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Trouble in Paradise!!
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| 第15話 (1) |
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昨日、ちょっと意地悪なことをしてしまったから、機嫌を損ねてしまったかな…。
少しひねくれた手段ではあったけれど、その中で期待通りの彼女の本心がこぼれてくれれば良いのだが。
おそらく、かなり問い詰めたであろう天真か、または同席していたであろう詩紋に、それとなく尋ねてみよう。
そんな事を考えながら、今朝も土御門家へと向かった友雅だった。
「今朝も早くから、ご苦労様です。」
まず、最初に出迎えてくれたのは藤姫だった。
…彼女も、何か知っているだろうか。ひとつ、さりげなく問いかけてみようか。
「そういえば、昨日は個人的なことを随分と聞かれたけれど…その後の天真たちの反応はどうだったのかな?。」
「え?あ…そ、そうですわね…ええ。本当に、結婚されるなんて、本当に喜ばしいことでございますわね…っ!」
一応、そう答えた藤姫は笑顔である…が、どうも作り笑いのようで妙な表情だ。
いつもなら、幼女とは思えぬほど芯の通った話し方をするのに、口調もどこかおぼつかない。
あれから…何かあったのか?
「神子様、友雅殿がお越しになられております。」
辿り着いた部屋の戸を開けて、その部屋の主の姿を見る。
"さて…どうやって姫君のご機嫌を取ろうかな。思い切り甘い台詞で、抱きしめてあげようか…"
衝立の向こうから藤姫の許しが出たので、友雅は部屋の中に足を踏み入れた。
そこには、彼が何よりも愛おしい女性がいた。
……が。
「おはようございます。」
あかねはいつものように、そう言って友雅を笑顔で迎え入れた。
だが、何かが違う。
覇気というのだろうか…輝きがいつもよりも鈍いような気がする。
昨日悪ふざけをしてしまったから、怒っているだろうと思って機嫌を取るつもりではいたけれど、それとは違う彼女の様子に、友雅は戸惑いを覚えた。
「神子殿、もしかして…具合でも悪いのかい?」
「え?全然そんなことはないですよ?普通に…朝ご飯も食べたし。」
「また、この間のように無理をすることはないんだよ?少しでも体調が優れないのなら、出掛けなくても良いだろう?」
振り向いた先にいた、藤姫に同意してもらおうと声をかけると、また彼女も少しどきっとして目が浮ついていた。
どうした?あかねにしろ藤姫にしろ、いつもとは明らかに違う。
「大丈夫ですよ。全然元気ですから!ね、藤姫?」
「え、ええ…何も問題はございませんわよ、友雅殿。ですから、是非ご一緒にお出かけになって下さいませ」
…とは言われても。
表向きは納得しても、こんなあかねの姿を黙って見ていられるわけがない。
出会ってまだ半年も経たないとは言え、輪郭の一つでさえ思い出せるくらい、強く彼女の姿を見つめて来たのだ。
表情の輝かない彼女など、見ていたくはない。
「では、その…もうお一人の八葉は、どなたに致しますか?」
藤姫が尋ねた。
本当なら、このまま二人で出掛けて…彼女に真実を問い詰めたい気持ちもあるが。
「生憎と天真殿は、頼久と父上の外出に付き添いで出掛けておりますの。詩紋殿でしたら、いらっしゃいますけれど…」
友雅は、取り敢えず詩紋の予定を尋ねようと、彼を呼んでもらう事にした。
感情に素直な天真よりは、詩紋の方が客観的な意見を冷静に判断出来る。
どちらが良いというわけではないが、昨日の事をさりげなく聞き出すには、詩紋が適役だろうと思う。
しばらくして、詩紋が部屋にやって来た。
「すいません…あのー…僕、今日は嵐山のお寺にちょっと用事があって…」
「それなら、今日は洛西に行ってみよう。途中まででも良いから、一緒に行かないかい?」
不思議と、詩紋もまた妙な戸惑いを帯びた表情をしていたのが、やや気になったところだったのだが、彼は友雅の誘いに対してうなづいた。
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牛車の中で、当たり障りのない話をした。
今日は嵐山の寺院で、僧侶たちが供物を作る日なのだという。たまたま親しくなった住職と話しているうちに、作業を手伝う約束をしたらしい。
「詩紋くんは、お菓子とか作るのが好きなんだもんね。」
「うん…。今までは洋菓子ばっかりだったけど、こっちに来てからは和菓子とかにも興味出て来たよ。甘さ控えめで、素朴だけど上品で良いよね。」
二人は揃って、にこやかに話をしているが…。
どちらもしっくりこない、きしみのような違和感。
それが鮮明に見えて来ないから、友雅としても尋ねるタイミングが掴めずにいる。
「今日のお菓子も作り方覚えたら、帰って作ってみるね。」
にっこりと笑って答えた詩紋に、あかねがうなづこうとした時、友雅が横から口を挟んだ。
「それなら、いずれ私の姫君の分も、詩紋にお願いしたいね。」
一瞬、二人の動きがぴたりと止まった。が、すぐに友雅の言葉に反応して、まずは詩紋が顔を上げた。
「あ…はい…。でもっ、その…僕の作ったもの、お姫さまの口に合うかどうか…」
「いや、きっと大丈夫だよ。豪華な食材よりも、素朴で素直な味の方が好きな人だからね。」
宮廷などでもてなされる料理よりも、採れたての瑞々しい果実の方が好きで。花のガクから少しだけ味わえる、蜜の甘さに喜んでみたり。
隣にいる彼女は、そんな女性だ。
「じゃあ…はい、今度…」
詩紋は快く友雅の願いを聞き入れてくれたが、やはりそれでもどこか、ぎこちない雰囲気は消えなかった。
+++++
嵐山に着くと、詩紋は川沿いで牛車を降りた。寺院は、ここから歩いてすぐの場所だと言う。
友雅たちは少し先へ進み、嵯峨付近まで行こうという事になった。
夕方に、この辺りで合流することを話し合い、詩紋はその場を後にした。
清涼寺付近では、今日も市を広げている人々が多く集まっている。
売る者も買う者も、賑やかで良い雰囲気だ。
「あ、すごい。大きな野菜がいっぱい並んでますね。」
「そうだね。作物がよく育ったという事は、それだけ天候が円満だという事なんだろう。良い傾向だね。」
「良かった。…あ、あっちには綺麗な花が売ってますよ。」
あかねは、次々と市に並ぶ品物を見つけては、そちらへ駆けて行って楽しそうにそれを眺める。
だが、それがカラ元気のようにも見えて、友雅としては少々気が重かった。
「芍薬だね。一番綺麗なものを一輪、もらえるかな?この姫君に。」
鮮やかな紅色の芍薬を指差して、友雅は店の男に言った。
「男から花を捧げられるとは、羨ましいもんだねえ」
「花というのは、女性を飾るためにあるようなものだからね。男には似合わないものだよ。」
大輪の芍薬を男から受け取ると、友雅は自分の手からあかねにそれを手渡した。
「そのお話、例外の殿方もいらっしゃるのではございません?」
やや落ち着きのある女性の声に、友雅たちは振り返った。
そこにいたのは、声の雰囲気と大差ない面持ちの女性である。年の頃なら……友雅と同じか、またはそれ以上だが四十には行かないだろう。
身のこなしはすっきりしているが、衣は仕立ての良い織物。少なくとも、庶民ではないことが一目で分かった。
「随分と久しぶりだね、貴女と顔を合わせるのは」
友雅は、彼女のことを知っているようだった。
自ら声をかけると、相手の女性も穏やかに微笑んで返事をした。
「そうですわね。貴方様が我が家に通われていたのは、いつの頃だったかも覚えていない程。」
芍薬を持ったあかねの手が、女性の言葉にぴくりと反応するように動いた。
"通っていた"……という言葉の意味は、つまり……。
「ぱったりとお嬢様の所へ通われなくなったというのに、お噂だけは耳に入って来ておりますのよ。」
「噂ねえ…。噂ではなくて、一応事実ではあるのだけれど。」
親しげだが、どこか距離を置いたような二人の会話。
隣にいるのに、あかねにはそこにある空気が読めなくて、ただそこでじっと立ちつくすしかなかった。
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