える荷物を抱える方は、たまったもんじゃない。
売り言葉に買い言葉で、二人の取っ組み合いは注目の的となっていた。
「綺麗な姉さんだけど…まあ威勢がいいねえ」
「あのチビも、小さいくせに度胸座ってらあ。一歩も引かねえぞ、あれ。」
見物人たちは笑いながら彼らを見ているが、あかねたちは呆然として開いた口が塞がらなかった。
「ねえ…詩紋くん…あの人たち…さぁ……」
「……う、うん…多分…」
姿形はいつもの格好とは違うが、二人の脳裏には、彼らの本当の姿がしっかりと浮かび上がっていた。
東寺の裏庭奥深く進んだところで、騒々しい会話は今も続いていた。
「どうせこんなの買い集めたところで、おまえみたいなのがアクラム様を振り向かせることなんか、出来るわけないだろ!」
山ほど詰まった荷籠を、やっと下ろして一息ついたセフルだったが、シリンへの悪態は休むことはなかった。
「だいたいなあ、この程度のことで、あのアクラム様が落ちると思ってる方が、バカなんだよ!」
「ええいっおだまり!子供に大人の気持ちが分かってたまるかい!」
「分かるわけがないだろ。どーせそんなインチキ。そんな安請け合いなんか信じられるか!」
「きいいいいっ!その口、へしおってやるっ!」
何と言えばいいのか……。
彼らの敵である自分たちが、すぐ近くにいる事など全然察知していないようで。
人目がなくなった場所に移動してからも、更に取っ組み合いと怒鳴り合いは酷くなる一方だ。
これが、京を陥れようとしている鬼の面々…なのだ。これでも。
「退散しよっか…何か、騒いでるようにしか見えないし…」
「うん…あとでみんなに話しておけば、平気…かな。」
話すと言っても、どう話せば良いのやら。
市で山ほど買い物していたシリンの荷物を、持ち歩かされて怒鳴っていたセフルと…二人が取っ組み合いしていた…と言っても、全然深刻な雰囲気は無い。
とにかく、ここをうろついていても仕方ない。
ふいに存在を気付かれたら、余計な方向に発展してしまいそうだ。
黙ってこっそり、この場を立ち去るのが懸命だと思った二人は、そっと足音を忍ばせながら、来た道を戻って行った。
金堂に辿り着いた。その角を曲がれば、彼らの視界範囲から完全に外れる。
これで一安心…と思ったとたん。
バフッ。白檀のような…お香のかおりが鼻をくすぐる。
あかねたちは、目の前にいる人物に正面衝突した。
「おや、どういたしましたか、こんな裏庭で」
立っていたのは、東寺の住職だった。
「ん……?そなた方、龍神の神子と地の朱雀ではないですかな。」
二人の顔を見ると、住職はそう問い掛けた。
穢れ祓いや祠探しなどの他、永泉と住職が親しいこともあり、いろいろな理由で何度も訪れた東寺。
その度に挨拶を交わしていたので、顔を覚えていても無理の無いことだった。
「今日は如何なさったのかな。また、鬼とやらがひと暴れでもしましたかな」
「え、いえ、そういうわけじゃな……」
あかねの腕を、詩紋が思いきりぐっと引っ張った。
声もなく、彼は後ろをじっと見る。
そして彼女も同じように、その視線の先を見ようとすると…そこには、こちらを睨んで立ち尽くしている女性と少年の姿があった。
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